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小太りの中年男性に新型コロナの衝撃 ジョンソン英首相、ICUで酸素吸入「ギリギリの瀬戸際」

木村正人在英国際ジャーナリスト
症状をツイッターで報告するジョンソン英首相(4月3日、本人のツイッターより)

人工呼吸器はまだ

[ロンドン発]新型コロナウイルスに感染、症状が悪化し入院していたボリス・ジョンソン英首相(55)が4月6日夜、集中治療室(ICU)に移されました。人工呼吸器は装着されていないものの、酸素吸入を受けています。

筆頭国務大臣のドミニク・ラーブ外相が首相の代役を務めます。5日朝に開かれたテレビ閣議でジョンソン首相は発言の時に息切れし、顔色も優れませんでした。

英大学キングス・カレッジ・ロンドンの大津欣也教授(循環器学)は筆者にこう解説します。「肺炎が進行して十分な酸素を体に取り込むことができなくなってきた。そこで酸素吸入を開始して酸素濃度を上げようとした」

「しかし十分な酸素を得られない、あるいは多量の酸素を吸入してやっと必要な血中酸素濃度を得ている。次は人工呼吸器がいるかもしれない。ICUに移しておこうということだと思います」

「詳細な状態が分からないので推測になりますが、今の状況だと死亡率16.3%ぐらい。人工呼吸器になると67.3%になるのでまさにギリギリの瀬戸際だと思います」

「女王メッセージの直後とは、よほど症状が悪化」

別の医療関係者も「肺のレントゲンかCTを撮りに入院したのか。しかし即退院とならなかったのは何らかの酸素吸入補助装置で回復を促しているのではないかと思います」と指摘します。

「エリザベス英女王のTVメッセージの直後に入院の一報が流れたので、よほど病状が悪化していたのではないかと思わざるを得ません」

「うちの病院では陽性患者の死亡率は45%。先週は50%でしたが、PCR検査数が増えるにつれ患者の母数が増え、徐々に生存率は上がっています。しかしICU患者の場合、死亡率はもっと高いでしょう」

「本人や家族の同意があれば抗インフルエンザ薬アビガン(一般名ファビピラビル)や抗HIV薬などの投与もできるはず。基本的にリサーチ用に一般の患者から希望者募ってそういった薬は投与しているはずです」

ICUに運び込まれた新型コロナウイルス肺炎の患者の生存率は半々です。治療法はまだ見つかっていないため、今はジョンソン首相の回復を祈るしかありません。最近の動きを振り返っておきましょう。

最後の顔出しツイートは4月3日

3月26日、ジョンソン首相が咳と微熱を訴える。PCR検査を受ける

午後8時、首相官邸前で全国の市民とともに医師や看護師らNHS(国民医療サービス)のスタッフに拍手を送り激励

深夜、陽性と判明

3月27日、首相官邸で自己隔離に入る

4月3日、「あなたが家にいることが命を救うので、たとえ天気が良くても今週末は自宅にいて下さい」と最後の顔出しツイート

4月5日午後8時、エリザベス女王が「より良き日は戻ってきます。祖国は成功します。またお会いしましょう」とTVメッセージ

午後9時25分、首相官邸報道官の「ジョンソン首相が検査のため入院した」という一斉の電子メールが筆者にも届く

4月6日、英紙タイムズが「酸素吸入か」と報道、他紙が一斉に後追い

午後1時20分、ジョンソン首相が「私は元気です」とツイート

午後8時17分、ジョンソン首相がICUに移されたことを首相官邸が認める

体力自慢が裏目に

ジョンソン首相は感染が分かってからもテレビ会議を通じて新型コロナウイルス対策の指揮を執り続けていました。ジョンソン首相はイートン校、オックスフォード大学で学んだエリート中のエリート。こういうタイプに多いのが「偉丈夫(いじょうふ)自慢」です。

前出の医療関係者は「自己過信の典型的なケース。ジョンソン首相は自分の健康にかなり自信があったようです」と懸念を示しました。ロックアウト(都市封鎖)になってから、どうしても運動不足になってしまいます。太り過ぎも大きなリスク要因です。

ジョンソン首相は婚約者キャリー・シモンズさん(32)と交際を始めてから随分ダイエットしましたが、2018年12月時点で体重約105キログラム、身長約175センチ。ボディマス指数は筆者が計算したところ34.11です。

イングランド・ウェールズ、北アイルランドで英国民医療サービス(NHS)の集中治療を受けた新型コロナウイルスの患者を調査した報告書によると、患者の平均年齢は60.1歳。男性73%、女性27%。

ボディマス指数25~30未満(過体重)は全体の35.7%、30~40未満(肥満1、2度)30.7%、40以上(肥満3度)7%とICUに運び込まれる患者はジョンソン首相のような小太りの中年男性が多いのが特徴です。新型コロナウイルスはどうやら肥満を好むようです。

規則正しい生活を

免疫学の第一人者である大阪大学免疫学フロンティア研究センターの宮坂昌之招へい教授はこれまでの筆者の取材にこう話しています。

筆者「いろいろ考えてみると人間の免疫システムは非常によくできているように思うのですが、普段から抵抗力、免疫力を高めるためにはどう過ごせば良いですか」

宮坂氏「体内時計を狂わさないこと、つまり、生活リズムを守ることです。というのは、体を守る免疫反応だけでなく、食べる、消化すること、眠ること、すべてが体内時計によって支配されているからです。ですから、体内時計を狂わさないことが大事なのです」

「たとえば、朝早く起きて朝陽を浴びながら散歩をすると、体内時計がうまく動き始めます。夜、決まった時間に寝るとさらに体内時計がうまく動くようになります」

「それから、積極的に体を動かすことも大事です。リンパ球などの免疫細胞は血液やリンパ液に乗って体内をパトロールし、異物を見つけ、排除しようとします。体を動かすと血流、リンパ流が良くなるので、免疫力を維持できるのです」

「食べ物も大事。程よい量で、バランスの良い食事をすることが大事です」

「最後にストレスを避けることです。ストレスにより副腎からコルチゾールというホルモンが作られ、これにより免疫細胞の機能が低下します。ストレスのある時に風邪を引いたり、ヘルペスになったりするのは、このためです」

首相官邸クラスター

先進7カ国(G7)の首脳で感染が判明したのはジョンソン首相が初めてです。入院は検査を受けるためと公式には報じられています。イギリスでは感染が確認されたチャールズ英皇太子(71)も、マット・ハンコック保健・社会福祉相(41)も元気に回復しています。

【3月5日ブリュッセルでEU離脱交渉】

・欧州連合(EU)側の首席交渉官ミシェル・バルニエ氏(3月19日陽性判明)

・イギリス政府の首席交渉官デービッド・フロスト氏(3月20日軽い症状が出て自己隔離に入る)

【首相官邸】

・ドミニク・ラーブ外相(3月11日、風邪の症状がみられるも陰性判明)

・英大学インペリアル・カレッジ・ロンドンのニール・ファーガソン教授(政府の新型コロナウイルス感染症数理モデルの責任者、3月18日乾いた咳が続き、高熱が出たため自己隔離)

・ジョンソン首相(3月27日陽性判明、軽い症状、ICUで治療)

・婚約者のキャリー・シモンズさん(軽い症状で自己隔離し、快方に向かっていると4月4日に発表。妊娠中)

・ハンコック保健相(3月27日陽性判明、軽い症状、回復)

・クリス・ホウィッティ・イングランド主席医務官(3月26日夜、症状が出たため自己隔離。回復)

・ドミニク・カミングス首相上級顧問(3月30日、症状が出たため自己隔離入り)

【英王室】

・チャールズ皇太子(3月25日陽性判明)

・カミラ夫人(陰性判明)

バルニエ氏の感染が分かった時、首相官邸でPCR検査のローラー作戦を実施できていればクラスター(感染者の集団)の発生は防げていたかもしれません。検査能力不足では見えない敵と戦うことはできません。能力拡大はもはや不可欠と言えるでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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