EURO2020の”3バック”という戦術トレンド。ベルギー、イタリア...重要な組織構築と機能性。
戦術のトレンドは、移ろいやすいものだ。
ヨーロッパで、3バックが流行している。2020-21シーズン、チャンピオンズリーグを制したのはチェルシーだった。
フランク・ランパード前監督からトーマス・トゥヘル監督への監督交代が行われ、チェルシーは4バックから3バックにシステムをチェンジした。CLの舞台ではアトレティコ・マドリー、ポルト、レアル・マドリー、マンチェスター・シティを次々に撃破してビッグイヤーを獲得した。
■戦術の傾向
その流れは、EURO2020へと続いた。
EURO2020に参加したのは24チームである。グループステージ終了時点で、3バックを使っていたのは13チームだった。対して、4バックに賭けていたのは11チームだ。
4バックに固執していたチームのひとつが、スペインだ。ルイス・エンリケ監督は【4-3-3】を基本布陣としていた。マルコス・ジョレンテを右サイドバックに据え、左サイドバックのジョルディ・アルバと共にサイドを駆け上がり、時に2バックを形成した。だがアイメリク・ラポルト、エリック・ガルシア、セサル・アスピリクエタが3バックで先発するということは最後までなかった。
一方、イタリアは特徴的だった。ロベルト・マンチーニ監督は【4-3-3】のシステムを敷きながら左サイドバックのレオナルド・スピナッツォーラを攻撃参加させ、可変で3バックを使用した。今大会において、イタリアは4バック+可変3バックを最も巧みに使ったチームだったといえる。
ベルギー、ドイツ、オランダは、3バックを採用した。
ベルギーの【3-4-3】はロベルト・マルティネス監督の生命線だ。ロシア・ワールドカップでも、ベスト4進出とこのシステムで結果を出した。ケヴィン・デ・ブライネ、エデン・アザール、ロメル・ルカクといった”黄金世代”をパズルのピースとして当てはめるには、この布陣が最適だった。
ドイツは【3-4-2-1】を使った。カイ・ハーヴァーツ、アントニオ・リュディガー、ティモ・ヴェルナーらがチェルシーで、ロビン・ゴゼンスがアタランタで3バックに慣れていた。
オランダは【3-5-2】だった。この国では、マリヌス・ミケルスやヨハン・クライフが提唱した【4-3-3】への想いが強くある。その中で、フランク・デ・ブール監督は3バックへと舵を切ったが、思っていたような成果は挙げられなかった。
大会前のデータでは、ベルギー(平均のポゼッション率61.3%)、ドイツ(60.4%)、オランダ(60.3%)と彼らのボール保持率は高かった。
■守備者に求められる能力
フットボールの世界は日進月歩で変化している。
3バックで重要なのは、CBのビルドアップ能力だ。だが一方で失われたものもある。「現在のディフェンダーは、自分のポジションについて正確に理解していない」と指摘するのはピエトロ・ヴィエルコウッドだ。
「ビルドアップで後方からパスを出す。だからといって、守備時にマークをおざなりにしていいわけではない。以前は、マンマークが主流だった。今はそうではない。しかし、自分のゾーンに相手のFWがいたら、当然ながら注意を払う必要がある。試合を見ていると、DFの選手は、FWの選手が来たら後ろに下がってしまう。やるべきことは、その真逆だ。それはとんでもないミスだと思う」
「ビルドアップに参加するな、とは私は言っていないよ。だが、DFの選手の主な仕事は守備だ。ベルギー対イタリアの一戦で、ベルギーの選手がプレス網に掛かりながら、プレーしようとした。ボールロスト、そしてゴールだ。それは賢いとは言えない。愚かなプレーだ」
イタリア人のヴィエルコウッドは1976年から2000年までの現役生活でサンプドリア、ミラン、ユヴェントス、ローマと数々の名門クラブでプレーした。ワールドカップ優勝、チャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)準優勝を経験しており、イタリア代表の選手として45試合に出場している。
ヴィエルコウッドの言葉通り、現在のDFの守備能力が低いかどうかは定かではない。
ただ、3バック・システムが全体の構築の手助けになるのは確かだ。選手の配置、適性、そういったものを間違えなければ、大崩れしないチームが出来上がる。トゥヘル・チェルシーがそれを証明した。
EURO2020でいうなら、見るべきはスイスやデンマークだろう。【3-4-1-2】のスイスは、ラウンド16で世界王者フランスを見事に撃破した。デンマークは、【4-3-3】と【3-4-3】を使い分けながら、ベスト4まで躍進した。
システムを変えるーー。それは一つの選択肢に過ぎない。
「システムは電話番号のようなものだ」とはロベルト・バッジョの言葉だっただろうか。電話番号ほどではないにせよ、重要なのは戦い方で、コンセプトがチームに浸透しているかどうかだ。コレクティブな機能性を担保できれば、4バックでも、3バックでも、勝利に近づける。それが本質なのかもしれない。