人工衛星は現代の「火の見櫓」になるか
乾燥注意報が全国各地の都道府県に出ているが、空気の乾燥と強風、そして失火が重なると大きな火事につながりかねない。昨年末には米国カリフォルニア州で山火事が続出し、乾燥した熱い空気と季節風のために被害が拡大した。
ドローンで消火活動支援
火災の早期発見と言えば火の見櫓だが、現在では監視カメラなどで画像解析して発見するシステムも開発されている。だが、発見者からの通報も含め、これらの技術は基本的に江戸時代から大きな進歩はない。
米国の航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration、NASA)は火災早期発見にもミッションを負っているが、小型の無人飛行機いわゆるドローンを使った火災発見システムの研究をしている。これはNASAのラングレー研究所などによる実験研究で、低速なためより詳細な観察が可能だ。また、ロサンゼルス市消防局(Los Angeles Fire Department)はドローンを使った消防活動の支援技術を開発中で、昨年末の山火事でも試験したようだ。
山火事などの早期発見のため、NASAは米国魚類野生動植物局(Fish and Wildlife Service、FWS)と共同でドローンを使った実験研究を行っている。Via:NASAのリリース
こうした低空低速のドローン利用は、ピンポイントでの火災状況の確認や消防士らへの情報提供、消火活動支援などで活躍しそうだが、宇宙空間という遙か高空から火事を識別検出し、早期の消火活動に活かす取り組みも始まっている。米国のカリフォルニア大学バークレー校などの研究者が立ち上げた「FUEGO(Fire Urgency Estimator in Geosynchronous Orbit)」もその一つだ。数秒単位で衛星から地上12メートル四方ごとの写真を撮影し、発火点を発見するシステムだが、これによって正確な火災発生場所へ消防チームを導くことができる。
新しいタイプの極軌道衛星を投入
また、NASAは昨年2017年11月18日に、従来にはない新たなタイプの衛星JPSS-1をカリフォルニア州にあるファンデンバーグ空軍基地から打ち上げた。これは気象・環境のモニタリング観測のための気象衛星で、JPSS(Joint Poler Satellite System)という米国の海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration、NOAA)とNASAの共同プロジェクトによるものだ。
すでに、JPSSの極軌道(※1)の気象衛星として2011年にSuomiNPP衛星が打ち上げられ、その情報は各国で利用されている。JPSS-1衛星も極軌道衛星で、SuomiNPP衛星の軌道をトレースしながら約90分ごとに地球を周回する。
この衛星のユニークな点は、軌道上で3Dプリンターなどを起動させて5つの機能を持つ機器を展開し、NOAA-20衛星に変身することだ。その機能の一つに山火事の検知がある。CrlS(Cross-track Infrared Sounder)という赤外線可視放射計で火災の発生による一酸化炭素やメタンガスを測定し、山火事の早期発見に役立てるようだ。
宇宙から観察したワシントン州、オレゴン州、アイダホ州、モンタナ州に拡がる山火事の煙。SuomiNPP衛星より。2015年8月19日の画像データ。Via:NOAA
NASAのAqua衛星(EOS PM-1)から赤外線可視放射計(Moderate resolution Imaging Spectroradiometer、MODIS)で撮影された2017年12月16日の米国カリフォルニア州ベンチュラ沿岸の様子。山火事の煙が太平洋へ流れ出ている。Credits:NASA Goddard LANCE/EOSDIS MODIS Rapid Response Team
火災は早期発見と初期消火が重要だ。ドローンや宇宙空間の人工衛星から山火事を監視する現代の「火の見櫓」が、効果的な活動を始めることができる日も近い。
※1:極軌道とは、赤道との傾斜角で、地球の両極の上空を通るかそれに近い傾斜角の軌道のことで、その軌道を描く人工衛星を極軌道衛星という。地球の自転を利用しながら高度の低い周回軌道を通るため、高緯度地方を含む地球上のほとんどを観察できる。また、VIIRS(Visible Infrared Imaging Radiometer Suite、赤外可視放射計)を搭載するSuomiNPP衛星は、夜間でも可視画像の観測可能なDNB(DAY NIGHT BAND)を持つ。