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怪しいがん治療の見抜き方。もしもの時のために知っておいて欲しいこと

大須賀覚がん研究者
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

世間にはがんに効果があるとうたう怪しい食品や民間療法があふれています。がん専門医が使っている標準治療と違い、それらの治療には明確な治療効果が証明されていません。もし、効果がしっかりとあるのであれば、専門医も当然使うわけですが、効果が期待できないため、専門医が使うことはありません。しかし、それらの治療に大金をつぎ込んでしまう患者が後を絶ちません。

ネットで「がん治療」と検索したり、書店のがん治療コーナーに行くと、それらの怪しい治療の情報が押し寄せてきます。専門医が見ればすぐに怪しいと判断できますが、一般の方は見抜くことが難しいです。

私は、それらの怪しいがん治療がどのように宣伝されているのかをつぶさに見てきました。そして、数多く見ているうちに、それらの宣伝には共通のパターンがあることがわかりました。そのパターンを知っておいてもらうと、一般の方でもある程度正確に怪しいものを見抜けるのではと思っています。今回はその見抜くポイントをご紹介します。

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注)画像は筆者作成。イラストは「いらすとや」提供。

1、何のがんにでも効く

がんにはたくさんの種類があることをご存知かと思います。肺がん、乳がん、前立腺がんなどです。実際にはさらに細分化されて、病気進行度でも分かれます。大事なことは、それぞれで治療は大きく異なります。「がん」と同じ言葉がついているだけで、実際は違う病気だからです。

そのため、薬の効き方もがんの種類によって異なります。現時点で発見されている良い薬でも、効くがんと効かないがんが必ず存在します。全てのがんに効果がある薬は発見されていません。

しかし、怪しい治療の宣伝には「どのがんでも効果が期待できる」「どのがん患者さんでも適応になる」などと書いてあったりします。その時点で、怪しいということがわかります。「どのがんにでも効く」は要注意サインです。

2、個人の感想が根拠

「私は余命何ヶ月だったのに、これを食べて5年たっても元気だ」などの個人の感想が紹介される例です。個人の感想が問題なのは、真実でないことがあることと、その個人で起こったことが必ずしも全員には起こらないことです。

2005年10月にアガリクスというキノコががんに効果があると高額で販売していた業者が逮捕されました。この時の捜査で、「がんが治った」という69人の体験談はすべて作り話であって、実際にその治療で治った人はいなかったということが判明しています。事実かどうかわからない話を鵜呑みにするのには注意が必要です。

たとえ、その個人の感想が真実でも、注意が必要です。がんの治療効果は個人差が大きく、同じ病気で同じ治療を行っても、その人の体力・年齢・持病によって効果のでかたは大きく異なります。個人での経験が必ずしも万人に当てはまるわけではありません。

専門医が使っているがん治療では、数百人で調べて効果があったというデータがあります。そのようなデータではなく、個人の感想を根拠としているものには注意が必要です。

3、シンプルすぎる治療方法

○○を食べるだけ、体温をあげるだけ、特定の周波数の音を聞くだけ、などの単純なアプローチはネット・書籍にたくさん見られます。こんな単純な方法で治るような簡単な病気であれば、こんなに多くの方が困ったりはしていません。すぐできるからひとまずやってみようとも思わされたりするのですが、やはり時間を取られますし、時にはお金もかかります。気をつけてもらいたいと思います。

4、オールナチュラル

これも多いパターンで、「アマゾンの奥地で取られた○○」のような宣伝がされたりしています。自然にあるものは良いものだと思う人が多いので、自然食品ということをベネフィットとして強調するものです。

科学的な見地からいえば、医薬品に比べて、自然に近いものほど有効成分の含有量は少なく、不純物質を多く含むため、効果は期待しにくくなります。また、大量に摂取すると、不純物からの副作用の恐れがでます。

がんの治療薬でも自然食品から発見されたものもありますが、それは有効成分のみを抽出して、さらに有効成分の化学構造を改良して、それを大量精製して、さらに体内への吸収が良いように改造して、どのタイプのがんに効くかを調べて、そこまでしないと、薬のレベルにはなりません。自然のものをそのままというアプローチには無理があります。

5、極端な宣伝文句

「がんが消滅した」「末期ガンが綺麗になくなった」などの華々しい表現がされているものです。世界にあるがん治療薬で、病院で標準的に使われているものでも、そこまで華々しく効く薬は滅多になくて、普通はがんを縮小させて、拡大や再発を防ぐというものが多いです。そんなに華々しく効くようであれば、世界中の医師がもちろんすぐに使っています。劇的に効くという話がでたら、そんなうまい話はないと疑ってもらいたいです。

6、免疫力をあげる

この用語は本当によくでてきます。確かに免疫はがん治療において重要ですが、特定の食品を摂ることや、特定の生活習慣を取り入れることで、がんの殺傷能力をあげるほど免疫力を大きく変えることは難しいと言われています。また、免疫力という用語は科学の世界では使わない極めて曖昧な表現で、この用語を使っている時点で、これは科学的な話ではないのだなとわかってしまいます。

7、有名な医師・研究者が推薦

「がん治療の権威○○医師が推薦」などです。本来、世界で標準的に使われるがん治療は、世界中の医師みんなが勧めるものですので、個人の医師レベルで勧める話ではありません。個人の医師だけが登場している時点で、むしろこの人しか勧めていないのではと疑うべきです。

「ごく一部の医師しか知らない秘密の治療」と言われると、なんだか効きそうと思ってしまう人がいるのですが、現代の医療ではすごく効くのに他の医師が知らないという治療が隠れていることはまずありません。すごく効くと分かればすぐに皆んなが使い始めるからです。ごく一部の医師・研究者しか薦めていないということは、まだ効果が明確ではないのだなと思ってもらいたいです。

8、陰謀論

これも本当に多いです。「製薬会社と医師はグルで、儲かる抗がん剤を使いたいから、この治療を使えないように邪魔をしている」などが典型的です。

治療効果があるというのを示すには根拠となるデータが必要です。それがない場合に良く使われるのが陰謀論です。「データがないのは医師・製薬企業に邪魔されているからだ」と主張すれば、データがないことを正当化できます。

本当に効くのであればデータを示せば良いわけで、他の治療を非難する必要はありません。自分のデータを出さずに、陰謀だと言って他の治療を批判しているのには注意が必要です。

まず疑い、相談する

これらの文言が出てきたときには、まず疑って欲しいです。これは怪しいかもしれないと思うことが第一歩です。そして、試す前には、保険のきく治療をしている病院の医師・看護師・薬剤師などに相談をしましょう。

もちろん、これらの文言が一つでも出たら必ずイカサマというわけではありません。がんの専門医によっては、患者さんの理解を助けるために、免疫力などの用語を使うこともあります。一つでもあったらダメというわけではありませんが、同様な文言ばかりが出てくるものには注意が必要です。

ぜひ、今回の見分け方を参考にしてもらい、怪しい治療に騙されないようになってもらえればと願っています。本当に、本当に、がん患者さんが自分の大切なお金と時間を、自分のため、家族のために使ってもらいたいと心から願っております。

がん研究者

がん研究者 / アラバマ大学バーミンハム校助教授。筑波大学医学専門学群卒。卒後は脳神経外科医として、主に悪性脳腫瘍の治療に従事。患者と向き合う日々の中で、現行治療の限界に直面して、患者を救える新薬開発をしたいとがん研究者に転向。現在は米国で研究を続ける。近年、日本で不正確ながん情報が広がっている現状を危惧して、がんを正しく理解してもらおうと、情報発信活動も積極的に行っている。Twitter (フォロワー4万人)。著書に「世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療」(ダイヤモンド社、勝俣範之氏・津川友介氏と共著)。わかりやすくて、温かい、がん情報を発信していきます。

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