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イケメンでボクサー、カナダのトルドー首相が女性ボクシングジムに粋な計らい。

谷口輝世子スポーツライター
ボクシングをするカナダのトルドー首相。(写真:ロイター/アフロ)

カナダのトロントに女性のためのボクシングジムがある。トロント・ニューガールズ・ボクシング・クラブだ。

今年10月、このクラブはトルドー首相に11月25日にトロント・ニューガールズ・ボクシング・クラブに来て欲しいと、動画を制作して呼びかけた。

11月25日は女性に対する暴力撤廃の国際デーである。

イケメンで知られるトルドー首相の趣味はボクシング。でも、なぜ、ボクシングジムが「女性に対する暴力撲滅デー」にトルドー首相を招待しようと考えたのか。

1996年にオープンしたこのジムでは、2007年から、暴力の被害にあった女性とトランスジェンダー(心と身体の性が一致していない)の人々を、ボクシングのトレーニングを通じて支援しているのだ。

この支援は、カナダのブロック大学体育学の教授と同ジムのオーナーであり、ボクシングのコーチでもある人物が共同で始めたもの。暴力や性暴力の被害にあった女性やトランスジェンダーは、自分自身の身体に無力感を覚え、自分で自分の身体をコントロールできないという感覚に囚われるという。

そこで同ジムでは、暴力被害者をサポートしようと、週に1度、2時間の無料レッスンを提供。 練習内容はボクサーになるためのものではなく、あくまでもリクリエーションとしてのものだ。体力作りの基本的なトレーニングとサンドバック打ちが中心。お互いを打ち合うスパーリングはせず、その代わりにトレーナーとともにリングに上がり、3分間のラウンドをする。ボクシングのトレーニングを通じて、身体への自信を取り戻し、心身に受けた傷を癒やすのが目的だ。

同ジムのホームページによると、これまでに1200人以上の暴力サバイバーがこのプログラムに参加したという。

地元のテレビ局CTVニュースは、もともと参加者であり、現在はサポートする側になっている暴力サバイバーの女性の声を紹介している。

「産後に鬱状態になり、精神的にとても参っていました。自分自身が分からなくなっていたのです。でも、ここへ来て自分の身体を再発見できる道を歩き始めることができました。身体的に強くなることで、私の身体は、誰かに消費されるためにあるのではないこと。それが分かり始めたのです」。

テレビ局は、このプログラムをジムと共同で立ち上げたブロック大学のバンインゲン教授の手応えも伝えた。同教授は「会話をベースにしたセラピーは、彼女たちが心を開くことの助けになります。しかし、身体的に回復するまでは、何かが欠けたままなのです」と身体からのアプローチの必要性を説いている。

さて、トルドー首相のこのプログラムへの粋な計らいとはどのようなものだったのか。

首相はジムからの動画の招待状に対して、11月25日に動画で返答。これをツイッターなどで公開した。

「残念ながら私は今日、そこに行くことができませんが、私はあなた方のコーナーや希望とともにいます」とメッセージを送った。

そして、「公衆衛生庁から、42万ドル(カナダドル)の財政支援することを発表します」とスピーチを続けたのだ。

ボクシングに限らず、他の種目や方法でも似たようなプログラムを提供しようとしている人たちに、何らかの道筋をつけたいという考えもあるようだ。

閣僚を男女同数にし、ゲイのパレードに参加して話題になったトルドー首相。ボクシングジムの招待動画に、メッセージと財政支援で応えた。トロントの女性のボクシングジムで始まった暴力撲滅と被害にあった人たちを支える取り組みも、イケメンでボクシングを嗜む首相の後押しにより、大きな広がりにつながっていくかもしれない。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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