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さあ、都市対抗野球開幕。出場チームのちょっといい話6/大阪ガス

楊順行スポーツライター
第90回都市対抗野球大会は7月13日開幕(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

「ピークは東京ドームの決勝に合わせています」

 橋口博一監督、自信の口ぶりである。今季は、推薦出場のため都市対抗予選がない。しかも岡山、京都、北海道とJABA大会はいずれもリーグ戦で敗退と、調整遅れを懸念する声に答えてのものだ。

 昨年1月に就任すると橋口監督は、

「都市対抗で連覇できるチームをつくろう」  

 そう、所信表明した。その時点で大阪ガスは、2回の準優勝(2000、15年)が最高成績である。一度も優勝したことがないのに、連覇なんて。青柳匠主将(当時)ら選手たちは首をかしげた。だが昨年の都市対抗では、近本光司(現阪神)、若獅子賞を獲得した新人・小深田大翔らを中心とした大胆で果敢な機動力、温水賀一、阪本大樹ら充実した投手陣を軸に、粘り強い戦いで初めての頂点に立った。そして、今年。文字通り連覇を狙えるチームとして、JFE東日本との対戦が決まったときも、

「チャンスなので連覇を狙いにいく。しんどい予選がないのはありがたいし、昨年の補強ポイントは新人で補えました」

 と、史上6チーム目(7回目)の偉業を狙うと力強かった。

体力の貯金と、明確な補強と

 思い出したことがある。春のキャンプにたずねたとき、橋口監督はこう話してくれたのだ。都市対抗予選がない分、例年なら技術練習をする期間にもみっちり鍛えられる。また昨年の都市対抗は左投手と捕手、外野手の3人を補強しましたが、まさにその3ポジションに新人が加入したんです……。前年優勝で推薦出場する場合、都市対抗予選がないという修羅場の経験不足が不安視されるものだ。だが橋口監督はむしろそこを、余裕を持ってトレーニング期間ができるとしてプラスにとらえた。また補強についても、明確だったピースを埋めることができた。自信のある口ぶりには根拠があるのだ。

 なるほどそのキャンプ、大阪ガスナインはグラウンドよりもむしろ、隣接した陸上競技場にいる時間が長かった。走りまくり、振りまくる。ホント、走りのメニューはハードですよ……と教えてくれたのは、新主将になった峰下智弘だ。

「1月の春野キャンプでも、午前中はずっと走ってばかり。でもそれが、体力の貯金になると思います」

 そういえば大阪ガスの陸上競技部といえば、北京オリンピックの400メートルリレー銀メダリスト・朝原宣治氏が所属していた。選手によると、「ときどき、フィールドで見かけます」という朝原氏からは、ちょっとしたフォームのアドバイスをもらうこともあったそうで、それが機動力のスパイスにあるのかもしれない。

 昨年の都市対抗では、5試合で13盗塁を記録。その大きなチームの武器について、「そもそも、一塁にいるだけじゃ点が入りませんから」と橋口監督の考えは明快だ。出塁して終わりではなく、ひとつでも先の塁に行く。その手段のひとつが、盗塁。昨年は、「半分アウトになってもいいつもりで、果敢に走ろう。前向きな失敗は、経験として残る」という姿勢を徹底した。

「ただ、春先にはむちゃくちゃアウトになっていましたね。青柳なんかは1試合で3回アウトになりました。でも、きちんと準備してアウトになるなら、それは"ナイストライ"です。もちろん、グリーンシグナルとはいえ真っ直ぐを投げてくる局面で走ったりするのは無謀ですが、それ以外のアウトは僕の責任。そういい続けているうちに、みんな盗塁に成功するようになり、すると走るのがおもしろくなったようですね」

 昨年の公式戦で15盗塁した近本が抜けた分、盗塁が減るのでは……という声にも、

「確かに大きいですが、その分は全員がひとつずつ上積みすればいい」

 と意に介さない。そういえば主砲の土井翔平も、「去年は肉離れもあったりで、公式戦の盗塁はゼロでしたけど、積極的に走るのはウチのスタイル。今年は行ったろかな」と笑っていたものだ。

竹村誠前監督に捧ぐ

 初戦は、首都大学リーグ三冠王の平山快ら、4人の新人を打線にすえて超攻撃野球を標榜するJFE東日本。だが大阪ガスは、148キロ右腕の温水がいて、昨年優勝までの5試合中3試合の逆転を支えた救援陣も人材・経験ともに豊富で、安定している。

 キャンプ取材のとき。前監督の竹村誠部長にお会いした。こんなにやせた顔を、写真に撮られるのはイヤやな……とおっしゃり、体調を危惧していたが、4月に亡くなった。昨年の都市対抗で優勝すると、「近本はね、(関西学院)大学時代は淡路島の実家から通学していたんですよ。それだけの頑張り屋」とうれしそうに話してくれたっけ。連覇は確かに、簡単ではない。だが、天国に届けたい。土井の言葉を思い出した。

「去年の都市対抗2次予選、第1代表決定戦では、9回2死走者なしまで1点リードしながら、逆転負けしたんです。結局第2代表決定戦で勝ったんですが、野球の怖さをあらためて知りましたね。ただ、考えたんです。相手にそれができるということは、自分たちが9回2死まで負けていても、それができる可能性はあるということ。野球はホントに、何が起きるかわからないんです」

 大阪ガス、偉業への挑戦。初戦は、14日18時にプレーボールの予定である。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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