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韓国のメディアは日韓外相会談の結果をどう伝えたのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ロンドンで実現した日韓外相会談(韓国外交部HPから)

 実現困難とみられていた日韓外相会談が昨日(5日)ロンドンで開かれた。両国外相の会談は昨年2月以来で、茂木敏充外相と鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長による2者会談は初めてである。

(参考資料:韓国が不満を抱いている日本の6つの対韓「外交非礼」)

 日韓外相会談には日本が消極的で、韓国が熱心だったこともあって会談が実現したことで韓国のメディアは速報を流していた。

 テレビでは国営の「KBS」が「韓米日 『朝鮮半島非核化で協力』・・韓日の懸案は平行線」の見出しを掲げ、「韓日外交長官は初めて2者会談を開いたが、慰安婦保障や汚染水などの懸案では一旦、既存の立場を再確認した」と伝えたうえで「公式に配布された写真では両長官は硬い表情で正面を見つめ、会談場には国旗も掲げられていなかった」と会談の雰囲気が良くなかったことも併せて伝えていた。

 「KBS」はこうした雰囲気から察して韓国外交部が「両国は懸案解決のため緊密に意志疎通を図っていくことにしたと明らかにしているが、関係が実質的に改善されるまでには少なからぬ時間がかかるものとみられる」とレポートしていた。

 韓国外交部が配布したプレスリリースを基に伝えていたのが「YTN」(「韓米日外交長官会談に続き韓日外交長官初会合」)で、「KBS」とは違い「簡単には解決できない溝は存在するが、行き詰った韓日関係が今回の会談を通じて両国の意思疎通が本格的に始まる契機となったものと評価されている」と会談が開かれたこと自体に一定の評価を与えていた。

 この他にテレビでは「MBC」(「韓日外交長官初会談・・・過去史の立場の差だけを確認?」)と「TBS」(「韓日外交長官会談・・・原発汚染水・過去史の立場の差を再確認」)それに「チャンネル1」(「韓日外交長官初会談・・・非核化など懸案を論議」)などの媒体が取り上げていた。

 このうち「MBC」は「過去史葛藤以後、日本側は電話による通話も拒否し、今回の会談にも積極的でなかったと伝えられていた。今回の会談で対話の風穴は開いたが、お互いの立場の差を狭めることができるかがカギである」とレポーターの主観を入れずに客観的に伝えていた。

 新聞では保守紙「東亜日報」が「米国の仲裁で向かい合った韓日・・・『原発汚染水憂慮』「韓国の対応憂慮』」の見出しの下、「北朝鮮と中国の問題で韓米日の3か国協力関係を復元させたいバイデン政権が両長官の電撃会談に役割を任った」こと、また「両長官は握手はおろか、肘合わせ挨拶もしなかった。記念写真も強張った姿勢でポーズを取っていた」などと報じていた。

 同紙はまた会談が平行線を辿ったことについては「会談時間が20分では短かったとの指摘が出ている」と伝え、こうしたことから「葛藤懸案に関して両国が接点を探し、実質的な関係改善に繋げるには越えるべき山が多いとの指摘が出ている」と書いていた。

 同じく保守紙「朝鮮日報」(「韓米日外交長官会談後・・鄭義溶・茂木2者会合」)も「鄭長官は周辺4強のうち、米・中・露の外交長官とは相次いで対面会談を行ったが、茂木外相とだけは電話通話もできなかった。『関係改善のためいつ、どこでも会う用意がある』との立場を表明していたが、慰安婦判決と過去史を巡る葛藤のため日本が応じなかったからだ。結局、米国の仲裁のお陰で日本との会談を実現させた」と、「反文政権」紙らしく、会談が実現したのは韓国政府の努力の賜物ではなく、米国の仲裁によるものであることを強調していた。

 逆に、政府寄りの「ハンギョレ新聞」(「韓・日外交長官『20分会合』・・・慰安婦・福島で『平行線』」)と「オーマイニュース」は(「鄭義溶―茂木『20分会談』 双方の主張は依然平行線」)ほぼ同じような見出しを掲げていたものの「ハンギョレ新聞」は「両国は足枷となっている△強制動員被害者の賠償問題△日本軍慰安婦判決△福島汚染水など主要懸案で依然として異見を縮めることができなかったが、両長官が意思の疎通の必要性を強調していたことは行き詰った両国の関係に肯定的に作用する」と評価し、「オーマイニュース」もまた、「対面会談が行われたのは昨年2月以来、1年3か月ぶりである」との聯合ニュースが配信した記事に基づき「韓日外交長官会談を機に今後両国の関係改善に向けて絡んだ糸をほぐしていけるかが注目される」と結んでいた。

 一方、中立系の「国民日報」は「初対面の韓日外交首長『慰安婦・汚染水』お互い言いたいことを言い合った」との見出しで報じていたが、面白いのは「韓国日報」で「今日の1面の写真」に掲載された両外相のツーショット写真に「写真のように冷ややかだった1年3か月ぶりの出会い」のクレジットを付けていた、

 なお、韓国外交部は鄭長官が2月に就任以来、茂木外相にラブコールを送り続けていた会談が実現したことで韓国外交部のホームページに担当部署のアジア太平洋局の名で以下のような会談の内容を即刻、載せていた。

(参考資料:未解決の「日韓紛争」ランキング「ワースト10」)

▲韓国外交部が国民に伝えた会談内容 

 □(両外相は)北東アジアと世界の平和と繁栄のため緊密に協力する必要性に共感し、韓日関係を未来志向で発展させることに意を同じくした。

 □鄭長官は福島原発汚染水の放流決定が周辺国との十分な事前協議もなく行われたことに深い憂慮と共に反対の立場を明確に伝えた。

 ・鄭長官は汚染水の放流は韓国国民の健康と安全、さらに海洋環境に潜在的脅威を及ぼすとして(この問題には)非常に慎重にアプローチすべきであると強調した。

 □茂木外相は日本軍慰安婦被害者提起の損害賠償訴訟判決及び強制動員被害者関連大法院(最高裁)判決問題についての日本側の立場を説明した。

 ・これに対して鄭長官は日本側の正しい歴史認識なくして過去史の問題が解決しないことを強調し、慰安婦及び強制動員被害者関連の韓国側の立場を説明した。

 □北朝鮮問題については朝鮮半島の完全な非核化と恒久的な平和定着に実質的な進展をもたらすため協力する。

 □日韓は懸案解決のため緊密な対話と意思疎通を図っていく。

(参考資料:韓国外相の交代で日韓関係はどうなる!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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