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英国で猛威を振るうオミクロン株、軽症ならインフレ低下早まる(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
新規感染者数(左端)はブースターで6日前の22万人から急減速=スカイニュースより

英国でオミクロン株が猛威を振るう中、感染拡大阻止の規制強化でインフレ加速が逆転し、金融引き締めを急ぐべきではないとの論調が広がっている。

ボリス・ジョンソン首相は昨年12月8日のテレビ会見で、デルタ株をはるかに上回るオミクロン株の感染力を強調した上で、公共の場でのマスク着用や大型イベントでのワクチン接種パスポートの提示義務化、リモートワークの推奨を柱とする、いわゆる「プランB」に基づく経済活動の緩やかな規制と全成人を対象にしたブースターワクチンの迅速接種に舵を切った。

オミクロン株による世界経済への影響については、米証券大手ゴールドマン・サックスが昨年11月29日、興味深い4つのシナリオを提示している。

1つ目は「悲観的」で、オミクロン株の感染力が強く、2022年1-3月期の世界経済の成長率が前期比年率2%増に減速。2つ目は「最悪」で、オミクロン株の重症化率と入院率が大幅に悪化し、世界経済への打撃が大きい。3つ目は「過剰反応」で、オミクロンの感染力は弱く、世界景気とインフレに大きな影響を与えないというものだ。注目されるのは4つ目の「楽観的」で、オミクロンは感染力が強い半面、症状は軽症のため、需要バランスやモノと労働力の不足が改善し、インフレ率が低下する、いわゆる正常化シナリオだ。

英紙デイリー・テレグラフの著名コラムニストのアンブローズ・エバンス・プリチャード氏も昨年11月30日付で、「私自身はこのうち、「楽観的」な予想で着陸すると思っている」とした上で、今後、各国のオミクロン株への対応が経済の先行きで明暗を分けるとしている。

同氏は、「良性のオミクロン株は、政治的議論を再編し、世界を異なる陣営に分割するだろう。英米やメキシコ、ブラジル、インドなどウィズコロナ(ウイルスとともに生きる)の傾向が強い国は(制限が緩いため)非常に早く正常に戻る」とし、その上で、「それとは対極の例として、中国はゼロコロナ(ウイルス抑圧)戦略に囚われ、コロナ制圧に成功したことで西側に対する中国の優位性を称賛している。ヨーロッパでもデルタ株がドイツやオーストリア、オランダ、中央ヨーロッパの大半で医療システムが危機に瀕し、フランスでも厳しい対策が必要となっているが、オミクロン株の場合、従来とは真逆の対応が必要となる」と指摘する。

真逆の対応とは何か?

プリチャード氏は、「ゼロコロナ戦略を追求している国では、強制的な活動制限を正当化することが困難となり、フランスでは 『黄色いベスト運動』(2018年11月17日から断続的に行なわれているフランス政府への抗議運動)の再燃の可能性もある。オーストリアの強制予防接種方針も未接種の人への差別的なロックダウン(都市封鎖)と同様に、すでに欧州人権条約に違反している。毒性の弱いオミクロン株がデルタ株に取って代われば、こうしたウイルス抑圧戦略は世界中で急速に崩壊する。正常化への衝動が打ち勝ち、健康を守るための権威主義はその正当性を失う」と指摘する。(『下』に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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