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新承認薬ですすむ新型コロナ治療 現時点での治療薬まとめ

倉原優呼吸器内科医
photoACより

オミクロン株の感染が拡大し、感染者が急増しています。軽症者は自宅療養や宿泊療養となりますが、肺炎があったり酸素を吸わないといけなかったりする中等症以上になると、入院が必要になります。

さて、新規に承認された薬剤が増えたため、ここで一度新型コロナ治療についておさらいしておきましょう。

新型コロナの治療薬まとめ

新型コロナ治療薬には、①ウイルスが増えるのを抑える抗ウイルス薬、②ウイルスの侵入を防ぐ抗体薬、③ウイルスによる炎症を抑える抗炎症薬、の3種類あります。

薬剤が増えてややこしくなってきましたが、現在の新型コロナ治療薬はのようになります。

図. 新型コロナ治療薬まとめ(筆者作成)
図. 新型コロナ治療薬まとめ(筆者作成)

無症状感染者や濃厚接触者へ抗体カクテル療法を使って発症を予防する方法があったのですが、いわゆる抗体カクテル療法である抗体薬カシリビマブ/イムデビマブ(商品名ロナプリーブ)はオミクロン株に効果がないことが分かり、この手法は実質消えてしまいました。

軽症~中等症Iの治療に加わった抗ウイルス薬

「軽症」というのは、指にはさむパルスオキシメーターで測定する酸素飽和度が低くなく(96%以上)、咳以外の呼吸器症状がなく、肺炎がない状態のことです。オミクロン株では、とてものどが痛くなり、発熱も相まって食事がじゅうぶん摂れない患者さんもいますが、たとえ点滴が必要になっても軽症と分類されます。

検査の結果、肺炎があると、「中等症I」になります。中等症Iは、軽症寄りの中等症です。

軽症~中等症Iの全員に治療の適応があるわけではなく、高齢者・癌・肥満などの重症化リスク因子がある患者さんに治療薬が投与されます(1)()。

表. 新型コロナ軽症~中等症Iに対する治療(筆者作成)
表. 新型コロナ軽症~中等症Iに対する治療(筆者作成)

今後、軽症~中等症Iの抗ウイルス薬として、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名パキロビッド)が近日中に承認される見込みです。治療選択肢が増えることにより、より軽症者へ治療薬が渡りやすくなります。

現在、軽症~中等症Iには抗体薬であるソトロビマブ(商品名ゼビュディ)がよく用いられています。ワクチン接種歴や新型コロナ罹患歴に関係なく投与可能です。1回の投与で済むため、外来や入院待機ステーションで投与しやすいです。

経口抗ウイルス薬のモルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)は、大きなカプセルを1日に8つも服用しなければならず、高齢者にとってはなかなかしんどい治療になります。生殖毒性があり、若い患者さんでは男女ともに性交渉をしばらく控えたり避妊をおこなう必要があります。ただ、院外薬局でも配布できることから、重症化リスクが高い自宅療養者にとってはよい治療選択肢となります。

最近、これまで中等症以上に用いていた点滴の抗ウイルス薬レムデシビル(商品名ベクルリー)が軽症例に3日間用いることが有効と分かりました(2)。厚労省の指針においても、保険適用外ながらも軽症に用いることが推奨されています(3)。

写真:イメージマート

公費負担でまかなわれている新型コロナ診療において、患者側の自己負担が増えることはないのですが、医療機関にとっては保険適用範囲内かどうかはとても重要です。

たとえば新型コロナにまったく効能・効果が異なる薬を治療薬として使っていた場合、査定を受けて病院の負担が増えることが起こりかねません。そのため、私たち医師は一定のルールのもとに薬を使っているわけです。

諸外国では抗体薬が枯渇している地域もあり、今後ソトロビマブの流通に懸念が生じた場合、その他の抗ウイルス薬が服用できない場合、採血データなどから重症化しそうな可能性が高い場合には、保険適用外である点滴抗ウイルス薬であるレムデシビルを用いることは妥当でしょう。

重症例に使われてきたトシリズマブも承認

2022年1月21日、トシリズマブ(商品名アクテムラ)が承認されました。トシリズマブは新型コロナのパンデミック当初から、重症例に対してコロナ病棟で用いられてきた「奥の手」のような薬剤です。

写真:ロイター/アフロ

分類としては、上述の③ウイルスによる炎症を抑える抗炎症薬、に該当します。

これも長らく保険適用外だったのですが、「サイトカインストーム」という炎症の嵐がひどい症例では、救命のために使用することも少なくありませんでした。

もともとは関節リウマチに用いられる高額な薬剤であり、新型コロナへの使用が「適切でない」と判断されれば病院が損失を被るリスクもゼロではなかったことから、医療従事者にとってもありがたい承認となりました。

まとめ

今後、治療選択肢が増えるのは軽症例です。塩野義製薬のS-217622も今春に承認される可能性があると報道されています。

個々の薬剤の使い分けについてはまだ議論の余地がありますが、アメリカ国立衛生研究所のガイドラインでは、①ニルマトレルビル/リトナビル、②ソトロビマブ、③レムデシビル、④モルヌピラビル、のうちから1つを選ぶよう推奨されています(4)。この中で最も医学的根拠が明確なのは、①と②になります。

(参考)

(1) COVID-19に対する薬物治療の考え方 第12版(URL:https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_drug_220125_2.pdf

(2) Gottlieb R, et al. N Engl J Med 2022; 386:305-315

(3) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000888565.pdf

(4) The COVID-19 Treatment Guidelines Panel's Statement on Therapies for High-Risk, Nonhospitalized Patients With Mild to Moderate COVID-19(URL:https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/therapies/statement-on-therapies-for-high-risk-nonhospitalized-patients/

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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