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ベテラン兄弟子・妙義龍と佐田の海が成長を後押し 大相撲3月場所で再十両の對馬洋「幕内に上がりたい」

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
半年ぶりの関取復帰を決めた30歳の對馬洋(写真:すべて筆者撮影)

大相撲初場所、幕下2枚目で5勝2敗と見事勝ち越し、半年ぶりに関取に返り咲いた境川部屋の對馬洋。度重なるケガに泣くも、腐らず這い上がってきた。現在30歳。ここからさらに上の番付を見据える對馬洋には、師匠の境川親方(元小結・両国)をはじめ、ベテランながら第一線で活躍する2人の兄弟子の支えがあった。

妙義龍と佐田の海は「力士としても人間としてもいいお手本」

――再十両おめでとうございます!率直な感想は。

「また十両の土俵に挑戦できるのはうれしいことですし、ここからさらに上、幕内を目指していくことを考えると、気が引き締まる思いです。新十両のときはうれしさが強かったので、ふわふわした感覚でしたが、今回は本当に幕内を目指したいので、しっかり地に足がついている感覚ですね」

――陥落から半年での再十両です。この半年間、どう過ごしていましたか。

「毎日師匠に言われていたのは、新十両を狙うとき以上の強い気持ちがないと再十両には絶対になれないから、あのとき以上に欲を出していかないとダメだということ。ですので、とにかくより強気でいようと思っていました。ケガをしても、どんな状態でも、できることは全部やりたい。そういうものの積み重ねだと、うちの部屋のすごい先輩二人(妙義龍、佐田の海)を見ていて思います。お二人は、力士としても人間としてもいいお手本なので、真似したいです」

――妙義龍関は37歳、佐田の海関は36歳とベテランですが、幕内の第一線で活躍されていますね。お二人のどんなところがすごいと感じますか。

「精神的にも肉体的にも、弱い部分を見せないところ。妙義龍関は食事にもこだわっていますし、佐田の海関はトレーニングなど日常生活から全部相撲につながることをしています。自分から質問することももちろんありますが、常に気にかけてアドバイスをもらっているので、そういった意味でも恵まれているなと思います」

――この半年間も、師匠やお二人からさまざまなアドバイスをもらっていたのかなと思いますが、どんなことを教わってきましたか。

「妙義龍関は、毎日僕の取組を見て具体的なアドバイスをくれます。佐田の海関は、場所中も毎日必ず胸を出してくれて、今日の足の運びはよかったとか、今日の当たりでいけば大丈夫だよなどと言ってくれます。自分の取組も、やらなきゃいけないこともあるのに…。普段見てくれている師匠と先輩方が『大丈夫だ』と言ってくださったことと、稽古場でやってきたことが一番の自信になって、初場所を迎えられました。だからこそ、師匠と稽古をつけてくれる先輩たちのためにも、今回上がれて本当によかったです」

稽古場で、兄弟子の佐田の海(写真右)に胸を出してもらう對馬洋
稽古場で、兄弟子の佐田の海(写真右)に胸を出してもらう對馬洋

バスケ部から相撲の道へ 理想は「中に入る相撲」

――初場所で印象的だった取組はありますか。

「勝ち越しを決めた一番にもなるんですが、5番目の欧勝海戦。僕、入門してから取り直しで勝ったのが初めてだったんです。日に一番だけでもかなり集中力を使うので、取り直しは本当に気持ちの勝負。今回初めて勝てて、成長できたかなと思います。この先も取り直しになることはあると思うし、そのときにこの成功体験が自信になると思うので、よかったです」

――素晴らしいですね。普段から目指している理想はどんな相撲ですか。

「右を差して中に入り、下から前に攻める相撲です。そういう相撲が取れたときに白星につながっていると感じます。中に入れれば、投げもできるし前にも出られるので、攻め方の幅が広がりますよね。最近の稽古のテーマは左の使い方です。左上手を取るまわしの位置を浅くすること。左をうまく使えるようになると番付も上がると思うので、磨きたいです」

稽古中の真剣な表情
稽古中の真剣な表情

――師匠と同じく、長崎県の諫早農業高校、日本大学出身の對馬洋さんですが、相撲を始めたのはいつ頃ですか。

「本格的に始めたのは高校からです。監督の家に下宿して、部活動として打ち込みました。相撲自体は、小学生から地域のクラブでもやっていたんですが、それは遊びの延長程度。中学時代はバスケ部でした。小さい頃から体を動かすのが好きで、野球もサッカーもやるし、とにかくスポーツが好きでした。高校から相撲部に入ったのは、監督の熱意に押されたから。あと、諫早って相撲がすごく盛んで、中学校には土俵があって、昼休みに友達と相撲を取って遊ぶこともあったので、始めるのに抵抗がありませんでした」

――いい環境ですね。高校から本格的に始めてみていかがでしたか。

「最初は全然ついていけませんでした。体重は70キロもない、バスケットの体格だったので。でも、試合で自分より大きい相手に勝つとすごくうれしかったですね。その記憶が、もしかしたらずっと残っているのかもしれません」

――プロ入りを考えたのはいつですか。

「大学を卒業する頃です。一度は一般企業に就職しました。大学時代にたいした成績がないのでなかなか踏み切れなかったんですが、同級生の美ノ海が大相撲に行くと聞いて、悩んだけど一度きりの人生なので、決断したんです。当時、23歳の入門年齢制限があって、23歳を迎える6月の前に約2か月働いたんですが、社長も高校の相撲部OBで、プロ行きを快く後押ししてもらいました。会社に入ってすぐやめたのに、社長はいまもよくしてくれています。銀の締め込みは、その社長が作ってくれたものなんですよ。すごくうれしかったですね」

――では、次の3月場所と、それ以降はどんなところを目標にしていきますか。

「もちろん勝ち越しは絶対にしたいんですが、特に前半戦を大事にしたいです。いつも前半がよくなくて後半に苦しくなるので。そういった意味で、初場所序盤で4連勝できたのはよかったと思っています。だいたいいつも3-3とか7-7で最後が苦しいので、とにかく前半戦を大事にしたい。そうすれば弾みがついて後半も乗っていけるかなと思います」

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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