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ドローンという名のフランケンシュタイン・コンプレックス

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

KNNポール神田です!

2015年、ドローンが、まさにここまで認知されるに至るとは。しかし、ここでもまた、ミスリードしている報道が多過ぎる気がしてならない。まるで鬼っ子となった「ビットコイン」と同様で知らない人ほど、「怖い」ものと認識しているようだ。

ドローンはアタマを持たない雄蜂である

ドローン(Drone)=オスのミツバチである。いわば働き蜂(メス)といつも巣にいて働かないオス蜂のことである。女王蜂と交尾するだけの仕事しかしない。いわばアタマを持たず、女王蜂にコントロールされる仕事の蜂を「ドローン」と呼ぶ。

クアッドコプター(4つのハネのヘリコプター)マルチコプターでもなく、UAV(無人航空機=Unmanned aerial vehicle)でもなく、働かない雄バチ、ドローンが日本では浸透した。また、ドローンは「無人航空機」というよりも、プログラムされて動くロボット的要素のある「無人探査機」の要素が強い。アンドロイドが、古典ギリシャ語の「アンド(男性)」+「ロイド(もどき)」というのと同様に、ドローンは新スタートレック的には、ボーグの寄生体として描かれている。

未知の機械(マシン)への恐れ

人類のDNAの根底には、未知の機械への恐れが常にあるようだ。そう一種の人間以外へのアパルトヘイト(隔離政策)でもある。ギリシャ神話の「プロ(先見性で)メーテウス(考える人)」に火を与えられた時から、道具や武器によって文明を築いてきた。産業革命で農耕の集落社会から、組織社会へと変わった瞬間、現在のプロメーテウスたちは、蒸気から石油へ、そして原子力に至るまでのパワーを経済へと変える錬金術で富を築いた。

ドローンが「空の産業革命」と言われるのは、羽を持たない人類の儚い夢と希望でもある。

「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」
「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」

文学作品では、1818年イギリスのメアリー・シェリーが「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」で人造人間を創造する。1920年チェコのカレル・チャペックが「R.U.R.」でロボット(チェコ語で労働)を創造する。1950年アメリカのアイザック・アシモフは「我はロボット」でロボット三原則(人間への安全性、人間への服従、自己防衛)を発表する。これらの文学は当時の進化するテクノロジーへの恐れを表現している。

新テクノロジーの登場は、常に社会に不安を与える。しかし、その登場後、15年間でようやく理解を生み、30年後には、もはや其のテクノロジーのなかった時代の事は想像すらできなくなるのだ。

しかし、人類は常に「フランケンシュタイン・コンプレックス」に苛まされる。

蒸気機関(1769年)の普及は、機関車(1802年)よりも蒸気船(1783年)のほうが早かった。ゴールドラッシュ(1849年)バブル時、浦賀に到着したペリーの黒船(1853年)に当時の日本は蒸気の音や空砲に驚愕した。大陸横断鉄道(1869年)はその後に普及していき産業をアクセラレートしていく。

人類は常に、船を恐れ、鉄道を恐れ、写真機(1839年)を恐れ、クルマ(1908年)を恐れてきた歴史を持っている。

ライト兄弟(1903年)が259メートルを飛んだあと、リンドバーグ(1927年)は大西洋を横断し、人工心臓(1935年)も発明した。ライト兄弟から半世紀後には、アポロ11号(1969年)で人類は月面に立つ。テクノロジーは想像以上に新たな社会へと人類を誘う。

ドローンとラジコンヘリの違い

【1】操作性の違い 

スマホでコントロールできたり、初心者でも飛ばせる。ただ、操作ミスや風に弱い。同時にドローン操作のプロ市場の広がり

【2】高精度カメラの搭載飛行が安易

リアルタイムのライブ性 ネット中継でライブ配信も可能 ヘリコプター的な空間視点 4K撮影なども可能。同時にプライバシーについての考え方も必要。

【3】ソーシャル個人メディア化

ライブ配信がインタラクティブ化する。リクエストで撮影場所を応じることも可能。視聴経験の売買も可能だ。

【4】ロボット化

プログラムで無人でも動かすことができる。何度も定点観測をローコストで可能。事故の場合の保険制度なども。遭難した場合の保障なども。

【5】進化の可能性

小型化、静寂化、低廉化、高度化、物流よりもむしろ、調査、探査、検査のセンサー端末としての可能性は無限大である。空の産業革命のまだ、入り口にも立っていない。空の蒸気機関を発見しただけである。

一番注意しなければならないのは、プライバシー保護と兵器での利用制限だ。

ドローンの未来を予測する

15歳の少年のドローン逮捕で話題になるが、少年の違法性は警察国家並みの「威力業務妨害容疑」という別件逮捕だった。ドローンのもたらす法制度やライセンス制度をもっとスピーディーに考え、条例や法律で規制するだけではなく、反対にドローンを自由に飛ばせる場所や可能性を生み出す場も同時に考えなくてはならない。

現行の考え方では、19世紀の英国での「赤旗法」同様に、日本の空の産業革命への進化を遅らせてしまうだけだろう。

Uber ライドシェア実証実験中止における日本の「赤旗法」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/kandatoshiaki/20150310-00043678/

テクノロジーの進化を、社会問題が発生してから、後手で考えるだけではなく、未来の側面からどのように規制し、どのように開放されるべきなのかを、産業育成や雇用拡大の視点でもっと考えるべきだろう。

メディア産業も変わるだろうし、特区の構想も、セキュリティビジネスも。

何よりも、パソコン同様に、個人の可能性が拡大することは確実である。ドローン利用の個人を規制よりも、むしろ兵器利用の国家を規制すべきだ。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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