“突き刺し系”シンガーソングライター間々田優、アルバム『平成後悔』で問いかける時代の忘れ物とは?
●優れた表現者は時に時代のカナリアとなる。
平成が終わって令和になった。時はすでに令和2年。
00年代に加速した、インターネットによる情報革命。媒介となるパソコン、スマートホンの普及によって、あらゆる産業は“デジタルトランスフォーメーション”として再構築されていく。
しかし、気になるのは時代の忘れもの=平成と令和という時代のミッシングリンクを紡ぐ2019年という記号が持つ謎かけだ。
80年代に誕生したSF映画『ブレードランナー』(1982年)では酸性雨が降る2019年11月のロサンゼルスを舞台としレプリカントによる反乱が描かれ、アニメ映画『AKIRA』(1988年)では第三次世界大戦が勃発後の2019年の新首都ネオ東京にて反政府ゲリラとアーミーとの衝突が描かれた。奇しくも、東京オリンピック前夜である“いま現在”と符合する。
優れた表現者、エンタテインメントは時に時代のカナリアとなる。時代の違和感をあぶり出すのだ。今年、2020年は東京オリンピックが開催される。しかし、あらゆる問題を先延ばしすることで置き忘れたものはないか? 振り返らなくていいのか?
平成を生きた“突き刺し系”シンガーソングライター、間々田優は唄で問いかける。
2020年2月26日、アルバム作品『平成後悔』をリリースする。2019年にレコーディングされた楽曲たちだ。まず、先行配信されたパンキッシュなロックチューン「赤い月・ウサギ」における無常な心の叫びにグッときた。現在、Spotify公式プレイリスト『キラキラポップ:ジャパン』【20,655フォロワー】にて2曲目にキュレーションされた要注目ナンバーだ。
「赤い月・ウサギ」間々田優
死んだら終わりなんだって 教えてもらってなくて
ばらばらだらだら体が溶けて ぜんぶはなまるゴール前
死んだら終わりなんだって あなたが手をひっぱって
そうかなそれなら手にしたいんだ はじめて見えた 光を
ぶら下げられたニンジン。心を縛り付ける手錠のような存在。もやっとしたルールに縛られ、枠組みの中でもがいた生き様。そして、突き抜ける魂の叫び。
●ミドルバラード「吉川美南」の存在
アルバム完成直後、発売前の最新曲「吉川美南」を聴かせてもらった。女性の名前に見えるタイトルなのだが、実はJR武蔵野線の駅名だという。吉川美南駅で偶然出会った子から広がるストーリー。歌詞やメロディーの素晴らしさはもちろん、駅名をタイトルにし、曲名になぞらえたセンスにも感銘したのだ。
「吉川美南」間々田優
君が吉川美南
体預けた空っぽの始発 赤く染まれ
RADがかき消してくれるから どこへだっていい
星を探す窓 揺れる女の子 ななめにぽつり
化粧もまだ前髪のフレームに 僕もいるかな
雰囲気はどこかしら映画『スワロウテイル』(1996年)などで知られる、岩井俊二監督映画のような淡い世界観を醸し出す。
今後ミュージックビデオも発表されるという。先行配信して欲しい願いつつ、2月26日まで温存された名曲の存在。平成カルチャーの遺産と言える音楽雑誌がどんどんなくなり、音楽メディアに影響力がなくなっていく時代。しかしながら、楽曲そのものがストーリーテリングするパワー。歌詞やサウンド、メロディーが織りなすプレゼンテーション力。ストリーミング時代のヒットとしての可能性をこの曲「吉川美南」に感じたのだ。
“突き刺し系”シンガーソングライター 間々田優に期待したい。
間々田優 オフィシャルサイト