中国主席が国賓訪英 祝砲103発で出迎える英国を「先見の明あり」とほめ殺し
英国の忠誠ぶりに目を細める習主席
10月19日から23日の日程で英国を訪問する中国の習近平国家主席が17日、ロイター通信の書面インタビューに応じ、「中国との経済関係を強化するため、英国は先見の明がある戦略的な判断をした」とほめたたえた。
英国のエリザベス女王の招きで習主席は彭麗媛夫人とともに国賓として英国を訪れる。習主席の訪英は、中国南東部の都市・湖州の高官として訪れた1994年以来、21年ぶりだ。
昨年6月に中国の李克強首相が訪英してエリザベス女王に謁見した。今年3月、英王位継承順位2位のウィリアム王子が訪中して習主席と会談。9月にはキャメロン首相の懐刀であるオズボーン財務相が訪中して、習主席の訪英の地ならしを進めてきた。
第二次大戦以来、「特別な関係」を誇ってきた米国のオバマ政権から「これ以上、中国に肩入れするな」と警告されているにもかかわらず、英国は欧米主要国の中でいち早く、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明した。
習主席は、これでもかとばかりに中国に尻尾を振る英国が可愛くて仕方がないようだ。インタビューの中でこう語っている。
「英国は西洋諸国の中で中国に対して最も開かれた国になると表明してきました。これは英国の長期的な利益にかなった先見の明がある戦略的な判断です」「中国は英国と広範囲にわたって、高いレベルで、より深く関わっていくことを楽しみにしています」
習主席と彭夫人の訪英日程を見ると、英国がいかに習主席を歓迎しているかがわかる。
バッキンガム宮殿にお泊り、マンCを見学
【19日夕】
ヒースロー空港到着
【20日】
チャールズ皇太子とカミラ夫人がマンダリン・オリエンタル・ホテルに習主席と彭夫人をお出迎え。ホース・ガーズ・パレードのロイヤル・パビリオン(離宮)でエリザベス女王とフィリップ殿下がお出迎え。習主席がフィリップ殿下と一緒に閲兵。習主席、彭夫人、エリザベス女王、フィリップ殿下の4人が儀装馬車でバッキンガム宮殿に移動。昼食。
英国会議事堂のロイヤル・ギャラリーで習主席が国会議員や招待客の前であいさつ。習主席、彭夫人はクラレンス・ハウス(皇太子公邸)でチャールズ皇太子とカミラ夫人と会談。バッキンガム宮殿で習主席がウィリアム王子と最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首と会談。夜、習主席、彭夫人は女王主催の歓迎公式晩餐会に出席。
【21日】
習主席はインペリアル・カレッジ・ロンドン大学を訪問。女王の次男アンドルー王子やオズボーン財務相が同行。習主席、彭夫人はウィリアム王子とキャサリン妃とともにランカスターハウスで創造的産業イベントを見学。
習主席はキャメロン首相と首相官邸で首脳会談。2人で中国のビジネスサミットを見学。その後、習主席は中国の通信機器メーカー、ファーウェイ(華為技術)を訪問。習主席、彭夫人はアンドルー王子の同伴でギルドホールでの晩餐会に出席。
【22日】
習主席、彭夫人はバッキンガム宮殿でエリザベス女王とフィリップ殿下にお別れ。アンドルー王子の同伴で衛星通信会社インマルサットを見学。その後、孔子学院会議に出席。夕方、キャメロン首相と会食。飛行機でマンチェスターに移動。
【23日】
習主席はオズボーン財務相の同伴でマンチェスター大学を訪問。習主席はキャメロン首相の同伴で、サッカーのイングランド・プレミアリーグのマンチェスター・シティを訪問。キャメロン首相らと昼食。首相の同伴でマンチェスター空港でのイベントに出席。同空港を出発。
王族か、キャメロン首相、オズボーン財務相が常にと言って良いほど同伴している。ものすごい歓迎ぶりだ。グリーンパークやロンドン塔では103発の祝砲が鳴らされる。
中国嫌いと言われてきた皇太子も態度を軟化
チャールズ皇太子は香港返還の際、自分の日記に中国指導者を「ゾッとさせる古いロウ人形」と記し、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と何度も会談。中国の人権状況に厳しく、チベット騒乱に揺れた北京五輪の開会式に出席しない方針を誰よりも早く明らかにした。
1999年に江沢民国家主席(当時)が訪英した際は、江主席主催の晩餐会を欠席。エリザベス英女王がバッキンガム宮殿で主催する歓迎公式晩餐会も欠席するが、カミラ夫人とともに習主席と彭夫人をホテルに出迎え、クラレンス・ハウスに招待するなどの配慮を見せた。
英国の対中国外交を主導しているのは、今や欧米諸国の中で1番の媚中派と評されるまでになったオズボーン財務相。「第一次大戦後に米ドルが世界の準備通貨になった。1980年代には銀行の金融仲介機能が低下し、証券市場が成長した。次の大きな変化は中国の人民元が主要な国際通貨になることだ」というのが持論だ。
キャメロン首相は2012年、セント・ポール大聖堂でダライ・ラマ14世と会談した。オズボーン財務相はこのとき会談に強く反対した。中国の怒りはすさまじく、英国の対中関係は著しく悪化した。今やキャメロン政権は南シナ海など中国の海洋進出、人権問題そっちのけで対中関係強化に突き進む。ダライ・ラマ14世との会談も金輪際ないだろう。
ロンドンを世界最大の人民元オフショア市場に
世界最大の金融仲介業者傘下のEBSブローカーテックによると、中国の人民元は取引量が3番目に多い通貨になった。一方、国際銀行間通信協会(SWIFT)によると、人民元は円を超えて第4位の国債決済通貨になったという。
こうした中、中国政府は中国本土・香港以外で初となる人民元建て国債の発行を英国で計画していると英紙フィナンシャル・タイムズが報じた。習主席の訪英に合わせて発表されるとみられている。まず、中国人民銀行(中央銀行)が短期債を発行するという。
11年にはロンドン市場での人民元取引はほとんどなかったが、現在では中国本土と香港を除くと、ロンドンは世界最大の人民元オフショア市場に成長している。12年には英大手銀行HSBCが人民元建て債券を発行。13年に中国の銀行が人民元建て債券を発行した。
昨年10月には、英財務省が30億元の人民元建て国債を発行した。中国政府以外で人民元建て国債を募集するのは英国が初めてだった。中国との経済関係強化はまだある。
ロンドンとバーミンガムを結ぶ高速鉄道HS2第1フェーズの契約(118億ポンド相当)に参加するよう英国側は中国企業に促した。英南西部のヒンクリー・ポイント原発の開発事業(250億ポンド)の20億ポンドを中国が出資することを確認。南東部のブラッドウェル原発は中国の国営企業が設計や建設を担当する可能性が出てきた。
今年7月以降、中国の人権派弁護士が次々と拘束されている問題を監視している香港の団体(CHRLCG)によると、これまでに拘束・行方不明になったり、取り調べを受けたりした弁護士やスタッフ、人権活動家、家族は少なくとも293人にのぼっている。インターネット上で公安当局による人権侵害を暴露してきた弁護士らが大半で、当局への批判を封じ込める狙いがあるとみられている。
ダライ・ラマ14世は「マネー、マネー、マネーだ」と皮肉り、英誌エコノミストはオズボーン財務相の対中外交を「オズボーン・ドクトリン」と揶揄している。安全保障やサイバーセキュリティーの観点からオズボーン・ドクトリンを警戒する声も上がっているが、英国は習主席の訪英を機に一気に中国一色に染まりそうな勢いだ。
(おわり)