Yahoo!ニュース

菅首相総裁選不出馬は予兆があった 気になる「ポスト菅」総裁選の構図と衆院選の日程は

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
総裁選不出馬を電撃表明した菅首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 菅首相は3日午前の自民党臨時役員会で、今月行われる予定の自民党総裁選に不出馬を表明しました。突然の不出馬表明は、菅内閣が今月末で終わることを意味します。衆院選直前での政局は流動的になり、レームダック化した菅内閣の今後とポスト菅を争う自民党総裁選、そして衆院選の動向に一気に注目が集まります。菅首相が総裁選不出馬に至った経緯と総裁選の予想される構図、衆院選の日程について考えていきたいと思います。

菅首相不出馬の予兆は甘利氏にあった

自民党・甘利明税調会長
自民党・甘利明税調会長写真:つのだよしお/アフロ

 菅首相不出馬の速報は、党内外でも衝撃を持って迎えられました。党臨時役員会に出席したメンバーの中からは、「我が耳を疑うとはこのことか」との声も聞こえましたが、本当に予兆はなかったのでしょうか。まずは、そのきっかけとも言えるだろうコメントを紹介したいと思います。

 麻生派の重鎮でもある甘利明党税調会長は、自身のホームページ(1日)に「選挙で選ばれた新総裁が党人事や組閣をするのが常道ですが、総裁選の前に人事を行うという前例のない事態には皆理解に苦しんでいます。」と記しています。また、それに続く形で、「総裁選立候補を表明した翌日、岸田さんが挨拶に来られました。と堂々として会見振りが高評価だったためか、前回より随分逞しく見えました。」とも記したことで、まるで菅首相支持から岸田氏支持に乗り換えたようにも見えます。

 更に3日のラジオ番組で甘利氏は「(自民党内は)風通しが良くないといけない。誰も物を言えないというのは自民党の良さじゃない」「若手でもうすぐ首相ができるんじゃないかと思うのはいっぱいいる」とも述べたことで、「菅おろし」がより鮮明になったとの見方が広がった矢先の菅首相不出馬宣言でした。

 麻生派は党内2番目の派閥であり、甘利氏は同派内で当選回数13回の麻生副総理に次いで大島理森衆院議長と同じ当選回数12回の重鎮議員です。麻生副総理が菅内閣の一員である以上、表だって菅支持・不支持を表明できない中、甘利氏のコメントは実質的な麻生派の温度感をはかるベンチマークとしての機能もあるでしょう。この甘利氏の一連の発言や記載から、麻生派としての支援が期待できなくなったことが決定打だったのでは、と見ることもできるでしょう。

総裁選はどういった候補者が軸になるか

自民党総裁選の日程と仕組み(筆者作成)
自民党総裁選の日程と仕組み(筆者作成)

 それでは「ポスト菅」を争う総裁選は、どのような候補者が出てくるでしょうか。党関係者の中では、総裁選は多くの候補者が出て乱立するような動きになるのでは、と警戒する声も上がっています。フルスペックで行われる予定の自民党総裁選では、1回目の投票で1位の候補者が過半数を超えなければ、1位と2位の候補者による決選投票となります。この点を踏まえて各候補がそれぞれ戦略を持って選挙戦に臨むことになるでしょう。以下、総裁選への出馬が目される各候補について簡単にみていきたいと思います。

岸田文雄 前政調会長

 岸田文雄前政調会長は、正式に出馬表明の記者会見を行い既に総裁選に向けて活動をしている点においてはリードしていると言っても過言ではないでしょう。9月1日にスタートしたばかりのデジタル庁を取り仕切る平井デジタル担当大臣も岸田派で、閣内にもかかわらず早々に岸田氏支持を表明しました。直近では安倍氏・麻生氏とも面会をしており、この「AAライン」を押さえることができれば、当選可能性は高まります。

高市早苗 前総務大臣

 同様に出馬に強い意欲を示しているのが高市早苗前総務相です。保守団結の会を中心とする保守系議員からの支持があることから、既に推薦人20人は確保できているとみられ、菅政権下で止まってしまった改憲の動きなどを掲げて総裁選を展開するとみられています。自民党総裁ならびに総理としては初となる女性という期待も高まっていることから、女性議員票や女性党員・党友票の動向も気になるところです。また、親しいとされる安倍前首相が支持を表明するかどうかにも注目が集まっています。

河野太郎 ワクチン担当大臣

 河野太郎担当大臣は、当初菅内閣の一員である以上、出馬できないとの見方が強くありました。その上で、菅首相の不出馬宣言直後には「まず首相本人の意向を確認したい」とコメントしたことから、その真意を確認した後に出馬の動きを見せる可能性も高いでしょう。麻生派所属議員である河野氏は、派閥内をまとめられるかどうかにくわえて、派閥横断的に集まる中堅・若手議員からの支持を広げられるかが鍵となります。また、総裁選日程の中で地方演説が無くなったことで、ネットに強い河野氏がオンラインを駆使した総裁選挙を展開できるかどうかも見どころです。

石破茂 元幹事長

 石破茂元幹事長は今回の自民党総裁選挙について、まだ具体的な動きを見せていません。ただ、派閥所属議員は必要となる推薦人(20人)を下回っていることからも、出馬は一筋縄ではないとの見方が多く残っています。また、多くの総裁候補が擁立されるようなことになれば、反安倍・反菅といったところを打ち出すこともできなくなり、前回同様厳しい選挙戦となるとみられます。

下村博文 政調会長

 下村博文党政調会長は、総裁選に意欲を一旦は示したものの、菅首相から「総裁選に出馬するならば政調会長は任せられない」とされて出馬を見送った経緯があります。党役員人事を人質にされたことで出馬断念となった下村氏ですが、今回の菅首相不出馬によって党人事も延期となったことで、この縛りはなくなりました。再度挑戦することも可能とは思えますが、一方で菅政権における党政策立案の中心を担った責任もあることで、出馬は難しいのではと見る向きもあります。

菅首相が出ないことで、衆院選の日程はどう変わる

 菅首相が総裁選に不出馬を表明したことで、29日投開票の自民党総裁選では新しい自民党総裁が選出されることになります。

 日程としては、臨時国会を召集した上で、菅内閣が総辞職を行い、首班指名で新しい自民党総裁を新総理に国会で選出することとなります。新総理による内閣組閣と党役員人事を考えれば、当初言われていた任期満了による衆院総選挙の日程(10月5日公示〜17日投開票)は難しいでしょう。

 さらに国会で所信表明演説を行い、代表質問まで行うと、さらに数日の日程が必要です。くわえて党の顔が変わったことで新しい総裁の写真やキャッチコピーの決定、それに基づくポスターの制作やマニフェストの作成といった動きを考えれば、10月2週目(4〜8日)か3週目(11〜15日)での解散が考えられるでしょう。そうなると、解散総選挙の日程は早くて10月19日公示〜10月31日投開票、遅くて11月2日公示〜14日投開票を軸に検討される可能性が高いとみられます。

 レームダック化した菅内閣に対する(おそらく最後となる)世論調査が今週末にも行われると思いますが、この結果からどれぐらい新内閣が支持率を上げることになるかによって、衆院選の結果も大きく変わる可能性が出てきました。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

大濱崎卓真の最近の記事