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早指し棋戦をすべて制覇する勢いの藤井聡太竜王、NHK杯で初のベスト8進出! 佐藤天彦九段に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月15日。第72回NHK杯将棋トーナメント3回戦▲藤井聡太竜王(20歳)-△佐藤天彦九段(当時34歳)戦が放映されました。(佐藤九段は1月16日に誕生日を迎えて35歳になっています)

 棋譜は公式ページでも公開されています。

 佐藤九段先手で、戦型は矢倉。藤井竜王は急戦を含みとした現代風の布陣で、比較的早いテンポで進んでいきました。

佐藤「序盤は、この後手の指し方をされたら、だいたいこんな感じにしてみようかなというふうに思っていた順で。あんまり公式戦の前例もないので、やってみてどうかなと思っていたところでした」

 30手目、藤井竜王が歩を突っかけたのに応じ、佐藤九段も動いて難しい戦いに入りました。

藤井「中盤からかなり激しい攻め合いになって。時間がない中で、ちょっとわからないまま指していた時間が長かった一局だったかなと思います。お互いの玉が非常に危険な形になって。その中でどういうふうに指せばいいか、ちょっとわからなかったというところが多かったと思います」

佐藤「中盤以降はすごく激しい攻め合いというか、競り合いで。ちょっとすぐに、ここがすごくよくなかったっていうところが思いつかないようなというか。非常に難しい戦いだったなという感じですね」

 評価値上は佐藤九段リードで迎えた91手目。佐藤九段は考えた末に、受けに回ります。ここは大きな分岐点でした。

佐藤「局面のポイントとしては△6六桂と打たれて▲7七金と上がったあたりかなという気もしますし。まあただそれ以外にも、ちょっと細かいミスとかもあったとは思うので。これだけ長い競り合いだったので、いろいろ、細かいところでいえばポイントもたくさんあるかなと思います」

 早指しならではのスリリングな攻防が続き、形勢は揺れ動きます。藤井玉もかなりピンチの場面がありました。しかし玉を逃がす順を得て、容易につかまらない形となりました。

藤井「△5一玉から△6一玉として、少しこちらの玉が安全な形になったので、そのあたりで指しやすくなったかなと思いました」

 藤井竜王が自陣に受けで打たされた桂は中段に跳ね出します。ついには相手陣の要の銀と交換にいたり、大勢は決しました。

 146手目。藤井竜王は自陣の銀を馬取りに上がります。これが攻防の決め手。佐藤九段は頭に手をやり、残念そうな表情を浮かべます。

「10秒・・・。20秒・・・。1、2」

 そこまで秒を読まれたところで、佐藤九段は机に手をつき「負けました」と投了。藤井竜王が一礼を返して、大熱戦も幕を閉じました。

 藤井竜王はこれで本棋戦で初めてベスト8に進出。次は久保利明九段-中川大輔八段戦の勝者と対戦します。

 本局の放映日、藤井竜王は朝日杯1回戦で阿久津主税八段、2回戦で増田康宏六段と対戦しました。そちらでも苦境に陥りながら、最後は逆転で勝っています。

 藤井竜王は今年度ここまで銀河戦、日本シリーズで優勝しています。このあと朝日杯、NHK杯も優勝すると、史上初めて、現行4つのトーナメント棋戦を年度内ですべて制覇する快挙となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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