慟哭後の、メッシの笑顔
アルゼンチン代表が、コロンビアを延長の末1-0で下してコパ・アメリカ連覇を果たした。
表彰台で優美なトロフィーを渡される前、キャプテンのリオネル・メッシが2人の選手を呼び寄せた。背番号11のFW、アンヘル・ディ・マリア(36)と、19のDF、ニコラス・オタメンディ(36)である。
前回の2021年大会の決勝や、カタールW杯ファイナルでゴールを決めた姿が記憶に新しいディ・マリアと、2009年からアルビセレステを身に纏い、Aキャップ116を数えるベテランDFのオタメンディは、この日を最後にアルゼンチン代表から去る。
白と水色の縦縞ユニフォームを着て、共に戦い続けた友を労うメッシは、今更ではあるが、将としての貫禄が備わっていた。
とはいえ、バロンドール8度受賞の背番号10はこの日、涙にくれながら66分にピッチを後にした。37歳の彼は、65分に芝に足をとられて転倒。その際に右のハムストリングを痛めた。
数分後、中継カメラがメッシがベンチで号泣する様を捉えたが、涙以上に衝撃的だったのは、ソックスを脱いだ彼の右足首である。かなり腫れていた。
FCバルセロナでは数え切れないほどタイトルを手にしたメッシだが、アルゼンチン代表としてはなかなか勝てず、長く戦犯として叩かれた。ようやくブラジルに競り勝って2021年のコパ・アメリカで王者となり、その勢いのままカタールW杯でも優勝。もはや、メッシに懐疑的な視線を向けるアルゼンチン人はいなくなる。とはいえ、ベテランである彼に、残された時間はそれほど長くはない。
本人も、“最後のコパ・アメリカ”と認識しての出場だったに違いない。慟哭は、最後までプレーしたかったメッシの無念さを語っていた。
本コーナーでお馴染みのセルヒオ・エスクデロは語った。アルゼンチン・ユース代表、ビーチサッカー代表だった人である。
「今の代表は、リオネル・スカローニが非常に上手くチームをまとめています。46歳の若い監督で、選手たちの兄貴分。とにかく一人一人と密にコミュニケーションをとるので、チームが家族的なんです。友達みたいな仲の良さがある。
メッシがニコラス・ゴンサレスと交代した折、『彼のためにも、絶対にチャンピオンになるぞ!』と、よりチームが一つになりましたね。」
コロンビアで指揮を執ったのも、アルゼンチン人監督のネストル・ロレンソだった。母国がどんな戦い方をするのかを熟知し、今回はゾーンで対応した。アルゼンチンの苦しめ方を把握していた。
スコアレスのまま90分が経過し、延長後半の6分、ラウタロ・マルティネスのパスミスをコロンビアが奪い、カウンターを仕掛ける。
が、ハーフライン付近でレアンドロ・パレデス(30)がスライディングタックルでボールを奪って、ジオバニ・ロ・チェルソ(28)に繋ぐ。これをチェルソがスルーパスし、ラウタロ・マルティネス(26)が右足一閃。ボールをネットに突き刺した。
「ラウタロ・マルティネスは、5ゴールで得点王になりました。今季、24ゴールでセリエAでも得点王となっている彼ですが、代表ではスタメンじゃない。『俺を初めから使え!』『ゴールしているだろう!!』と、本人は何度も発言していますが、スーパーサブ的な扱われ方です。昔のアルゼンチンで言えば、ガブリエル・バティストゥータの控えだったエルナン・クレスポみたいな感じでしょうか。
それでも、スカローニ監督は、彼の良さを発揮させる采配をするので、腐ることなくやっています。ピッチに立ったら、絶対に結果を出す覚悟を持っている。次のワールドカップに向けて、いい競争がありますね。人材がいて、切磋琢磨しながらレベルが向上しているのが、今のアルゼンチン代表です。決勝の得点に絡んだ3名は、全員途中出場。層の厚さを示しています」
敗れたコロンビアの闘志も胸を打った。熱いコパ・アメリカが終了した。2年後のW杯に向け、それぞれのチームがまた動き始める。
「まず、メッシはケガを治してください。次のワールドカップも出るでしょう。ただ、スタメンか、途中からかはコンディション次第ですね。世代交代もいい感じだし、我が代表は強いですよ!」
涙の後のメッシの笑顔が、心に残った。