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米津玄師・Ado・Official髭男dism…奇跡の大豊作だった10月度【月刊レコード大賞】

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
『KICK BACK』米津玄師 official site

 メジャーリーグでは、10月、つまりポストシーズンに活躍する選手を「ミスター・オクトーバー」と呼ぶのですが、日本の音楽シーンにおける今年の「ミスター・オクトーバー」は、レギュラーシーズンに大活躍した選手たちでした。

 実に豊作な1ヶ月。言ってみれば、この10月の音楽シーンはまさに秋の収穫祭――。

 収穫祭のキーワードは「コラボ系」。まずは、米津玄師がKing Gnuの常田大希とアレンジでコラボした『KICK BACK』(作詞・作曲:米津玄師)。

 米津玄師については、本連載の2月度「米津玄師『POP SONG』の魅力は、その見事な歌い出しに詰まっている」で取り上げたのですが、2月のMVPが、10月にも乗り込んできました。

 アホみたいな言い方になりますが、『POP SONG』同様、『KICK BACK』を聴いても、分析的な論評ではなく、ただ「ええがな、ええがな」とつぶやいてしまいます。

 それでも一応、評論家的に言えば、米津玄師の音楽には引用元が見えない。「大衆音楽とは引用音楽だ」と私は考えているのですが、彼の作品は、過去に規定されたジャンルに入らない、つまりジャンルレスな音楽として聴こえてくるのです。

 そういう音楽の多くは、私のような過去の音楽をずっと聴き続けてきた年かさにとって、ある種の抵抗感を感じさせるものなのですが、なぜか米津玄師の音楽は「ええがな、ええがな」になってしまう。おそらくこの数年、何度も接種した「米津ワクチン」によって、彼の声や手癖を、手放しで気持ちよく感じてしまうのでしょう。

 ジャンルレスという意味で言えば、本連載の8月度「Ado(映画『ONE PIECE』のウタ)と幾田りらに腰を抜かした2022年夏」で激賞したAdoも、またすごい曲をリリースしました。この『行方知れず』の作詞・作曲は椎名林檎。

 同じくジャンルレスといっても、米津玄師とは少し違って、Adoの場合は、いろんなジャンルを渡り歩いて、それらを栄養として、自分のボーカル表現をさらに高めている感じがします。

 彼女が今年リリースした曲の中で私は、『世界のつづき』(作詞・作曲:折坂悠太)を推す者でして、つまりは「Adoの本領はバラードだ」と考えるのですが、それでも『ウタカタララバイ』(作詞:TOPHAMHAT-KYO(FAKE TYPE.) 作曲:FAKE TYPE.)とか、この『行方知れず』のインパクトは、世の中的には絶大でしょう。

 これら2曲について驚くのは歌詞です。

『KICK BACK』歌詞

『行方知れず』歌詞

 大げさにいえば、こんな独創的かつ破壊的な文字列は、日本語における一種の革命なんじゃないか。そして、歌詞を執拗に分析する『桑田佳祐論』(新潮新書)などを書いた私などは、桑田が昭和末期に生み出した、言語破壊・再構築の遺伝子の継承を確認してニンマリとするのです。

 最後にもう1曲。こちらは1月度「【月刊レコード大賞】2022年1月の大賞はOfficial髭男dismのヤバい曲」と4月度「香取慎吾『東京SNG』とOfficial髭男dism、GWはスウィングウィークだ【月刊レコード大賞】」で取り上げたOfficial髭男dism(ヒゲダン)の新曲『Subtitle』(作詞・作曲:藤原聡)。

 私世代的には、この曲にクイーンを感じましたよ。「クイーンみ」――重厚なピアノに、幾重にも重ねられたギターとコーラスを核として、凝りに凝って作られた大作。

 というわけで、最後に再度、野球でたとえたら、安定的なヒゲダンが首位打者、映画『ONE PIECE』で場外ホームランをかっ飛ばしたAdoが本塁打王、そして貫禄の米津玄師が打点王常連という感じでしょうか。

 そう考えると、この三冠を1人で獲得した村上宗隆はすごいな、さらにその村上を抑えたオリックスの投手陣もすごいな、ということになります。オリックス・バファローズ、日本一おめでとうございます。

音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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