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ついに世界1位も獲得。勢いが止まらない「Bling-Bang-Bang-Born」の凄さ

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:THE FIRST TAKE YouTube公式チャンネル)

Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」の勢いが止まりません。楽曲が最初に公開されたのは1月7日ですから、既にリリースから2ヶ月以上が経過しているのですが、その勢いは衰えを見せないどころか加速している印象すらあります。

特に象徴的なのは、3月8日〜3月14日のYouTubeのウィークリー楽曲ランキングで、ついに「Bling-Bang-Bang-Born」がグローバルの1位を獲得してしまった点でしょう。

(出典:YouTube music charts)
(出典:YouTube music charts)

YouTubeでの週間視聴回数は3758万回で、2位に700万以上の差をつけての世界1位獲得になります。

こうした勢いもあって、今週のBillboardのGlobal 200では、ついに過去最高となる8位にランクイン。

日本の楽曲でGlobal 200でトップ10入りするのは、LiSAさんの「炎」の8位、YOASOBIの「アイドル」の7位に続く3曲目の快挙になるようです。
参考:Global 200初のトップ10入り、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」上昇の要因とは

「Bling-Bang-Bang-Born」がここまでの大ヒットになった経緯を分析してみると、昨年のYOASOBIの「アイドル」の大ヒットを彷彿とさせる構造が見えてくるのですが、実は「アイドル」以上に凄いヒットである面もあります。

まず、「Bling-Bang-Bang-Born」の大ヒットを構成するポイントは主に下記の3点が挙げられると思います。

■圧倒的に中毒性の高い楽曲の力
■アニメとのタイアップによるスタートダッシュ
■TikTokダンスチャレンジで波に乗る

1つずつご紹介します。

■圧倒的に中毒性の高い楽曲の力

今回の「Bling-Bang-Bang-Born」の大ヒットの要因を一つだけあげろといわれれば、間違いなく「楽曲の力」です。
もともとCreepy Nutsは、DJの世界大会「DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIP FINALS 2019」で優勝した「世界一のDJ」であるDJ松永さんと、ラップのフリースタイル大会である「ULTIMATE MC BATTLE」で3連覇を果たしている日本を代表するラッパーであるR-指定さんのユニットという実力は誰もが認めるグループです。

その2人が近年注目される「ジャージークラブ」を踏襲したトラックの上で展開するR-指定さんの圧倒的なラップと中毒性の高いサビの組み合わさった楽曲の力が、言語を超えて世界の人の心に刺さったのは間違いありません。

THE FIRST TAKEで公開された「Bling-Bang-Bang-Born」の楽曲は、チャンネルの歴史を塗り替える史上最速の1000万再生突破となりましたが、そのコメント欄や関連動画を観ると、世界中の人が2人のテクニックとパワーに圧倒されていることが良く分かります。

Creepy Nutsが、文字通り「世界についに見つかった」楽曲になったと言えるでしょう。

■アニメとのタイアップによるスタートダッシュ

その2人が世界に見つかるきっかけを提供したのは、アニメ「マッシュル」とのタイアップであるのは間違いありません。

特にマッシュルのキャラクターが踊るシュールなダンスは、楽曲の中毒性の高いサビ部分を印象づけるのに間違いなく大きな貢献をしています。

ただ、単純に「マッシュル」人気が、楽曲人気になったというよりは、アニメと楽曲の相乗効果と考える方が正しいでしょう。

例えば、Googleの世界でのアニメの検索数を比較すると、「鬼滅の刃」や「チェンソーマン」に比べると、「マッシュル」の検索数はそれほど多くないことが分かります。

(出典:Googleトレンド 赤「鬼滅の刃」黄「チェンソーマン」青「マッシュル」)
(出典:Googleトレンド 赤「鬼滅の刃」黄「チェンソーマン」青「マッシュル」)

LiSAさんの「炎」の世界チャート入りは、明らかにアニメ「鬼滅の刃」の人気に引っ張られてのものでした。

また「チェンソーマン」の際には、国内では米津さんの日本での人気が楽曲「KICK BACK」からアニメへの注目度に伝播したのに対し、海外では「チェンソーマン」の人気から楽曲や米津さんへの注目度に伝播していた印象があります。

参考:「チェンソーマン」と米津玄師の融合に学ぶ、アニメと音楽のコラボの未来

一方「マッシュル」においては、海外では「Bling-Bang-Bang-Born」が巨大な話題になってから「マッシュル」の注目度も高まると言うサイクルになっているようです。

■TikTokダンスチャレンジで波に乗る

また、この「Bling-Bang-Bang-Born」が楽曲として最初からTikTokを中心としたダンスチャレンジの波に乗ることを狙っていたことが、大ヒットに貢献していることも間違いありません。

「マッシュル」のアニメ制作会社であるアニプレックスは、アニメのMVにおいてサビの部分で踊られているダンスを軸に、MV公開後すぐに「#BBBBダンス」のハッシュタグでダンスチャレンジを開始しています。

実際には、この日本語ハッシュタグを超えて、海外でもすぐにダンスを真似する人たちが現れるため、アニプレックス側の予想を超えて一気に海外にダンスが広がることになります。

参考:海外チャート入りしたCreepy Nutsの「BBBBダンス」に学ぶ、世界への扉の開き方

ただ、「Bling-Bang-Bang-Born」のMVにダンスシーンを組み込んでいなければ、ここまでの大ヒットにならなかった可能性が高いわけです。

TikTokで「Bling-Bang-Bang-Born」の楽曲を使っている動画の数は1月20日の時点でも4万5千を超えていましたが、3月20日時点ではなんと71万本を超えています。

(出典:TikTok)
(出典:TikTok)

こうしたユーザーによる動画が口コミで「Bling-Bang-Bang-Born」の拡がりを作っているのは間違いありません。

関係者の予想をはるかに超える爆発力

こうしてヒットの要因を分析すると、「Bling-Bang-Bang-Born」の大ヒットは、昨年のYOASOBIの「アイドル」の大ヒットと非常に構造が似ていることが分かります。

やはり日本の楽曲が世界に出ていく上で、アニメのタイアップと、TikTokを中心としたダンスチャレンジブームの活用は重要な要素になっていると言えるでしょう。

参考:YOASOBI「アイドル」国際チャート1位の快挙に学ぶ、日本の音楽が世界で勝つ方法

ただ、実は「Bling-Bang-Bang-Born」は「アイドル」の大ヒットよりも、さらにCreepy Nutsやアニプレックス側の予想を超えた爆発力を持っていた面があります。

象徴的なのが、「Bling-Bang-Bang-Born」のフルMVがYouTubeに公開されたのが、つい2週間前という点です。

実は3月3日に、このアニメコラボバージョンとしてのMVが公開されるまで、Creepy NutsのYouTubeには「Bling-Bang-Bang-Born」の公式MVがアップされていませんでした。

アップされていたのはアニプレックスのYouTube側にアップされていたノンクレジットOPムービーのみだったのです。

つまり、「Bling-Bang-Bang-Born」がリリースされてから2ヶ月近くの間、YouTube上には、フルバージョンの公式MVがアップされていなかったことになるのです。
YOASOBIの「アイドル」においては、アニメのムービーよりも先にYOASOBIの公式YouTubeに楽曲のフル動画がアップされていたのとは真反対の展開と言えます。

おそらくは、Creepy Nuts側としては「Bling-Bang-Bang-Born」はあくまで「マッシュル」のために提供した楽曲なので、YouTubeのMVはアニプレックス側にお任せというつもりだったのでしょう。

ハンデを抱えながらも日本の総合チャート7連覇

ただ、実はこれはBillboardなどの音楽チャートにおいてはハンデとなります。

Billboardなどの音楽チャートでは、ストリーミング数やダウンロード数、CDセールス数に、YouTubeの再生数など、さまざまな数値を合算して総合チャートのランキングを決定しています。

YouTubeのデータについては、アーティストや音楽レーベルのチャンネルのMVであれば、楽曲に振られたコードを元に再生数をチャートに反映することができます。

ただ、このコードがアニメ会社やテレビ局のチャンネルでは付与できない場合が多いのです。

そのため、「Bling-Bang-Bang-Born」のチャート情報を見ると、アニメコラボのMVが公開される2週間前まで、YouTubeのポイントが1ポイントも加算されていないことが分かります。

(出典:ビルボードジャパン)
(出典:ビルボードジャパン)

しかし、「Bling-Bang-Bang-Born」が凄まじいのは、このYouTubeのポイントが加算されていない状態も含めて、日本のビルボードの総合チャートを7連覇してしまったという点です。

参考:Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」露出拡大で7週目の総合首位、Number_i「GOAT」は僅差で2位

ある意味では、フルMVがない状態でも総合1位を取れてしまったということは、チャートの順位のための細かい対応などが不要なぐらいの凄まじい勢いで、「Bling-Bang-Bang-Born」が多くの方に広がったという証明と言えるでしょう。

海外向けの本格展開はこれから

ただ、結果的に振り返るとフルMVの公開タイミングが遅れて、THE FIRST TAKEの公開タイミングと重なったことが、今回のYouTubeのウィークリー楽曲ランキングでの世界1位獲得につながっているのが、興味深いところです。

ある意味、Creepy NutsのYouTube展開はベストなタイミングでベストな動画を公開する結果になっているわけです。

今回の大ヒットについて、DJ松永さんは3月17日の「関ジャム 完全燃SHOW」に出演した際に「狙って作れるもんじゃないし、コントロールできない」「マジで全部、結果論だった」と正直な感想を吐露されています。

参考:Creepy Nuts『Bling-Bang-Bang-Born』世界的大ヒットの裏側 「想像を超える展開が…」制作秘話明かす

「Bling-Bang-Bang-Born」の大ヒットは、狙い澄まして成功した大ヒットというよりは、Creepy Nutsと関係者の地道な努力や、取り組みなど、本当に様々な要素が結果的に見事に組み合わさって大ヒットを生んだケースと言えるでしょう。

3月18日には、こうした海外からの反響を踏まえ、「A Guide to Creepy Nuts」という英語字幕のCreepy Nuts紹介動画がアップされ、3月19日には「Bling-Bang-Bang-Born」の歌詞の英訳動画が公開されるなど、Creepy Nuts側の海外向けのYouTube対応も本腰が入ってきたようです。

THE FIRST TAKEの「Bling-Bang-Bang-Born」の動画から、他のCreepy Nutsの楽曲を視聴する海外のユーザーも増えているようです。

まだ、Creepy Nutsは「Bling-Bang-Bang-Born」と共に、世界に見つかったばかり。

これからのCreepy Nutsのさらなる飛躍に注目したいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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