【月刊レコード大賞】2022年1月の大賞はOfficial髭男dismのヤバい曲
早いもので1月も末日となりました。このたび、このYahoo!個人という場で「月刊レコード大賞」という企画を立ち上げます、音楽評論家のスージー鈴木と申します。
「お前、誰?」というツッコミも聞こえてきそうですが、東京スポーツ(東スポ)という新聞で「オジサンに贈るヒット曲講座」という連載を、毎週毎週、約6年間も続けている者でして、昨年秋には、連載を一冊にまとめた本=『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)が出版されました。
「東スポ」「オジサン」というあたりがポイントで、私もすでに55歳、若者から若者への楽曲紹介ではなく、オジサンからオジサン含む幅広い方々への楽曲「評論」を目指して、やってまいりました。
「月刊レコード大賞」は、東スポ連載のスピンオフとして、毎週毎週取り上げた楽曲の中から、月に1~2曲を、勝手に表彰していこうという企画です。当初は(今後も?)何の権威もないと思いますが、多少の見識があることを自負しながら、地味にやっていきたいと考えています。よろしくお願いします。
早速ですが、記念すべき第1回の大賞は、Official髭男dism『Anarchy』に決定。ヒット中の映画『コンフィデンスマンJP 英雄編』の主題歌。
最近のヒット曲は、妙な言い方ですが「イントロ力(りょく)」が強いと思います。昨年、Vaundyの傑作『踊り子』のイントロにもシビレたものですが、『Anarchy』のイントロも実に強力。
そして、コード進行が何とも不思議。コード(和音)のような音楽理論系の話は、なかなか伝わりづらくて歯がゆいのですが、難しいことが分からなくとも、聴いていて、何となくフラフラ・フワフワした感じがしませんか?
具体的には、マイナー(短調)とメジャー(長調)の間を、キー(主調)がフラフラする不思議な曲で、かつ転調(キーを変えること)もあったりして、聴いている人たちを、とっても妙な気分にさせるのです。
その妙な気分を、私(わたし)的に言葉にすれば「ヤバい」。「あぁ、ヤバい曲聴いちゃったなぁ」。で、この曲が与える「ヤバい」気分を英訳すると「Anarchy」なのだと解釈しました。
先の拙著『平成Jポップと令和歌謡』で私は、Official髭男dismを「Jポップの真打ち」と評したのです。取り上げた曲は『宿命』『イエスタデイ』『I LOVE...』『HELLO』。これでもかこれでもかと攻めてくる濃厚に青春的な音像は、まさに平成Jポップの総決算。そう言えば「感情の水びたし」とも表現しました。
それが、昨年の『Cry Baby』あたりから変化が見え始め、「青春な感情の水びたし」から「ヤバい感情の水びたし」へ。比喩で言えば、テレビ朝日『熱闘甲子園』のテーマソングだった『宿命』から飛び散る液体が青春の透明な汗だったなら、『Cry Baby』や今回の『Anarchy』からは、ちょっと危険な成分が混じった紫色の液体がドロドロと溢れ出るような気がするのです。
で、せっかくだからオジサン向けに、そのヤバさを説明すれば――「80年代前半の沢田研二が歌いそうな曲」。
具体的には『6番目のユ・ウ・ウ・ツ』(82年)に近いものを感じたのです。ムーンライダーズの白井良明の変態アレンジが光る、危険で淫靡で退廃的で、そしてめっぽうヤバい曲。ちょうど40年も前に、あんなヤバい曲を、普通の歌謡番組や、ひいては同年の紅白歌合戦で、お茶の間に向けて歌っていた沢田研二は、何と「アナーキー」だったのかと驚くのですが。
で、ここで翻(ひるがえ)って、若い方に説明すると、「80年代前半の沢田研二が歌いそうな曲」という表現は褒め言葉なのです。それも最上級の。
商品性を作品性が上回り、青春性を「ヤバみ」「アナーキーみ」が上回っていく、新しいOfficial髭男dism、言わば「Un- Official髭男dism」の今後に、期待が高まります。
せっかくなので、次点も発表しておきます。中村佳穂『さよならクレール』。これはポップでキュートで、理屈抜きにいい曲。
デジタルとアナログ、両方を飲み込んで、しっかりと噛み砕いたような声が最大の魅力。東スポの連載で私は「ヒューマナイズド・ボーカロイド」と名付けました。
そう言えば、最近の資生堂のCMで『君のひとみは10000ボルト』(オリジナルは堀内孝雄、1978年)を歌っているのも実は彼女なのですが、サラッとしながらとてもエネルギッシュという、絶妙なラインの声質に魅了されます。
今年は「中村佳穂の時代」になる気がします。昨年の紅白歌合戦という「中村佳穂の時代」への関所を、圧巻のステージで堂々と乗り越えた彼女に、多くの新たなリスナーが「こんにちはクレール」と告げるキッカケとなる曲だと思うのです。では、また来月。