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冬の名物、「鍋」 のこれまで ウェザーマーチャンダイジングと今後

池田恵里フードジャーナリスト
日本の冬と言えば、鍋、食卓出現率も高い(写真:アフロ)

食品のなかでも伸びを見せる鍋つゆ市場

さて今回、冬の代名詞である鍋を取り上げたい。

2014年度の「鍋つゆ」市場の規模は、338億円で対前年比より3.4%増(富士経済)。これは10年間で、2倍の伸長となっている。多くのたれが、縮小傾向のなか、鍋たれはこれからも市場拡大と予想され、調味料のなかで「稀有な存在」とさえ言われている。しかしこれまでの鍋市場を見ると、決して順風ではなかった。各社、定番を軸足に時代と共に鍋を変容させ、具材がより簡易になったこと、水面下では、気温と人間の代謝からひも解いた「売れる時期」がいつなのかを限りなくピンポイントで売り場に並べたことで、ようやくこの数字になっている。

鍋市場 キムチが追い風 鍋つゆ拡大

家庭での鍋市場は、90年以降、喫食率が高まった。これは90年代、キムチの浸透によるところが大きく、匂い、辛さが日本人にも受け入れられるようになり、それを汎用する形でキムチ鍋も上昇したのである。その後、2010年を期に売り上げ低下となり、しゃぶしゃぶ、すきやきのたれも同様にダウンした(富士経済による)。要因として、リーマン後、節約モードとなったことが大きいとされる。しかし,トマト鍋、豆乳鍋等、定番とは違う形での変化球の提案をしかけ、2012年、味の素が一人用のキューブを開発が一気にヒット、2014年にはエバラが個食対応の商品を販売するなど、売り上げは伸長した(富士経済)。

たれの多様化、そして家族世帯が変化していくなか、それにあわせ柔軟に対応した結果である。

使う食材はより簡易に

加えて中に入れる具材、つまり野菜が簡易になったことも大きい。

鍋は、消費者にとって、野菜を多く摂取できる「ヘルシー料理」という位置づけとなっている(アサヒビール「ハピ研」参照)。

因みに、一つの鍋に平日は9種類、休日になると10種類の具材が入る。そして野菜は、平日、休日、いずれも約7種類投入される。

多くの野菜を購入して持ち帰る際、昔は重く(後で申し上げるが白菜など)、面倒であった。

しかし小ポーションの野菜が販売されるようになったこともあって、より手っ取り早く鍋が食卓に登場するようになったのだ。

生鮮コンビニ

2000年、ショップ99(後にローソン合併)が野菜を小パック99円で販売することで、所謂、生鮮コンビニの先駆けとなった。震災の年、2011年以降、コンビニはスーパー顧客を奪取し、インフラ化に舵をきった。そして2012年、ローソンが「生鮮コンビニ宣言」を打ち出し、近場(小商圏)にあるコンビニで、食べきりサイズの野菜が購入できることは、消費者にもありがたく、認知され、普及したのだ。

例えば、引越しの見積もり&比較サイト「引越し侍」が2014~2015年にかけて行った調査によれば、鍋に欠かせない具材は、全国で1位が白菜、2位が豆腐、3位が豚肉となっている。

白菜は、丸ごとだと約2・5キロ。買い物をすると重たくて、難儀したものだった。それがコンビニでは4分の1 (625g)にカットしたものが販売されるようになり、随分、楽になった。

と同時に世帯数の減少から適正量になったことで、消費者にとって以前より随分、鍋をしても野菜が残らないようになったのだ。

まとめてみますと・・・

紀文「鍋白書」をグラフにまとめ
紀文「鍋白書」をグラフにまとめ

さて販売する側、つまりコンビニ、スーパーはというと、季節商品と言われる鍋は、いつ販売をしかけるか、これによって「鮮度が命」である野菜を多く使用するため、ロス、欠品率が大きく変わってくるのだ。

気温が上がると売れる。一例、アイスクリーム28度、鍋は・・・

そこで、お客さまがいつ、その商品を食べたくなるのか、気温と人間の基礎代謝に照らし合わせたデーターを元に流通業界、メーカーは販促をかけている。所謂、ウェザーマーチャンダイジングである。一例として、アイスクリームは28度以上(25度という説も)になると急激に売れ、30度以上になるとかき氷が売れ出すことは知られている。

ライフスケープマーケテイングによると、鍋は8月、第3週あたりから「おでん」と同様に出現率は、上昇すると言われる。言われてみれば、コンビニの売り場を見ると、店舗によって違いはあるにせよ、おでん鍋をレジ横に出したり、ひっこめたりする時期がまさしく8月の3週であり、これが鍋の出始めとおでんとは同じなのである。その後、鍋はお盆から9月上旬にかけ、おでん同様に「走りの時期」に突入し、出現率がアップ。おでんは18度、鍋は25度が分岐点で急激に売れ出すとされる。

しかし、その一方で15度という見解もある。

ちなみにKSP-SP.comの図に照らし合わせると、15度が分岐点であることがわかる。

鍋つゆの売り上げ、気温が下がるにつれじわじわ上がり、15度近くでUP
鍋つゆの売り上げ、気温が下がるにつれじわじわ上がり、15度近くでUP

鍋つゆは賞味期限が長期であるが、その中に使用される野菜は・・・

このように各社、顧客のニーズにピンポイントで商品を投入し、可能な限りロス、欠品率を少なくすることに相当に力を入れ、苦心している。しかし最近、一日の気温の寒暖差の激しさ、そして極地豪雨も多々あることからより予測が難しくなった。大量に鍋関連商品を陳列台に設けても、急に豪雨となり、客足が遠のくことがしばしばあり、それが当然、ロスとなる。

極地豪雨に対応すべく、2014年、気象庁が発表した高解像度降水ナウキャスト」の提供を開始がある。

新たに提供する「高解像度降水ナウキャスト」では、30分先までの5分ごとの降水域の分布を250m四方(従来の降水ナウキャストでは1km四方)の細かさで予測し、5分間隔で提供します。この新たな情報を実現するため、気象庁では、平成24年度から全国20カ所の気象ドップラーレーダーの処理装置を順次更新整備し、降水強度の観測を250m四方のデータとして処理できるよう機能を強化するとともに、強い降水域の解析・予測技術の開発を進めてきました。

また、今回の高解像度化に当たっては、気象ドップラーレーダーのデータに加え、気象庁・国土交通省・地方自治体が保有する全国約10,000カ所の雨量計の観測データ、ウィンドプロファイラやラジオゾンデの高層観測データ、国土交通省XRAINのデータも活用し、降水域の内部を立体的に解析することにより、精度向上を図っています。

出典:気象庁

しかしこれをビジネスのデーターとしての活用を考えると、欠品率、ロスまで解消できない。なぜならこのデーター開示は直前であり、事前でないからだ。と言うことで、今後も大いに参考になるウェザーマーチャンダイジングではある。その一方でそれだけではわからない気温、天候の不順が起こっていることも確かで、流通業界、メーカーにとって、鍋商品に限らず、ますます商品の売り上げ予測が難しくなってきている。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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