霧島山の新燃岳噴火、火山災害は我が身のことと覚悟して
10月11日5時34分、鹿児島・宮崎県境の新燃岳が噴火した。気象庁は、5日に90回近い火山性地震を観測し、噴火警戒レベルを「火口周辺規制」を示す2に引き上げていた。さらに噴火が発生したことや、山体の膨張を示す地殻変動が観測されることから、11日にはさらに警戒レベルを1段階引き上げて「入山規制」にした。噴火が起きたにもかかわらず山体膨張が続いているために、マグマの供給が現在も続いていると考えられる。現時点ではまだマグマが噴出したのか、それとも地下水などがマグマで熱せられて水蒸気爆発を起こしたのかはわかっていないが、今後さらに大きな噴火に至る可能性がある。
今後の推移を見守ることになるが、ここでは「新燃岳」とはどんな火山なのかを解説することにしよう。
およそ20の火山体からなる霧島火山群
国内に111ある活火山の1つが霧島山だが、この山は富士山や浅間山のように、1つの山体をなしているわけではない。20以上の小型の成層火山や火砕丘が集合して火山群をなしている(図)。最高峰は韓国岳(1700メートル)、神話で有名な高千穂峰(1574メートル)、それに御池、大浪池などの多くの火口湖がこの火山群に含まれる。全体の体積はおおよそ50立方キロ、関東では那須岳、九州では雲仙岳とほぼ同じくらいの大きさだ。
霧島火山は約30万年前から活動を開始した。新燃岳は、この火山群の中でも最も新しい山体の一つで、約1万8000年前ごろに韓国岳などとほぼ同時に山体を形成し始めた。約9000年前に大規模な軽石噴火を起こしている。霧島火山群における有史以来の噴火は新燃岳と御池を中心に発生し、この2つで20回を超える噴火があったようだ。
新燃岳の噴火活動
新燃岳では、1716年(享保元年)に始まった噴火が有史以来最大のもので、1.6億トン(0.07立方キロメートル、東京ドーム50杯以上)のマグマを噴出した。この時の噴火は、軽石の噴出に始まり、火砕流や泥流が繰り返し発生した。一方、2011年の噴火では7000万トンの噴出物のうち、約半分は火山灰、残りは火口内に直径500メートルほどの溶岩ドームを形成した。つまり、少なくとも過去2回では噴火のパターンが異なる。今後どのような経緯をたどるかはわからないが、大規模な降灰と共に、火砕流の発生にも注意を払うべきであろう。火砕流は火山灰や火山ガスが一体となった流れで、温度は数百度に達する場合もある。火砕流災害として記憶に残るのは、43名の犠牲者を出した、1991年雲仙・普賢岳であるが、この場合は、山頂付近の溶岩ドームが崩壊して発生した火砕流であった。一方で、新燃岳で発生する可能性が高い火砕流は、火口から立ち上がった噴煙柱が崩壊で発生するタイプのものであり、噴出量が大きい場合には広範囲に広がる可能性がある(図)。
さらに、今後大規模な水蒸気噴火や本格的なマグマ噴火が起きた場合、6年前に誕生した溶岩ドームも吹き飛ばされる可能性もある。この場合は、図の想定よりさらに広い範囲に火砕流が到達し、火山灰や噴石の飛散も強くなると予想される。
火山噴火に再認識を
今回の新燃岳の噴火が、他の近隣の火山、例えば桜島や阿蘇山の噴火に繋がることはない。ましてや、富士山や東北地方の火山が呼応するように活動を始めることは考えられない。何故ならば、それぞれの活火山の下にはマグマを供給して噴出する「システム」が固有に存在しているからだ。つまり、火山の根っこがつながっているわけではないのだ。
しかし、安心は禁物である。日本は世界で最も活火山が密集する火山大国であり、いつどこの火山が噴火してもおかしくない。さらに、あの3・11の影響で東北から関東地方にかけての地盤は引き伸ばされた状態にあり、マグマの活動が活発化する可能性がある。
一昨日の報道番組でのアナウンサーの「霧島近隣の皆様、どうぞご注意ください」との発言には、ちょっと違和感を持った。首都圏は関係ないという雰囲気が漂っているように感じたからだ。
そんなことはない。以前にも紹介したように、富士山で大噴火が起これば都内でも2センチメートルの降灰があると予想される。現在映像で示されている新燃岳近隣よりも激しい降灰が、都内でも起こるのである。今回の新燃岳の活動がこのまま平穏に戻ることを祈りつつ、火山災害は我が身のことと覚悟して備えをしておくのが懸命だ。