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「男性がやりたい放題の時代だなと」吉高由里子、大河ドラマ「光る君へ」を語る

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
大河ドラマ「光る君へ」に主演する吉高由里子さん 写真提供:NHK

道長と馬にふたり乗りするシーンはドキドキ

光源氏はまひろが出会った男性の、一番すてきなポイントを全部かけあわせた男性なのかな

「たいてい、皆さん、光源氏は誰が演じるんですか? と聞くんです。光源氏は出てきません」と強調する吉高由里子さん。大河ドラマ『光る君へ』は、大作『源氏物語』を書いた世紀の作家・紫式部の謎に満ちた人生を描く物語である。

「吉高さんは、明るくてやさしくて、柔軟。どんなことも受け入れてくれる。これが、わたしたちの主役で良かったなと思っています」と内田ゆきチーフプロデューサーは信頼を寄せる。そんな主演俳優・吉高さんへの取材会は、2023年5月に平安神宮でクランクインしてから半年以上が過ぎ、全体の3分の1くらい撮影が進んでいる頃に行われた。

吉高由里子さん 写真提供:NHK
吉高由里子さん 写真提供:NHK

――今の実感を教えてください。

吉高由里子(以下吉高)「半年ってこんなにあっという間なのかと驚いています。が、民放のドラマだったら2本めが終わる頃だと思うと、ひとつの作品をどれだけ長い期間やっているか、改めて実感します。平安神宮でクランクインを迎え、高揚感と同時に緊張や不安が渦巻きながらスタートしてから、すでに全体のスケジュールの3分の1が過ぎたとはいえ、撮影は丸々あと1年近くあります。ほんとうになにごともなく、この作品を無事、撮り切ることができればいいなとお祈りする毎日です」

――どんなところを楽しんでいますか。

吉高「スタジオのセットの中に池ができていたり、馬がいたり。建物も内裏からまひろの家と撮影ごとにがらりと変わり、プロフェッショナルなスタッフの仕事を間近で見せていただいています。セットのなかに身を置くと、この時代に自分が生きていたらどうなっているのかなと、妄想します。衣装も背景も、すごく鮮やかで、画面がすごくきれいで、大きな画面で見ると一層楽しめると思います」

「光る君へ」より  写真提供:NHK
「光る君へ」より  写真提供:NHK

――平安時代と現代に生きる人の違いは感じますか。

吉高「壁も扉もなく、御簾一枚で仕切られている家や、着物や食事など、生活様式はまるで違いますが、心で思うこと考えることはさほど変わらないと思います。噂話に花を咲かせたり、誰かを好きになって、気持ちが浮いたり沈んだり、燃えたり冷めたりするところはいまの私達とほぼ同じです。逆に、現代のほうが感性が少し鈍くなっている気がして……。平安時代の人たちは、五感が敏感。季節の移ろいや、月や星など、今だったら見落としてしまいそうな小さな幸せに反応して、心を揺さぶられていることがドラマでも描かれています」

――今と違うところで印象に残ったことはありますか。

吉高「姫には従者がずっと一緒にいること。常についてこられるのは、大変ですよね。身分の高い者たちは好き勝手にどこにもいけるわけではなく、逆に身分の低い貧しい人達は自由です。お金持ちとそうでない人と、どちらが幸せなのだろうと考えさせられました。そういう意味で、生まれてきた家柄で可能性が決まってしまう時代に生きる人たちは、男性も女性も苦しかったと思います。とくに出世したい男性にとってはなんともはがゆい時代だったでしょうね。だからこそ、政治的な駆け引きが激しく行われ、裏切ったり、裏切られたり、のしあがったり蹴落とされたりということが日常茶飯事で。驚いたのは、お金を出しているのは女性の家で、それでいて自分は嫡妻も妾もいるなんて、男性がやりたい放題の時代だなと(笑)。それから、占いを信じて、あらゆる行動が占いによって決められていたということも驚きました」

これだけ世界中の人に知られているのに、誰も彼女のことを知らない

――まひろをどんな人物と捉えていますか。

吉高「まひろは大人のようで、子供のようなところがある人物です。少女時代のある出来事がきっかけになって自分を抑え込んで生きていて、誰かに甘えたいのに甘えられないこともあったりして。そんなふうだから、藤原道長(柄本佑)と恋に落ちるものの、素直になれないんです。なかなか認めたくない厳しい現実に葛藤しているところを今、ちょうど撮っています。まひろは、笑えるくらい頑固で。そんな彼女が、心と頭を突き詰めていって、最後に残った大切なものを探す物語なのかなと思っているので、それを見届けていただけたらと思います」

――実際の紫式部については?

吉高「亡くなってから1000年経っても、いまだにどんな人だったのだろうと、多くの人たちに想像させる、とても魅力的な人だと思います。これだけ世界中の人に知られているのに、誰も彼女のことを知らないという、摩訶不思議な人。記録もほとんど残っていなくて。それって、ずるいですよね。残ってないから、想像させる。まったく罪な女です」

――どこかゆかりの地には行きましたか。

吉高「紫式部がそこで執筆していたと言われる蘆山寺や、お墓とされる場所など、ゆかりの地は一通り、内田ゆきチーフプロデューサーと大石静さんと一緒に回りました。道長の書が残っている陽明文庫にも行きました。大石さんは道長の字を見て、ものすごく興奮されて。その様子を見て、きっとこうやって筆が進むんだろうなと思ったんです。物語や文字に携わる仕事をしている人にとって、こういう出会いがどれだけ大きなことなのか、作家にとって実感することの重要性を見せつけられたような気がしました」

吉高由里子さん 写真提供:NHK
吉高由里子さん 写真提供:NHK

左利きを、右利きに直して文字を書いています

――作家としてのまひろについてはどう思いますか。

吉高「じっくりと人を見ている人なのかな。書くことで自分と会話していたのかなと思うんです。書くことではじめて、自分の心が認識できて、そこでようやく自分の進むべき方向を決められるというか。出会った人たちを観察し続けて、やがて『源氏物語』という作品に昇華する。文学者として、これからどんどん、文章を書くシーンが増えていくなかで、私は左利きなので、右利きに直して書かないといけなくて、緊張します。手が震えないように、書くシーンの撮影の前に、30分くらい練習する時間をとっています。文字が主役のドラマでもあるので、丁寧に練習しながら臨んでいます」

――書くシーンもたくさんあるんですね。

吉高「紫式部は、道長に紙をもらっていた説があるんです。当時は、紙がひじょうに高価だったから、おそらく道長から、紙をバックアップされていたと言われていて。紫式部が作品を書き上げたのは、恩返しの気持ちや、書きあげたものを読んでほしいという気持ちがあったのではないかと想像しています」

――まひろが生み出す光源氏はどういうキャラクターなのでしょうか。

吉高「まひろが生きている間に出会った男性の、一番すてきなポイントを全部かけあわせた男性なのかなと思います。ちょっとだめなところも、すてきと思わせちゃう、魅力的な人を描いているような感じがしました」

――道長だけじゃない?

吉高「道長だけじゃなくて、いろんな人の要素が入っている。いままで出会った友達や、その人の夫などの、すてきなところをかき集めたんじゃないかな」

――大石静さんの脚本はいかがですか。

吉高「大石先生の脚本は、パワフルで情熱的で、1行、1行のインパクトが強いと思います。感情の起伏がすごく激しく書かれていて、会話劇の場面では、最初の1行と次の1行の感情がまったく違っていることもあるんです(笑)」

――道長との恋の場面はいかがですか。

吉高「楽しくやっています。道長と会うときはつねに気持ちが高ぶって、『万感の思い』という気持ちで演じています。炎天下のなか素手で土を掘るシーンや、一日中、お互い泣いているシーンもありました」

――一日中泣いているシーンとはどういうシーンですか。

吉高「道長との逢瀬のシーンで、6ページくらいの長い場面でした。道長と会うときは、気持ちが満潮状態なので、エネルギーが他のシーンより強い。とくにそのシーンは、会う会わない、結婚するしないなど、あなたにはこの国を変えてほしいっていう気持ちと何もかも捨てて自分といてほしいという気持ちで、まひろの感情が両極端に揺さぶられて、頭が痛くなりましたし、鼻がツーンとなるのを通り越して、こめかみが痛くなるような状態で、疲れました(笑)」

――かなり熱演されたようですね。そのとき柄本さんはどんなふうでしたか。

吉高「私が去ったあと泣いていたみたいです(笑)。佑さんとは以前、大石静さんが脚本を書いた『知らなくていいコト』(20年)で共演していたので、戦友感があって。いてくれたら、安心する、頼もしいです。シリアスなシーンや、ラブシーンの前もすごくフラットに会話してくれて、緊張しない空気感を作ってくれています。この役でまためぐりあえてよかったなと思っています。一日中泣いたシーンは、『下北沢のザ・スズナリでふたりでやっている気持ちでやろう。ここは劇場だ、がんばろう』と励まし合っていました」

――道長の馬にふたり乗りするシーンもあるようですが。

吉高「乗馬の稽古はしていて、ひとりでも乗れますが、ふたりで乗るシーンはドキドキしながら乗りました」

――着物の所作を守りながら、情熱的な感情を表すときはどんなふうにやっていますか。

吉高「どんなに感情が昂ぶっても手は大きく振らないで、と所作指導の先生に言われます。気持ちが動くと、手や身体が自然に動いちゃうけれど、手を袖から見せないことがこの時代の決まりだということで。やりづらいこともありますが、そこは、決まりに合わせています」

着物を育てていく日々が楽しい

――美しい着物が見どころのひとつとのことですが、どこに興味を持ちましたか。

吉高「着物って毎日着るたびに自分の肌に合ってくるという、革靴のようなところがあって。自分になじませていく、着物を育てていく日々が楽しいです。ただ、重いのは大変です。首と肩が凝りますし、ロケ先で、衣装のままコンビニに行くと、店員さんにびっくりされるので、コンビニにふらっと行きづらくて(笑)」

――着物の色柄などはいかがですか。

吉高「この色とこの色を組み合わせるんだという意外性がおもしろいです。最初は暖色系が多かったのですが、この間、はじめて寒色系の着物があって、緑とグレーっぽい合わせがきれいと思いました。赤とオレンジとか、淡い色もあれば原色もあったりして、おしゃれですね。ただ、いまの自分のファッションにとりいれるのは難しそうです(笑)」

――朝ドラこと連続テレビ小説「花子とアン」(14年)のヒロインから大河のヒロインですが、違いはありますか。

吉高「振り返れば、朝ドラはちょうど10年前、25歳で、何もわかっていなくてこわいものなしでした。そのときは、NHK放送センターが工事していたので、緑山スタジオで撮影をしていて。今回、はじめて渋谷の放送センターで撮影できることが嬉しいんです。朝ドラでは、出てないシーンないと思うほど出番が多かったのですが、大河は意外と出番がない(笑)。というのは、今回はまひろのパートのほかに、道長たち男性陣の政治的な物語が並行して進んでいくからなんです。とはいえ朝ドラ以上に撮影日数は長いです。朝ドラのときも長いと感じて、終わったらすごくさみしくなったのですが、今回、朝ドラ以上に長い撮影で、関わる人も多く、密度が濃いから、終わったあとのさみしさはどれほどのものかと今から考えています(笑)。朝ドラから10歳大人になった分、終わったとき、どんなことを感じることができるのか、今から楽しみです」

吉高由里子さん 写真提供:NHK
吉高由里子さん 写真提供:NHK

Yuriko Yoshitaka

1988年7月22日、東京都生まれ。2006年に「紀子の食卓」で映画初出演。08年、映画「蛇にピアス2008」で第32回日本アカデミー賞新人俳優賞、第51回ブルーリボン賞新人賞受賞。14年、NHK連続テレビ小説「花子とアン」で主演。近年の主な出演ドラマ作品に、「知らなくていいコト」「最愛」「星降る夜に」などがある。24年2月、「風よ あらしよ 劇場版」が公開予定。

大河ドラマ「光る君へ」
【放送予定】2024年1月~12月
【作】大石静
【音楽】冬野ユミ
【語り】伊東敏恵アナウンサー
【主演】吉高由里子
【スタッフ】
制作統括:内田ゆき、松園武大 
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう ほか

「光る君へ」相関図 提供:NHK
「光る君へ」相関図 提供:NHK

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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