Yahoo!ニュース

女子ゴルファーはSNSの誹謗中傷やアンチとどう向き合っている?アマ・馬場咲希のインスタグラムを見て

金明昱スポーツライター
今季は米メジャーや国内ツアーへの出場機会が多い馬場咲希(写真・筆者撮影)

 プロのアスリートは常に世間の目にさらされながら、日々を過ごしている。もちろんプロの試合は興行なので、観客やファンがいてこそ成立するものだが、結果を残せば称賛され、そうでなければ批判にさらされる。ネット社会の現代では一つ一つのプレーや結果、言動がネット記事やSNS上に発信されることから、競技以外の部分で選手たちも気を回さなければならないことが多い。

 過酷な練習やトレーニング、緊張感ある試合に出てはファンサービスもこなし、SNSも発信する。もちろん趣味の一環として、インスタグラムやツイッターを通じて、ファンとの交流を楽しむ選手もいるだろうが、決して“いい声”ばかりでないのも事実だ。

 それでもファン獲得のため、自身をブランディングする能力が必要とされている時代に来ているのはいうまでもないが、ネットのコメントが荒れたり、SNSには“アンチ”がついてくるなど、競技とは関係ない場所でストレスを抱えることもある。アスリートも過酷な職業だなと感じる今日この頃だ。

 筆者は国内女子プロゴルフツアーの取材に行く機会も多いのだが、先週の国内女子ツアーの「ブリヂストンレディス」に出場したアマチュアの馬場咲希が5月20日に自身のインスタグラムを更新し、こんな発信をしていた。

人生初のホステスさんでした。

会場でもスタッフの皆さんが温かく迎えてくださり、嬉しい気持ちと共に、結果を出したくてとても気合いが入りました。でもとても悔しい結果に終わってしまいました。

お世話になってる人に恩返しするのってとっっっっっっても難しい。ごめんなさい。

最終ホールであんなことが起きるなんて、まさかのまさかでした。

次戦はサントリーレディースです!引き続き頑張りますので応援していただけたら嬉しいです。

今週も応援ありがとうございました。

最後に…

今回の試合の記事で私の家族について、Yahooに心ないコメントを残す方がいます。全米アマに優勝してから私に対しての誹謗中傷が始まり、乗り越えるのがとても大変でした。そして今度はいつもそばで支えてくれる家族の事を言われるなんてショックです。本当に耐えられません。私の家族を侮辱するなら、私の事なんて気にしないでください。(原文ママ)

注目される環境は「幸せなこと」?

 馬場咲希といえば、昨年の「全米女子アマチュアゴルフ選手権」で37年ぶり2人目となる日本人制覇を成し遂げ、ゴルフ界で一気に注目を集める存在となった。今季はアマチュアながら、米女子ツアーのメジャー大会の出場権を持ち、日本ツアーでも出場資格や推薦のある試合に出続けており、彼女のことが記事にならなかった大会はない。それだけの偉業を成し遂げたのだから、メディアに追われるのはある程度、仕方のないことかもしれない。

 この状況がダブって見えるのが、2019年に渋野日向子が全英女子オープンを制覇した時のメディアの取り扱い方で、ゴルフ界における“スター選手”のポジションが馬場にもできつつあることだ。

 馬場に何かとメディアを通じて話題になる現状について聞いたとき「そうした環境にいるのはすごく幸せなことだと思います」と肯定的に受け止めていたが、一方で成績が良くても悪くても、常に記事になる状況、特に「Yahoo!ニュース」のコメント欄の批判や誹謗中傷に対して、ほとほと嫌気がさしているのが見てとれる。

 まだプロ転向もしていないアマチュア選手が、これほど注目されることは稀だがまだ18歳。世界的なゴルファーになる可能性も秘めている選手で、技術的にも精神的に成熟していくのはこれからだ。それだけに、SNSやネット記事のコメントで心労していることが気の毒でならない。

金田久美子「Yahoo治安悪すぎて悲しいよねー」

 馬場の今回の書き込みに対しては、たくさんのフォロワーからたくさんの「いいね」がついていた。それは応援する人のほうが圧倒的に多い証拠でもある。さらに印象に残ったのは、馬場の心情を理解するプロゴルファーの先輩らがインスタグラムにメッセージを残していたことだった。

 昨季、11年ぶりにツアー優勝を飾った金田久美子はこう綴った。「Yahoo治安悪すぎて悲しいよねー。書く人間が一番悲しい人間だけどねー」。

 金田は金髪や派手なウェアとメイクで“ギャルファー”の愛称で親しまれ、インスタグラムのフォロワーは約17万人と近年はゴルフブームもあって、若い女性ゴルファーから高い支持を得ている。ただ、数年前までは「紳士のスポーツ」と言われるゴルフにへそ出しウェアなどの身なりがふさわしくないとレッテルを貼られ、「成績が悪い時期が続けば『練習しろ』とSNSやダイレクトメールがたくさんきた。結果で見返したかった」と語っている。

 彼女自身も「昔から私は嫌われていたしヒール役だった」と自虐的に話すが、人が見ていない場所で人一倍練習し、昨年の優勝シーンでの涙は多くの人の感動を誘った。

 金田がこんなことを語っていたことがある。「練習しているところや努力している姿を見せるのって好きじゃなかったんです。でも最近はトレーニングしているところや練習している姿を載せたりしています。そしたらアンチが少しずつ減ってきて(笑)」。

 “意外”とSNSと上手な付き合い方をしている選手だからこそ、馬場の心境が痛いほど分かるのだろう。

吉田優利「ゆーりもよくあったよ」

 もう1人、女子プロゴルファーでSNSの投稿が話題になる吉田優利も、馬場の投稿にこうコメントを寄せていた。

「ゆーりもよくあったよ。だからYahoo全然見てなかった!笑。いつでも聞くからね。その人たちが手のひら返ししてくるように一緒にがんばろ‼️」

 吉田は「TikTok(ティックトック)」が4.5万人、「インスタグラム」が16万人、「ツイッター」が5万人とフォロワー数の多さで有名だ。

 今季は国内メジャーの「ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップ」を初制覇してツアー通算3勝。実力も十分ではあるが、成績があまりよくなかった時期はSNSでの心無いコメントを書かれてきたと言っていた。

「やっぱり試合で成績が出なかったりすると、意外にもたくさん“言われてきた派”なんです。むしろ、こういう立場だからこそ、アンチが出てくるのは絶対にあると思うんです。でも、努力して成績が伴えばそういう声も減ってきますし、それは自分が一番よく分かっています」

 金田と吉田にSNSとの向き合い方について聞いたとき、共通していたのが「元々好きでやっている」というもの。“自分発信”することで、フィルターのない状態や気持ちがダイレクトにファンに届くというメリットがある。

 馬場も10代らしく、たくさんの方に応援してもらいたいとの思いと交流の場を作れることからインスタグラムをしているはずで、そうした“アンチ”コメントは見ないのが一番の対処法だとは思う。ただ、SNSやネットニュースは避けて通れない現代社会。どのように付き合い、向き合っていくのかは一つのスキルなのかもしれない。

 いや、そもそもは「書く人間が一番悲しい人間だけどね」――“ド正論”の金田久美子の言葉が胸に響く。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

金明昱の最近の記事