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デュピルマブによるアトピー性皮膚炎治療:好酸球数の変動と安全性について

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【デュピルマブとは:アトピー性皮膚炎治療の革新的薬剤】

近年、デュピルマブという画期的な治療薬が注目を集めています。デュピルマブは、人工的に作られた抗体で、アトピー性皮膚炎の原因となる炎症を引き起こす物質(インターロイキン4とインターロイキン13)の働きを抑える薬です。

多くの患者さんにとって、デュピルマブは非常に効果的な治療法となっています。しかし、どんな薬にも副作用はつきもの。デュピルマブの場合、一部の患者さんで「好酸球増多症」という状態が見られることがわかってきました。

【好酸球増多症とは:デュピルマブ治療で注意すべき症状】

好酸球というのは、私たちの体内にある白血球の一種です。通常、アレルギーや寄生虫感染などに対する防御反応として増加します。好酸球増多症は、この好酸球の数が異常に増加した状態を指します。

デュピルマブによる治療を受けている患者さんの中には、一時的に好酸球が増加する方がいることがわかっています。これは、デュピルマブが好酸球の組織への移動を妨げるものの、骨髄から血液中への移動は妨げないためと考えられています。

オランダのアムステルダム大学メディカルセンターで行われた研究では、デュピルマブ治療を受けた200人の患者さんのうち、77人(38.5%)で好酸球増多症が見られました。そのうち43人は治療開始前から、35人は治療開始後に好酸球増多症を発症しました。

【デュピルマブ治療中の好酸球数の変動:経過観察の重要性】

研究結果によると、デュピルマブ治療を始めると、患者さんの平均好酸球数は一時的に上昇し、治療開始から6ヶ月後にピークを迎えました。その後、18〜24ヶ月の間に正常値に戻っています。

治療開始前から好酸球増多症があった患者さんでは、治療開始後1ヶ月以内に好酸球数がさらに上昇しましたが、30ヶ月後には正常化しました。一方、治療開始前に好酸球増多症がなかった患者さんでも、6ヶ月以内に好酸球数が増加し、18ヶ月後には正常値に戻りました。

興味深いのは、治療開始から6ヶ月以降に好酸球増多症を発症する「遅発性」のケースも4例観察されたことです。これらの患者さんは、治療開始時や1ヶ月後、3ヶ月後の検査では正常値だったにもかかわらず、6ヶ月後に好酸球数の増加が見られました。

この研究結果は、デュピルマブによるアトピー性皮膚炎治療を受ける患者さんにとって、とても重要な情報です。好酸球増多症は多くの場合一時的なものであり、治療の中止を必要としないことがわかりました。しかし、症状が長引いたり、重度の場合は注意が必要です。

研究では、15人の患者さんで重度の好酸球増多症(高好酸球血症)が見られましたが、そのうち1人だけが症状のためにデュピルマブの使用を中止する必要がありました。この患者さんは、夜間の発汗や息切れなどの症状を経験しましたが、治療中止後に症状は改善しました。

残りの14人の患者さんは、特に症状は見られず、経過観察のみで好酸球数は正常化しました。これは、多くの場合、好酸球増多症が一時的なものであり、治療の継続に支障をきたさないことを示しています。

この研究結果から、デュピルマブによるアトピー性皮膚炎治療は、治療開始前の好酸球数に関わらず、多くの患者さんにとって有効で安全な選択肢であると言えるでしょう。しかし、治療中は定期的な血液検査と症状の観察が重要です。

アトピー性皮膚炎は、日本でも多くの方が悩まれている皮膚疾患です。デュピルマブは、従来の治療法で十分な効果が得られなかった患者さんにとって、新たな希望となる可能性があります。しかし、どんな治療法にも利点と注意点があります。デュピルマブ治療を検討されている方は、このような好酸球増多症のリスクについても医師とよく相談し、自分に最適な治療法を選択することが大切です。

参考文献:

Li, A., Musters, A. H., Hyseni, A., Gerbens, L. A. A., & Spuls, P. I. (2024). Dupilumab-associated (hyper)eosinophilia in patients with atopic dermatitis: a single-center cohort study of the TREAT NL (TREatment of ATopic eczema, the Netherlands) registry. British Journal of Dermatology. https://academic.oup.com/bjd/advance-article/doi/10.1093/bjd/ljae289/7713682

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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