Ado(映画「ONE PIECE」のウタ)と幾田りらに腰を抜かした2022年夏【月刊レコード大賞】
2022年の夏は、猛暑にさいなまれながら、コロナ「第7波」におびえながら、Adoを聴いていた夏として記憶されていくことでしょう。
8月24日付のビルボード・ジャパンHot100の結果は、驚くべきものでした。
1位『新時代』、3位『私は最強』、4位『逆光』、5位『ウタカタララバイ』、6位『Tot Musica』、10位『風のゆくえ』、12位『世界のつづき』、31位『ビンクスの酒』
これらすべてがAdoの曲だったのです。省略しましたが、曲名の後にはすべて「ウタ from ONE PIECE FILM RED」という文字列が添えられます。
言うまでもなく「ONE PIECE FILM RED」とは、現在大ヒット中のアニメ映画のタイトルで、「ウタ」とは、同映画の主役級キャラクターである歌姫の名前。その「ウタ」が映画の中で歌う楽曲を、実際はAdoが歌っているのです。
もちろん、映画の大ヒットを受けた形で、これらの曲がヒットしているのですが、それでも映画ファン以外の聴き手も誘引しなければ、ここまでの劇的なチャートアクションにはならないはず。
では、映画ファン以外の聴き手も誘引する音楽的魅力は何か? そりゃもう、Adoのボーカルに尽きます。1曲選べと言われれば、折坂悠太が提供した『世界のつづき』を推します。
さぁ、どうでしょう?
東京スポーツ紙の連載で、私はこう書きました――「ゆったりとしたバラードの中で、Adoが歌う・叫ぶ・吠えまくる」「『ざまあみろ』と、聴いたあとに言いたくなる出来」。
Adoのボーカルの魅力は、まずは爆発的な声量です。『世界のつづき』の動画のサビ部分を細かく刻みますが、「♪信じられる」(1分8秒)、「♪星あかりの」(1分14秒)、「♪追い風の」(1分33秒)の歌いっぷりを聴いてみてください。
映画館の大音量で聴きながら、私は腰が抜ける感覚を味わいました。日本の女性ボーカル史で言えば、岩崎宏美や吉田美和、島津亜矢級にまで、今後伸びていく可能性があると思います。
魅力の2点目は「声のデパート」、今風に言えば「声のECサイト」とも言える、声質/歌い方のバリエーションです。この点については、こちらの『ウタカタララバイ』を聴いていただくのがよいでしょう。
こちらについては、東京スポーツ紙にこう書きました――「ロックのようなポップスのような新しい何か――つまりはJポップよりも確実に新しい何か」。
音楽批評界というものがあるとすれば、その潮流として、一種のマニアック志向とでも言いましょうか、まだ広く知られていない音源を、過度に珍重して評価する傾向があると思います。
もちろん、そういう「金の卵」を見つけるのも大切なことなのですが、その真逆として、抜群に支持されながら、かつ、支持される背景に抜群の音楽性がある、黄金色に孵化した楽曲を紹介できるのは、評論家として、何と幸せなことだろうと思うのです。
そんなAdo一色の夏に、もう1曲、もう1人だけ加えるとすれば、TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRAの『Free Free Free feat.幾田りら』。スカパラの要求水準に、幾田りらが天性のボーカルで見事に応え、最後はトランペットまで吹いてしまいます。
そういえば「女性活躍社会」という言葉があったような気がしますが、少なくとも日本のボーカリスト界は、女性、それも若い才能が大活躍しながら、シーンを牽引しています。
「女性活躍社会」などと言い出したネクタイ姿のオジさんたちは、彼女たちから学べばいいのです。何ならまずは、彼女たちの曲をカラオケで歌ってみるとか……いやいや、それ、「女性活躍社会」の推進と同じくらい難しいかも。今月は以上です。
- 『世界のつづき』 作詞・作曲:折坂悠太
- 『ウタカタララバイ』 作詞:TOPHAMHAT-KYO(FAKE TYPE.)、作曲:FAKE TYPE.
- 『Free Free Free feat.幾田りら』 作詞:谷中敦、作曲:NARGO