オランダ、ベルギーに乗り込むなでしこジャパン。10日間の遠征でチームは何を掴むのか
オランダ・ベルギー遠征を行うなでしこジャパンが6月5日(月)の朝、成田空港を出発し、アムステルダムへと向かった。
オランダのブレダで3日間の調整を経て、9日のオランダ女子代表戦に臨み、その後、隣国ベルギーに移動。13日にベルギー女子代表との親善試合を行う。
昨年6月に高倉麻子監督の下、新体制でスタートを切ってから約1年が過ぎた。チームは3度の海外遠征(アメリカ、スウェーデン、スペイン)と、4度の国内合宿を行ってきた。
高倉監督はこの1年間で海外と国内リーグから30名余りを候補として招集。年代別代表で自身が指導した若手も積極的に抜擢しながらチーム作りを進めてきた。
そして、2017年に入り、初の国際大会となったアルガルベカップ(3月上旬、ポルトガル)は12チーム中6位に。国内初の試合となった熊本でのコスタリカ戦(4月9日)は、3-0で勝利した。
チームの土台は固まりつつある。
7月末にはアメリカ遠征を行い、アメリカ、ブラジル、オーストラリアと親善試合を行うことが発表された。なでしこジャパンの直近の公式戦は、今年12月に日本で行われるEAFF E-1フットボールチャンピオンシップと、2018年4月にヨルダンで開催予定のAFC女子アジアカップ(兼フランスワールドカップアジア予選)である。
【コスタリカ戦からほぼ変わらない顔ぶれに】
今回のオランダ・ベルギー遠征に選出された23名は、4月のキリンチャレンジカップ・コスタリカ戦(○3-0)と、ほぼ同じ顔ぶれとなった。
「(コスタリカ戦で)新しく入った選手が非常に良いパフォーマンスを見せたので、もう少しその選手たちを試してみたいということで、そのメンバーでもう一度、オランダ・ベルギーと戦ってみたいと考え、このメンバーを選びました」(高倉監督)
23名のうち、チーム発足時からコンスタントに呼ばれ続けてきたメンバーは約半数。代表に指定席はないが、来年のワールドカップ予選に向けて、その選手たちを軸にチーム作りは進んでいくと考えられる。
しかし、今回、対戦するオランダのような勢いのある相手に対してどの程度、力を出せるのか、という点では、未知数の選手も少なくない。
その点、個々が積極的に持ち味をアピールできる寛容な雰囲気は、このチームの良いところである。連携を高めることはもちろん重要だが、その中で「自分がチームを勝たせる」という気概をプレーで示す選手が多く現れることを期待している。
オランダでは来月、ユーロが開催されるので、代表チームの強化が着々と進んでいる。日本は3月のアルガルベカップではオランダに2-3で敗れており、同じ轍を踏むことは許されない。
【守備力向上の成果が試される機会に】
高倉監督が就任後、なでしこジャパンはこれまでに、アルガルベカップを含めて8試合(非公開の2試合を除く)を戦い、結果は3勝4敗1分である。詳細は以下の通り。
2016年
6月2日/国際親善試合 △3-3 vs アメリカ
6月5日/国際親善試合 ●0-2 vs アメリカ
7月21日/国際親善試合 ●0-3 vs スウェーデン
2017年
3月1日/アルガルベカップ ●1-2 vs スペイン
3月3日/アルガルベカップ ○2-0 vs アイスランド
3月6日/アルガルベカップ ○2-0 vs ノルウェー
3月8日/アルガルベカップ ●2-3 vs オランダ
4月9日/キリンチャレンジカップ ○3-0 vs コスタリカ
内容を見ると、8試合で13得点13失点と、得点数に比例して失点数の多さも目立つ。先制を許した4試合はすべて負けており、試合運びにおいても課題は多い。
とはいえ、失点の多さは、前線からボールを奪いにいくアグレッシブな守備に、リスク覚悟でチャレンジしてきた結果でもある。実際、1年前は不安定だった守備時の選手の距離感は改善され、高い位置でボールを奪ってスムーズに攻撃に転じる形も見られるようになった。
守備から攻撃への切り替えの質をさらに高めることは、今回の遠征でも重要なポイントになる。
【試合を決めるのは誰か】
攻撃に目を転じると、これまでの8試合で6ゴールを決めたFW横山久美(AC長野パルセイロ・レディース)の決定力が抜きん出ており、頼もしい存在である。
横山は7月からドイツ1部のフランクフルトに移籍することが決まっているが、オランダにはフランクフルトでチームメートになる選手もいる。横山に対しては特に警戒してくるだろう。
FW陣の中で、特に、最近のなでしこリーグでのパフォーマンスの良さから、オランダ戦での得点の可能性を感じさせるのが田中美南(日テレ・ベレーザ)だ。
前線でのボールキープ力が向上し、相手との駆け引きの中で、ゴールを決めるバリエーションが増えた。印象的だったのは、6月3日(土)に行われたなでしこリーグカップのノジマステラ神奈川相模原戦(○4-2でベレーザ勝利)で決めた2点目だ。
1-1で迎えた前半29分。田中は相手ペナルティエリア外のゴール正面あたりで、味方のシュートのこぼれ球をファーストタッチで完璧にコントロールして足下に置くと、小さなモーションから左足をコンパクトに振り抜いた。トラップからシュートまでの動作は速く、強烈なシュートは、地を這うような弾道でゴール右隅に突き刺さった。
このようなゴールを決められるようになったことに、田中自身、手応えを感じている。思い当たるのは、練習後の個人練習で、シュートの打ち方にある「変化」を加えたことだった。
「(練習では)ボールの受け方も含めて、試合の中でありそうなシチュエーションを具体的にイメージしながら打つようにしました。そうしたら、試合でもイメージ通りに決まるようになってきたんです。今までは(シュートに)強さを求めてしまうことが多かったのですが、落ち着いてコースを狙えるようになりました」(田中)
代表で、チームメートからの信頼を感じられるようになったことも、自信につながっているという。
その成果が、今回の遠征で発揮されることを期待したい。
なでしこジャパンとオランダ女子代表の一戦は、BS日テレで、6月10日(土)午前1時20分より、ベルギー女子代表戦は6月14日(水)午前2時50分より生中継される(いずれも日本時間)。