Yahoo!ニュース

トニー・ブラウンがサンウルブズを「イノベーティブ」に。2020年以降は?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
組織的な攻撃と効果的なキックで相手の穴をえぐる。(写真:アフロ)

 国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズでは来季、トニー・ブラウン新ヘッドコーチが就任。10月5日、運営団体のジャパン・エスアールの渡瀬裕司CEOとともに都内で会見し、2019年のワールドカップ日本大会に挑む日本代表との関係性などについて語った。

 スタンドオフとしてニュージーランド代表経験のあるブラウンは2004年から7シーズン、日本の三洋電機(2011年よりパナソニック)でプレー。当時はスーパーラグビーと日本のトップリーグを両立させ、ハードワーカーとして尊ばれた。

 引退後はパナソニック、オタゴ代表、スーパーラグビーのハイランダーズで指導。ハイランダーズでは2013年にジェイミー・ジョセフヘッドコーチのもとでアシスタントコーチとなり、2015年シーズンでは優勝、2017年はヘッドコーチを務めた。サンウルブズには今季、加わり、ジョセフの下でアシスタントコーチを務めた。また2016年秋から、ジョセフが率いる日本代表のアタックコーチも兼務。サンウルブズと日本代表における攻撃戦術やトライまでの道筋は、この人が描いている。

 この日はサンウルブズの第1次スコッド4名も発表され、フィル・バーリー、レネ・レンジャーの新加入、ジャバ・ブレグバゼ、ヘイデン・パーカーの2シーズン連続での参戦が明らかとなった。バーリーは元ハイランダーズでスコットランド代表キャップを持ち、レンジャーはニュージーランド代表経験者。いずれもセンターでプレーする。ブレグバゼはジョージア代表のフッカーで、パーカーは昨季ゴールキック38本連続成功を成し遂げたスタンドオフだ。

 以下、共同会見時の一問一答(編集箇所あり)。

渡瀬

「皆さん、こんにちは。足元の悪い(雨天)なかお集まりいただきありがとうございます。去年から中心的な役割を担っていたトニー・ブラウンが来季のヘッドコーチになりました。ご挨拶の場を設けさせていただきました。選手は、契約完了して書いて出せる人数は少ないのですが(リリースには上記4名が記載)、これ以外にも昨年と同じメンバー(との契約への準備)をしています。皆さんのご期待を大きく裏切ることはない、そういったメンバーになると思っています」

――日本代表のアシスタントコーチとサンウルブズのヘッドコーチを兼務。難しさは。

ブラウン

「スーパーラグビーのフランチャイズチームのなかで唯一、ふたつのチームを抱えています。ただそれが、よい影響を及ぼし合っています。同じスタイルのプレーをすることで(日本代表が参加する)ワールドカップで素晴らしい成績が残せると思っています」

――シーズン序盤に日本代表の選手は使えず、シーズン終盤には当該選手の合流に伴い好プレーをした選手を外さざるを得なくなるというデメリットはありませんか。

ブラウン

「基本的に、スーパーラグビーのニュージーランドチームと状況が似ています。最初の4試合はオールブラックス(代表選手)を出さないことがある。その間、チームの深さを作ることが大事になる。また、第5ラウンド以降に戻ってきた代表選手はそのチームでプレーする価値があると証明しなくてはなりません。ジェイミーからは、日本代表の選手を必ず使うべきという指示は受けていません。スーパーラグビー終了後(5月)からワールドカップまでの3~4か月でいくつかのウォームアップマッチ(日本代表のテストマッチ)がありますので。スーパーラグビーは、100パーセント、クオリティが高い選手が出場すると考えてください。

 確かに我々は多くのスコッドを抱えます。ただシーズン開始当初は30名ほどの小さなスコッドで臨み、残りのメンバーは日本代表のトレーニングスコッドとして別の場所で練習しています。初めは少しのスコッドで戦い、後半戦は大きなスコッドで戦います。そもそもスーパーラグビーは怪我の多い戦いなので、後半戦に多くの選手がアドバリューしてくれるのはいいことだと思っています。マネージするのは簡単だと思っています。去年も怪我が多かったので、(今季)よりクオリティの高い選手を選べるのは良いことだと思っています」

――日本代表が別動隊で動くなか、サンウルブズの指揮を執る。どちらにどれくらいの期間帯同し、サンウルブズを離れる時は誰があなたの役目をカバーするのか。

ブラウン

「いまちょうど、そのプランニングをしています。私が(サンウルブズに)いない時は、スコット・ハンセン(アシスタントコーチ)がチームをリードし、やることを体現してくれると思います。両軍のスタイルは非常に近く、サンウルブズにしか登場しない外国人選手も、日本のスタイルに対応できる選手しか選んでいません。具体的には、素早く、スキルのある選手です」

――チームの勝利を目指すことと、大義である日本代表候補の育成との両立が難しそうだが。

ブラウン

「その通り、チームの深さを作るのは難しい。例えば3、4名の選手を突然、起用して『素晴らしいプレーをしろ』というのは無理な話です。経験させ、チームのやりたいことをだんだんと理解させていくことが必要で、それは時間がかかります。正直に言いますと、このリーグに風穴を開けるような選手になるには2~3年の時間がかかります。それには継続性が求められます。ただ、その継続性の面では、私がジョセフからヘッドコーチを引き継いだこと、去年のアシスタントコーチの多くが再就任すること、去年いた選手の多くが加わりそうだということなど、よりよい状況があると言えます」

――日本代表勢はいつごろからサンウルブズで起用できるのか。

ブラウン

「そもそも日本代表が誰なのかが決まっていないという前提ですが、当該選手の合流はラウンド5、6あたり。いっぺんに全員が入るというより、徐々に加わってくるイメージです」

――試合ごとの選手選考について。

ブラウン

「日本チーム(日本代表)に所属する選手をジョセフが選び、それ以外の選手から23名のプレイングメンバーを決めるのが私とハンセンの仕事です」

――ジョセフもスタンドオフが少ないことを課題に挙げているが、サンウルブズで若いスタンドオフがチャレンジする機会はあるのか。

ブラウン

「若いスタンドオフ(会見中はフライハーフという言葉を使用)にもチャンスはある。そのチャンスというのは試合に出ることではなく、パーカーらトップ選手と練習するというチャンスです。ここから経験を積んで、しっかりしたパフォーマンスをしてくれると思います」

――打診を受けたタイミングとその時の心境は。

ブラウン

「重要なことは、サンウルブズの継続性。2018年に培ったものを2019年に継続させる。選手もコーチも継続することが大前提にありました。新しいヘッドコーチを連れてくるのは得策ではないと考えていました。ジェイミーをはじめ他のコーチが与えてくれたものを来季も継続すれば、良い結果が生まれると思っています。(オファーされた時期は)はっきりとはわかりませんが、ジェイミーがサンウルブズを離れて日本代表に専念するという話があった頃から、こういう会話は続いていました。数か月に渡る話し合いの中で決まりました」

――ブラウンらしさはどこに出るか。

ブラウン

「私自身、ジョセフと比べると、大分、リラックスした性格だと思っています。私がサンウルブズで体現したいもの、もしくは私のラグビーの観方は、最大限にイノベーティブ(革新的)であるものです。ジョセフが積み上げた戦術やチームカルチャーを土台にすることは変わりません。サンウルブズが2018年に引き続き来季もユニークである点は、先ほど申し上げた通りイノベーティブなラグビーをすることです。ファンの方にまた観たいと思ってもらえるような試合ができると思いますし、私のようなスタイルでプレーするのは世界中でこのチームだけです」

――新戦力2選手について。

渡瀬

「コーチ陣のレコメンデーションもありました。スーパーラグビーで気になる選手ということです。特にセンター、フォワードの後ろ5人という消耗するポジションでは、しっかりと揃えたいなか、2人を早くご紹介できることになりました。もちろん、後ろ5人も去年のメンバーを中心に揃えていきます」

ブラウン

「バーリーは過去にハイランダーズでもプレーしています。サンウルブズのスタイルにもフィットすると思います。スピードを持ってボールを動かせるからです。レンジャーはダイナミックで、スピードもある。素晴らしいボールキャリアで、スキルもサンウルブズにフィットする。またレンジャーはディフェンスでも優れていると付言いたします」

――サンウルブズのシーズン目標は。

ブラウン

「具体的な目標は申し上げられません。私が考えているのは、チームのスタイルを選手にどう浸透させるかです。

 スタイルとは何か。それは試合を観ていただければわかるのですが、スペース、スピードを使うこと、ボールを保持し続けること、ターンオーバーから素早く攻めに転じること、セットプレーを減らすことです。それを相手より上手にできた時、初めて結果がついてきます。そしてそれが、ファンの皆さんが観たいと思えるラグビーになります。優勝とは口にできませんし、日本のメディアをしっかりとフォローしているわけではありませんが、母国ニュージーランドの仲間たちがテレビでサンウルブズを観た時に『すごいね』と言うようにしたいです。新しく、イノベーティブなラグビーをする。それが日本のラグビーです。

 昨季は終盤にやりたいラグビーができるようになった。今年はその流れを引き継いでいける。私は数週間前のことは覚えていますが、昔のことは覚えていない性格です。常に先のチャレンジを楽しみにしているタイプです」

――契約期間は。

渡瀬

「ワールドカップもあるので、まずは2019年ということ。ただ、我々(ジャパン・エスアール)としては彼をどれだけ長く引き留められるか。引っ張りだこでしょうから。日本のためにも、オールブラックスと対決してでも留めておきたいです」

 会見後の取材を総合すれば、来季のサンウルブズは昨季のメンバープラスアルファの陣容となりそう。毎試合、ベストメンバーで勝利を目指しながら、別動隊の日本代表との連携を図ってゆく。渡瀬CEOは、すべての日本代表がサンウルブズでプレーするとは限らない旨も付け加えていた。

 攻撃戦術の構築で多くの選手から信頼されるブラウンには、渡瀬CEOも全幅の信頼を寄せる。

 サンウルブズ始動前年の2015年は、日本ラグビー協会(日本協会)が「日本代表のヘッドコーチが決まらないとサンウルブズのヘッドコーチは決められない」との論旨を発表。その結果、ジョセフの日本代表ヘッドコーチ就任は2016年秋からとなり、それまでの空白期間はサンウルブズのマーク・ハメット初代ヘッドコーチが日本代表のヘッドコーチ代行を担った。

 もっとも渡瀬は、可能であれば2020年以降のヘッドコーチをブラウンに任せたいと話す。日本協会の動き出しに左右されない形で体制を固められれば、むしろ日本協会による日本代表の組閣をプッシュアップできそうだ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事