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Uber ライドシェア実証実験中止における日本の「赤旗法」

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

KNNポール神田です!

オンライン配車サービスの米Uber Technologiesが2月に福岡市で始めた相乗り(ライドシェア)サービス「みんなのUber」について、国土交通省が「道路運送法に抵触する可能性がある」として中止を指導していた問題でUberは3月6日(日本時間)、「第1フェーズを終了した」と発表した。国交省はこのサービスについて、無許可の自動車を使ってタクシー営業する「白タク」行為を禁止する道路運送法に違反する可能性があるとし、中止を指導していた。

出典:Uber、国交省から中止指導のライドシェア実験をいったん終了

Uberは2015年3月6日(日本時間)、「第1フェーズを終了した」と発表した。第1フェーズの検証を踏まえた「第2フェーズ」を検討しているという。Uberは2015年3月5日に、韓国・ソウルでのUberXサービスを停止している。

誠に残念な話が続く…。Uberを利用できる国と利用できない国では確実に差がついていく。日本の国交省が指導したというのは、「無許可の自動車を使ってタクシー営業する」「白タク」を取り締まる道路走行運送車両法の問題だ。つまり、この法律はタクシーの営業妨害を取り締まるためのものだ。

1865〜1896年(慶應元年-明治29年)イギリスで「赤旗法」が制定

1865年イギリスの赤旗法
1865年イギリスの赤旗法

蒸気自動車が乗合バスとして発達したイギリスでは、蒸気バスに旅客をとられた馬車運送業者の議会への圧力や煤煙や騒音による街道住民の反対運動によって、「自動車は郊外で時速4マイル(6.4km/h)以下,市街では時速2マイル(3.2km/h)の速度制限」とし、しかも自動車が走る前方を「赤旗を持った者が先導し、危険物の接近を知らせなければならない」といういわゆる赤旗法が施行'''された。

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自動車は、運転手、機関員、赤い旗を持って車両の60ヤード(55メートル)前方を歩く赤旗者の3名で運用することを規定とされていた。赤い旗かランタンを持った人は、歩く速度を守り、騎手や馬に自動車の接近を予告しなければならなかった。自動車は最低3人いなければ、公道を走行することができなかったのである。

あのロールスロイスの創業者が赤旗法を破った…

イギリス貴族の子弟、チャールズ・スチュアート・ロールズ(当時19歳)は、1896年フランスでプジョーを手に入れたが、イギリスでは赤旗法で満足に走ることができなかった。自動車の未来に希望を抱いていたロールズは、貴族仲間と共に、赤旗法撤廃に向けて運動を起こす。制限速度を無視し、ロンドン市内をハイスピードで走り回った。わざと捕まって、裁判で赤旗法の不条理を訴えようとした。しかし、上流階級の彼らを拘束すれば面倒なことになるため、警官は見て見ぬふりをした。それがきっかけとなりこのバカバカしい法律は廃止されることとなった。後にロールズはフレデリック・ヘンリー・ロイスと共に、ロールス・ロイス社を興す

出典:ロールス・ロイスとベントレー(1906年)

1865〜1896年の31年間「赤旗法」は、イギリスの自動車産業への参入を遠ざけていた。その原因は、馬車運送業者の圧力だったのだ。当時はメインのビジネスへの侵害かもしれないが、未来から歴史を見返すと大きな機会損失だ。1912年(大正元年)、日本のタクシー業界も当初は、6台のタクシーからスタートしたベンチャ−であった。そのビジネスを許可したから今日のタクシー業界があるのだ。

Uberは、19世紀の馬車運送業界と同等の圧力を受けている

今回の、Uberへの国交省の判断は、イギリスの「赤旗法」同様に、日本の「シェアリング市場」全体を、世界の流れから遠ざけようとしているとボクは考えている。現在の日本のタクシー業界は、19世紀の馬車運送業界と全く変わらないのだ。現在のタクシー業界は、限界ある化石燃料のガソリンを燃やしながら、経験とカンに頼って流しの走行を行い営業している(※一部をのぞき)。もはやスマートフォンのGPSをこれだけ持っている時代に流しのタクシーと利用者とのセレンディピティの時代でないことは明確だろう。また、ソフトバンクのインドのタクシー配車サービスOLA(オラ)2.1億ドル(※210億円)で買収するのも、タクシー配車ビジネスの未来が、日本ではなくインドにあると見込んでいるからにちがいない。

また、シェアリング市場においては、AirBnb(エアービンビ)が200億ドル(※2兆円)のバリュエーションと評価されているが、日本においては宿泊施設に関する、保健所への届け出(厚労省)や消防設備(消防庁)などの法律が阻害要因としてまったく普及していない。世界の不動産&ホテルシェアリング革命のなかで、少子化における粗大ゴミ化する負動産を一気に走ってしまっているのだ…。自国の法律によって、未来の世界に誇れる日本のイノベーションをすべて不毛にしてしまっているのだ。

日本のロボット産業発展を遅らせたセグウェイ道交法

政府は2015年度から米セグウェイやトヨタ自動車などの搭乗型移動支援ロボットが全国の公道で実証実験を行えるよう規制を緩和する。現状は国が定めた特区でしか公道での走行実験が原則認められておらず、欧米などに比べて同ロボットの普及を遅らせる主因の一つとなっていた。

出典:セグウェイなど搭乗型移動支援ロボット、規制緩和へ-政府、公道実証を全国に拡大

2015年3月3日、ようやくセグウェイの公道実証が全国に拡大することなった。あまり自慢できることではないが、筆者が、2003年、関係省庁にセグウェイの車両走行の可能性を14箇所に聞いたところ、どこも答えが出せるところがなく、実際にセグウェイによる走行実験イベントを行った。ところがそれは罰金化し道路運送車両法違反ということで50万円の略式起訴(2004年)命令を受けたことがある。しかし、そのうちの30万円は自賠責保険の未加入、道路一方通行の逆行2万円、歩行者用道路の走行2万円などの罰金が含まれていた。整備不良車と言われたが、むしろセグウェイが自賠責保険未加入という事が罰金の大半という一般社団法人日本損害保険協会という保険業界団体の縛りであったことに驚いた。

11年かかっても、まだ実証実験中
11年かかっても、まだ実証実験中

あれから、すでに11年もの年月がかかってようやく全国で、しかも、まだ実証実験段階だ。すでに2015年はドローンが世界各地で飛び回る時代になったというのに。この11年もの間、セグウェイによる通勤実験を行うにも、1人のセグウェイに対して、1人の保安員が必要という。何のためのロボット特区なんだ?延べ9,000キロメートル以上走った実績もあってようやく全国に広がる。ここにもまだ「赤旗法」が残っていた。

法律の順守はもちろん厳格であるべきだが、特区においての実証実験では、今の日本の「シェアリング市場」の可能性の側面に注視すべきだ。江戸時代的な、馬車運送業界や旅籠業界、人籠業界、人力車業界を守ることによって、世界からますます技術も経験も文化も育たない国になってしまう可能性がある。それでなくとも老人大国ニッポンを逸脱するには世界で一番、イノベーションが起こしやすい文化へと舵を斬る最後のチャンスでもあるのだ。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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