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J. Loが売りに出した96階建てタワマン 購入希望の中国人億万長者がタダ者でなかった

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
南北米大陸一高い住居用ビル、432パークアベニュー。(c) Kasumi Abe

高層ビルが乱立するマンハッタンのミッドタウンだが、その中でもさらに一つだけニョキっと突出して高いビルがある。

北米、南米を合わせたアメリカ大陸で一番高い住居用ビルの「432パークアベニュー・コンドミニアム」だ。96階建てで、高さ約426メートル。2015年12月に完成した。

そのペントハウスからはどんな高層ビルも見下ろすことができる。誰が住んでいるのかというと、歌手であり女優のジェニファー・ロペスと元ニューヨーク・ヤンキースのアレックス・ロドリゲスのカップルだ。

2人が購入したのは昨年2月だが、何の理由か1年も経っていない今年の1月、売りに出していることが報じられていた。

432 Park Avenue とは? 

  • 筆者が完成直前の2014年、タワマンの広報を担当するPRCo社に取材をした記事

57丁目の『Race to the Sky』 NYイチの超高層コンドミニアムがマンハッタンの摩天楼を変える(その後廃刊となったPunta誌より転載)

  • ペントハウスのレイアウトイメージとそこからの眺めはこちら CURBED誌

4,000スクエアフィート(約372平方メートル)の広さがあるこのペントハウスは、3ベッドルームに4.5のバスルームを備えている。リビングルームとマスターベッドルームが角部屋にあり、周囲の高層ビル群はもちろんのこと、セントラルパークも眼下に見下ろせる絶景付き。室内にはほかにも、書斎やドレッシングルームなどが設けられているという。

気になるのはなぜこんなにも早く手放すのかということだ。

関係筋によると2人はこのペントハウスを気に入っているが、ジェニファーには前夫マーク・アンソニーとの間にできた双子がおり、4人には手狭だという。また不動産価値も上がったため、希望通りの額で販売できれば2人にとって悪い話ではないだろう。

(* 購入価格は1,530万ドル、約16億660万円、販売価格は1,750万ドル、約19億600万円)

セレブ一家が退居してしまうことになるかもしれない432パークアベニューだが、さすがは「億万長者ビル」。話題には事欠かなかった。

今度は、ある中国人女性が名乗りを上げて話題になっている。

購入希望の中国人億万長者

工場で働いた幼少時代

432パークアベニューのペントハウスの新たな入居希望者として名乗りを上げたのは、中国人女性のジャアン・シン(Zhang Xin)氏。彼女は6,000万ドル(約65億3,000万円相当)でフルフロア物件を希望しているとするニュースが報じられた。

フルフロアとは、1フロア全体で全部の部屋が角部屋という意味だ。金額もまったく異なることから、ジェニファー&アレックスカップルの自宅のさらに上階なのは確実で、「最上階」ではないかと予想されている。

シン氏は上海、香港、北京の不動産開発を手がけるソーホーチャイナ(Soho China)のCEOおよび共同創業者で、北京出身の53歳。夫のパン・シイ(Pan Shiyi)氏との間に息子が2人いる。シン氏の両親は、1950年代に当時のビルマから中国へ移民したため、正確にはビルマ系中国人ということになる。

『ニューヨークポスト』紙によると、彼女は6年前、イタリアの映画監督ヴァレリオ・モラビート (Valerio Morabito)が所有するニューヨーク、アッパーイーストサイドの超高級アパートを、夫と共に2,600万ドル(約28億3,000万円相当)で購入している。

さらに驚くのは、彼女が一代で財を成していることだ。『ニューヨークタイムズ』など地元メディア数紙は、シン氏の驚くべき生い立ちや功績を報じている。

  • 15歳のときに母親と北京から香港へ居を移し、二段ベッドがかつがつ入る狭い部屋で身を寄せ合いながら暮らした。
  • 留学費用を貯めるため、香港にある衣料や電子機器を製造する小さな工場で5年間働き、その後イギリスへ。サセックス大学で修士号、ケンブリッジ大学で博士号を取得した後、香港とニューヨークのゴールドマンサックスで働いた。
  • 2014年、中国人学生がハーバード大学やイェール大学などに留学できるようにするための奨学金として、1億ドル(約109億円相当)を寄付した。

これらの武勇伝はほんの一部なのだが、とにかくシン氏は親の七光りでもただの成金でもなく、大変な苦労人であり、また富を築いた後は学生への還元も忘れていない、尊敬に値する人物であることが伺える。

雨後の筍のごとく日本企業が次々に海外へ進出しては、不動産を転がしながらバブル景気を謳歌したのは今は昔。今はこのような中国のたくましい人々や企業が不動産を「キャッシュで買いまくる」時代となった。

432パークアベニューのペントハウス物件に興味を示している人はシン氏のほかにもいるそうで、特に4,000万ドル(約44億円相当)の値がついているほかの2ユニットも現在契約プロセス中。(購買者の国籍は未発表)

アメリカ大陸一高い住居用ビルの最上階は、このままいけば中国人億万長者の手に渡りそうだ。

(Text and Photo by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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