お化け屋敷でパニックになりお化け役の演者を蹴った客 なぜ運営会社を訴えた?
東映太秦映画村のお化け屋敷を巡る裁判が話題だ。飲酒の上、パニックになってお化け役の男性演者のあごを蹴り、骨折などの重傷を負わせた空手5段の男性客が、運営会社に約550万円の支払いを求めているからだ。
どのような事案?
事件は2011年に発生した。客は警察から事情聴取を受けたが、刑事処分には至らなかった。ただ、演者に謝罪し、治療費などを支払ったものの、2015年に演者側から損害賠償を求める裁判を起こされた。2016年に約1千万円の解決金を支払うことで和解が成立している。
その後、2023年1月になって客が運営会社を提訴したというもので、報道によれば、この客は次のような主張をしているという。
・事故当時、男性演者は運営会社に雇用され職務としてお化け役を演じていたため、同社は使用者として安全配慮義務を負っていた。
・お化け屋敷では恐怖に陥った観客がどのような反応をするかは予想できず、とっさに手を出すことは十分あり得る。
・運営会社は客とお化け役の間に十分な距離や仕切りを確保する必要があり、客から攻撃的な行動をされる可能性があることを出演者たちに指導しておくべきなのに注意喚起も不十分だった。(京都新聞)
主張の法的根拠は?
運営会社が演者に対する安全配慮義務を怠っていたのであれば、演者に損害賠償責任を負うのは当然だが、だからといって演者を負傷させた客に対してまでその責任を負うことになるわけではない。演者に支払った約1千万円の解決金の半分を運営会社が負担すべきだという考えだとしても、問題はその主張の法的根拠だ。
例えば、演者の運営会社に対する損害賠償請求権を何らかの形で代位行使しているということが考えられるが、2011年の事件である上、客も演者も当時から運営会社の不備を知っていたはずだから、時効との兼ね合いの問題が生じる。
むしろ、客と運営会社の双方の不注意に基づいて発生した「共同不法行為」だったとして、両者の過失割合から客の負担分を算定し、これを超える部分の支払いを運営会社に求めているということではないか。
「求償」ができる
すなわち、共同不法行為責任を負う者は、それぞれが被害者に対して損害の全額を賠償する法的義務を負う。しかし、もしそのうちの1人が全て支払った場合、ほかの当事者に対して自らの責任分を超えた部分の支払いを求めることができる。これを「求償」と呼ぶ。
例えば、損害額が1千万円で、客と運営会社の責任割合が五分五分だったとすると、客は求償権に基づき、演者に支払った1千万円のうち自らの責任分にあたる500万円を差し引いた残り500万円分について、運営会社に請求できる。今回のケースでは約550万円の支払いを求めているが、50万円は弁護士費用ということだろう。
3月14日に京都地裁で第1回口頭弁論が行われる予定だ。そもそも共同不法行為と言える事件なのかという点を含め、裁判所がどのような判断を示すのか、今後の裁判の行方が注目される。(了)
【追記】
2024年1月17日、京都地裁は男性の請求を棄却する判決を言い渡した。