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決定した都市対抗組み合わせ表の「なぜ?」

楊順行スポーツライター
写真は筆者が現場でメモしたもの。正確には、主催者発表を参照のこと、念のため

トーナメント形式の大会では、いわゆる"ヤマガタ"といわれる表の左側(あるいは上側)から順番に日程が進んでいくのがふつうだ。センバツ高校野球を考えてみるとわかりやすい。出場校は32。ヤマガタの左から第1日第1試合、第1日第2試合、第1日第3試合、第2日第1試合……と、日程順に並んでいく(出場校が34になる記念大会は例外)。ところが、都市対抗ではこの限りではないのだ。

たとえば16日に決まったヤマガタなら、いちばん左のトヨタ自動車対九州三菱自動車が第1日第1試合(以下1-1と表記)はいいとしても、次のNTT東日本対三菱重工神戸・高砂が4-3、順にJR北海道硬式野球クラブ対新日鐵住金東海REXが5-3、JR四国対Hondaが3-2……。ふつうなら1-1の次は2-1、2-2、2-3、3-1(第1日は1試合のみ)……となるはずが、ほとんどアトランダムに並んでいるようなものだ。2-1である三菱自動車岡崎対パナソニックは、だいぶ右に行かないと見つからない。現に、たまに東京ドームに足を運んだ知人などは、

「わけがわからん……なんでこうなってるの?」

と途方に暮れるのだ。それでいて2回戦以降は、きちんと整列したように左から順に並ぶから、ますます混乱してしまう。

野球通の知人すら困惑してしまうそのからくりは、観客増を目的とした「特定試合シード制度」にある。これは、一定数以上の観客動員を条件に、事前申請したチームを、希望する試合日・時間に割り振るもの。ひらたくいえば、「一定数」の集客を条件に、「ウチは日曜日の第3試合がいい」という申請を認めるわけだ。

なるほど、特定試合シード制度か

今大会の特定シードチームはトヨタ自動車、パナソニック、Honda鈴鹿、東京ガス、Honda熊本、Honda、JR東日本、日本生命、JR西日本、NTT東日本、日立製作所(試合順)。前年覇者として開幕試合が決まっているトヨタ自動車はともかく、たとえばパナソニックなら、第2日の第1試合を指定したわけである。それはともかく組み合わせ抽選は、特定シードチームの指定日時とは無関係に、ブロック分けから本抽選まで行われる。NTT東日本ならまず、写真でいうAブロックを引き、さらに「4」を引いた。だからヤマガタでは2番目の試合日程に見えながら、実際は第4日の第3試合(前の試合で、NTT西日本という同一企業内チームが出場するため、観客のスムーズな入退場などを考慮し、最終的には一塁側ベンチとなる「3」に交換)。ほかの特定シードチームも同様で、これが一見アトランダムなヤマガタになるわけだ。

集客が条件だから、各企業によって応援の人数を見込みやすい日時を指定できるのはもちろん、メリットはほかにもある。すでに並べた特定シードのチームは、相撲でいえば三役、あるいは大関、横綱クラスの実力を持つ。そして特定シード同士は初戦では対戦しないから、最初の試合から手強い相手とぶつかるリスクを軽減できるのだ。あるいは、勝負には勢いが大事と、あえて試合間隔の詰まる第5日を指定するチームもある。

むろん勝負はなにが起きるかわからないし、シード以外のチームも実力は伯仲。たとえば一昨年優勝の日本生命は、2年続けて三菱日立パワーシステムズと初戦で当たるが、前年覇者として臨んだ昨年は、開幕試合で零敗しているのだ。特定シードとはいえ、1回戦突破が難関であることは変わりない。あくまで、シード同士の対戦は避けられるというだけだ。そして、同一地区、あるいは同一企業内のチームが1回戦で当たらないなどの手順を踏んだ組み合わせ抽選の結果が、写真である。

ながめてみると、Aブロックには連覇を狙うトヨタ自動車、東京第一代表のNTT東日本、優勝2回のHondaなど強豪がそろう。前回準優勝で創部100周年の日立製作所はBブロック。同じブロックでは、優勝7回の東芝と、近年安定した成績を残す日本新薬が1回戦で対戦する。Cブロックには前回4強のうち東京ガス、西濃運輸の2チーム、さらに各地区第一代表がずらり5チームだ。

いずれにしても……都市対抗って、本当におもしろいんですよ。1年の鍛錬を、ここで示さずどこで出す……と、大のオトナが高校球児のように必死に球を追う。それでいて、高校野球とはレベルが段違い。なにしろ、いま西武で活躍する源田壮亮は去年まで、トヨタ自動車でプレーしていたのだ。なのにスタンドは、応援席以外、ちょっと寂しいんだよなぁ。地元チームの応援でも、知人が勤めているなどの縁でもいいんです。ぜひ東京ドームへ!

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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