海外記者が見た東京国際映画祭。ゴジラ、細田守…
東京グランプリがドイツの『ブルーム・オブ・イエスタデイ』にもたらされ、11月3日、閉幕した第29回東京国際映画祭。六本木ヒルズアリーナ、野外シアターでの名作上映など新たな企画も多かったが、同時期のハロウィンの狂騒などに比べ、世間的な注目度は例年どおり……という感じ。
この東京国際映画祭(以下、TIFF)、海外の視点ではどう見られているのか。ブラジルから取材に訪れた、映画ジャーナリスト、エレイン・グエリニさんに聞いた。
TIFFにはアジアを中心に海外のジャーナリストが多数やって来る。しかしいくら何でも地球の裏側のブラジルから取材にくるなんて……。じつは毎年、映画祭側が何人かのジャーナリストを「招待」しているのだ。東京までの往復の航空券とホテル代(6泊)を負担。その代わりに、ジャーナリストたちは、それぞれの国の媒体に、TIFFの取材記事を掲載しなくてはならない。
エレインは今回、ブラジルの「グローバル」誌にTIFFでのインタビューなど7本の記事を執筆する予定だという。彼女がTIFFに来るのは、これで3年連続。もちろん毎回、同じ媒体に対してTIFFがお金を出すわけはない。フリーランスである彼女はこの3年間、別の媒体を見つけ、TIFFに申請しているのだ。そこまでして、TIFFに来たい理由について、エレインは次のように語る。
「ブラジルは日系人社会も根付いていて、日本のカルチャーへの関心はとても高い。何より私自身が、日本の怪獣モノやゴジラの大ファン。そんな外国人記者にとって、TIFFのラインナップはひじょうに魅力的なのです。他の映画祭では観られない、日本映画のショーケースなので、私は毎年、東京に来たくて居ても立ってもいられなくなるのです」
たしかに日本映画の「今」を知るには最適な映画祭かもしれない。しかし、どこの国の映画祭も、その国の「今」を体感できるのは共通しているはず。しかし、エレインはTIFFに「居心地の良さ」を感じ、戻ってきたくなるのだという。カンヌ、ヴェネチア、ベルリンの3大映画祭をはじめ、トロントなど世界の主要映画祭を駆け巡る彼女は、なぜそう感じるのか。
「カンヌやヴェネチアなどは殺人的なスケジュールに追われるし(笑)、映画祭によっては、うまくオーガナイズされておらず、ストレスを感じることも多いです。そのオーガナイズ(=きちんと計画、組織だっている)という点で、東京は洗練されていると思う。日本人の気質なのでしょうか。混乱が少ないんですよ。もちろん外国人にとって戸惑うことはありますが、それは文化の違いから生じるわけで、海外旅行をすれば誰もが経験する程度のものです」
今回、エレインは細田守、岩井俊二、黒沢清など日本人にもインタビューしているが、そのインタビューの場でも、日本人気質を実感できたという。
「何人かの記者による合同インタビューは、通常、“弱肉強食”の世界。押しの強い記者がいると、他の記者はまったく口を挟めないケースもあり、海外ではそれが常識です。でも日本では、主催側が全員に平等に質問できるように配慮してくれるのがありがたい。細田守監督にインタビューしたとき、『宮崎駿と比較されることをどう思うか?』というシンプルな質問を、通訳の人は長々と訳していました。後で確認すると、どうやら細田さんは宮崎さんと比較される質問に戸惑っていたらしく、通訳さんがそのあたりの気を遣っていたようでした。こうした微妙な感覚を記事に反映できるのも、日本の取材ならでは、かもしれません」
ゴジラファンのエレインは今回、『シン・ゴジラ』の庵野秀明、樋口真嗣のどちらかの取材を熱望していたが、残念ながら実現できなかった。TIFFで観た『シン・ゴジラ』を、彼女はどう思ったのか。
「正直言って、私にはちょっと長いと感じました。セリフが多すぎませんか(笑)? ただ、ブラジル人の私が観ても、東日本大震災と津波の影響は色濃く感じられ、切実でしたので、日本の観客へのインパクトは納得できます。今回のTIFFでは『キングコング対ゴジラ』の4Kデジタルリマスターが観られたのもうれしかったです。ゴジラとキングコングの戦いは、ハリウッドでリメイクが進行しているので、最高のタイミングですよね」
その「意義」やスポンサーなど、まだまだ課題も多い東京国際映画祭だが、このように海外のジャーナリストを積極的に招き、“草の根”的に評判を広げる地道な活動も続いている。「コンペティションもここ数年は、レベルアップを感じる」とエレイン。次回は記念すべき第30回を迎えるので、特別な企画が用意されるはず。「来年もぜひ東京に戻ってきたい」と、エレインは今から切望している。