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<ガンバ大阪・定期便73>『やる』の一択。石毛秀樹が輝き続けるには理由がある。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
ゴールを決めPKを奪い、仲間を鼓舞する。大車輪の活躍だった。写真提供/ガンバ大阪

■劣勢の流れを食い止めた先制点。

 石毛秀樹にとって19節・横浜FC戦以来、3試合ぶりの先発出場となったJ1リーグ22節・川崎フロンターレ戦。横浜FC戦と同じく左ウイングを預かった彼はピッチを退くまでの88分間、プレーで、声で、チームを鼓舞し続けた。

「川崎戦は相手の戦術をもとにアンカー、インテリオールが協力しながらウイングが中に入っていって、3対2の状況を作ることが狙いの1つでした。その中で僕がウイングに適していると評価されたんだと受け止めています。個人的に自分の良さが一番出るのは、今シーズンの大半でプレーしてきたインテリオールかなとは思いますが、監督が信頼して使ってくれることに結果で応えたかったし、今回の役割ならウイングもぜんぜん嫌じゃなかったです。仮に、外に張ったところからスピードを活かしてドリブルで仕掛けろと言われたらタイプ的に違うかなと思いますけど、さっきも言った通り、川崎戦はそうじゃなかったので、やりやすさもありました。これは自分に近いインテリオールで悠樹(山本)が気を利かせてくれたのもあります。ウイングが中に入っていくには、インテリオールに動いてもらわないといけないですが、悠樹は自分が動くことで周りのスペースを空けることを考えて実行できる選手なので、彼との関係性のおかげでスムーズにやれたところも多かったです」

 勝利につながるパフォーマンスとして目を惹いたのは3つ。まずは、彼が挙げた先制点だ。

 立ち上がりから川崎に再三にわたって背後を取られ、押し込まれる状況が続いていた中で迎えた13分。彼はこの日、チームが見出した初めての攻撃チャンスをゴールに繋げ、劣勢を跳ね返す先制点を奪う。右サイドのファン・アラーノから送り込まれたグラウンダーのクロスボールが、左にこぼれたところで右足を振り抜いた。

「真ん中で、ジェバリ(イッサム)が空振りしたのは想定外でしたけど(笑)、自分の役割として、フォアサイドに流れてくることを想定してあそこに入っていました。本当はワンタッチでシュートを、とも思ったんですがフリーだったので、より確実にトラップで(ボールを)止めてシュートを打つことを選択しました。ただ、ファーストタッチがややミスになってしまって。それでもまだフリーだったので、いい感じで力を抜いて右足を振れました。ニアサイドを射抜いたのは相手DFにフォアサイドのコースを切られていたのと、悠樹が真ん中から入ってきていたから。そっちに打つと(シュートが)誰かに当たりそうな気がしたので近い方を狙いました」

ファーストタッチは思い通りではなかったが、力を抜いて右足でゴールを捉えた。写真提供/ガンバ大阪
ファーストタッチは思い通りではなかったが、力を抜いて右足でゴールを捉えた。写真提供/ガンバ大阪

■「短い足を必死に伸ばした」ことで掴んだPKのチャンス。

 そして『2つ目』は、石毛がPKを奪ったシーン。27分に川崎に失点を許した直後、最初の1プレーでビッグチャンスを掴めたことはーーそれをキッカーに立ったジェバリがきっちりとゴールに繋げたことを含めて、間違いなく川崎の勢いを削ぎ、チームが再び前を向く勇気を与えた。

「ゴールを決めたことより、あのPKを獲得できたことの方がチームにとっては大きかったんじゃないかと思っています。瑠(高尾)からあのエリアにボールが送り込まれるのはわかっていたし、相手DFの背後からいく感じになりましたけど、あそこに入っていって先にボールを触れたら(相手の足が)引っかかる可能性もあるなと思いながら、自分の短い足を必死に、最大限、伸ばしました(笑)。結果的に相手より先に触れて、相手もイメージ通りの対応をしてきた中でPKを獲得できてよかったです」

 ウイングを定位置に示したインテンシティの高さも、必死に伸ばした足で最後までボールをコントロールしてPKに繋げた技術も、日頃の徹底したコンディション管理、体づくりの賜物だろう。以前、彼はその秘訣を「奥さんが気遣ってくれる食事を残さず、しっかり食べて、子供とよく遊び、よく寝ることと、若さ!」だと笑っていたが、ファジアーノ岡山時代の21年夏に始めた魚中心の食生活にも支えられているという。

「この2年強の間、肉類はオフ前日にしか食べていません。ベーコンが少し入ったスープでさえ一切、口にしない。岡山時代に膝を痛めてから、復帰した後も肉離れが続いた中で、何かを変えなきゃと思って、いろいろと調べたら、肉の脂は血に吸収されにくいけど、魚は吸収されやすいと知り…。実際、魚中心の生活に変えてみたらケガがパタっと止まったんです。その上、体重も落ちて体が軽くなり、動きやすくなった。以来、その食生活を続けていますし、お肉を制限するようになった今が一番、理想的に動けている感覚があります。子供や奥さんは普段もお肉を食べるので、二人がハンバーグで、僕はブリの照り焼きという日もあって、奥さんは食事の準備が大変なはずですけど、継続的に支えてくれています。ただ…今でこそ、子供に目の前でハンバーグや唐揚げを食べられても平気だけど、基本は肉好きの僕なので、取り組み始めた頃は子供が目の前で美味しそうにハンバーグを食べているのを見て『うぉ〜! うまそ〜〜っ!!』ってなっていました(笑)。今はもうすっかり慣れたし、オフ前日にはお肉を食べているので全然、余裕です。シーズン序盤に一度、オフ前日に胃腸炎になってしまったことがあり、週1回の肉の日を逃した時はめちゃめちゃショックでしたけど(笑)!」

■「喋り続けて、頭を動かせ」。仲間の奮起を促す鼓舞。

 話を戻そう。何度も、相手に流れを持っていかれそうになった川崎戦で、石毛の存在感として目を惹いた『3つ目』が、彼がピッチで仲間に向かって投げ掛け続けた『声』だ。試合後、山本は「3-3に追いつかれた時も、ヒデくん発信で『今日もいけるぞ』という雰囲気を取り戻せた」と明かしていたが、後半、71分、75分と立て続けに失点を喫した中で、チームメイトの奮起を促す石毛の鼓舞は、再びゴールを目指して残り時間を戦い抜くきっかけになった。

「後半は特に相手にボールを持たれる時間も長く、自分もそうですけど、キツく感じている選手は多かったとは思います。でも、アグレッシブにいって崩されちゃったならまだしも、単に疲れて足が止まって、メンタルも落ちて、喋らずに頭が動かなくなってやられるのは嫌だったし、シンプルにこの展開から負けるのはもったいないな、と。実際、シーズン序盤はそういうところから流れを悪くしてしまうことが多かったですしね。せっかくここ7試合、負けなしできてこの日も前半を3-1で折り返せたのに、自分たちで勝ち点を手放すことだけは絶対に食い止めたかった。だからこそみんなには『とりあえず喋り続けて頭を動かせ』と。思考を止めてしまったら足が止まってしまうのはわかっていたので、それだけは絶対にやめよう、と。特に後ろの選手には喋れ、頭を動かせと伝え続けました。これ以上、失点しなければ、この展開でも必ずどこかでチャンスがくると信じていたのもあります」

 事実、そのチャンスは後半アディショナルタイムに訪れる。すでに88分にピッチを退いていた石毛は、そのセットプレーのシーンをベンチから見守ったが、「勝ち越せる予感はあった」と振り返った。

「足がつって交代になって、ベンチに戻っても足がつったままだったので、アイシングをしながら戦況を見守っていたんですけど、なんとなく予感がして、あのコーナーキックのシーンの時は立ち上がっていたんです。湧清(江川)と瑶大(佐藤)と肩を組んで『これ、絶対に決まるな』って話しながら喜ぶ準備もしていました。そしたら本当に決まって…めちゃめちゃテンションが上がったし、僕もできれば瑶大ばりに走り出したかったんですけど足が痛くて走れず…(笑)。そしたら、湧清が僕をおんぶしてくれて一緒にゴール裏まで連れて行ってくれて、みんなと一緒に喜べた。湧清、ありがとう! って感じでした」

インテンシティの高さと足元の技術でチームの攻撃にエネルギーを宿す。写真提供/ガンバ大阪
インテンシティの高さと足元の技術でチームの攻撃にエネルギーを宿す。写真提供/ガンバ大阪

■チームの勝利のためにも、自分の価値を下げないためにも。

 川崎戦のプレーでも明らかだったように、今シーズンの石毛は、先発でも途中からでもプレーの波が少なく、常に与えられた時間の中で、チームにとって効果的なパフォーマンスを発揮している。いうまでもなく、選手にとって試合に出たり、出なかったりという状況は、コンディションを維持する上でも、自身にリズムを見出す上でも、結果を求める上でも難しいにもかかわらず、だ。そこにはどんな工夫があるのだろうか。

「客観的に自分を見た時に『こいつは波がある選手だな』となれば間違いなく監督は使いづらくなるだろうし、僕はスタートであろうと、途中からだろうと、その時間帯に自分がピッチに立つことには必ず意味があると思っているので。先発した時は当然、自分が今、何をしなければいけないのかを常に考えながらプレーしていますが、控えに回ってもそれは同じで、何がチャンスになるのか、どこが相手の長所で、今日はどういう流れになっていて、自分は何をすれば効果的なのかを常にイメージして戦況を見守り、出場となればそれをもとにプレーしています。守備で体を張ることならその役割を全うするし、走ることなら走る、と。そういう意味では先発だから、ベンチだからと自分が一喜一憂せずに与えられたタスクに徹することは心掛けていることの1つです。もちろん、スタートから出ることは目指しているし、それが一番の理想です。でも、先発に選ばれなかったからといって自分が揺れることもない。例えば今回、川崎戦で点を取ったからといって次の横浜F・マリノス戦も僕が先発とは限らないし、仮にベンチスタートになっても…もちろん『え!』とは思いますけど(笑)、監督にもいろんな考え、策があり、それに適した選手を選んだということですから。それを受けて自分がやる、やらない、を選択することはない。つまり、チームの勝利のためにも、自分の価値を下げないためにも『やる』の一択です。そもそも、サッカーが好きで、プレーしたい、ピッチで活躍したいという自分の思いから始めたサッカーなのに、その可能性やチャンスを自分自身で潰してしまうのはもったいないですしね。それをしっかり消化して戦えているのが今シーズンなのかなと思っています」

 自分のために、自分のサッカーのために。そして、最大の喜びでもある、チームの勝利のために。常に最高の準備をし、与えられた時間、役割の中で、自分らしい輝きを求めるということだろう。もちろん、次節・横浜F・マリノス戦も。

「マリノスは全員がしっかり走れて、インテンシティ高く戦えるチーム。だから今の順位がある。めちゃめちゃいいチームだと思いますけど、今の自分たちなら、いつも通りの入り、戦いができれば、絶対に勝てる。それを過信ではなく、自信にしてピッチに立てればいいなと思っています。ここ最近はしっかり勝ち点を積み上げられていますけど、僕たちはまだ12位のチーム。ここからもっと順位を上げていくためにも、慢心している場合ではないので、またしっかりみんなで準備をして、それをピッチで表現したいと思います」

 さぁ、まだまだここから。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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