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鹿島アントラーズGKクォン・スンテがACL準決勝で水原FWに頭突きするほど熱くなった理由

金明昱スポーツライター
ACL準決勝の水原戦で勝利に貢献した鹿島GKクォン・スンテ(写真:アフロスポーツ)

 それは決して認められる行為ではなかった。だが、それほど勝ちたい思いが強かったのだろう。

 3日に行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)準決勝、鹿島アントラーズ(ホーム)と水原三星との第1戦。元日本代表DF内田篤人が終了間際に劇的な決勝ゴールを決め、鹿島が3-2で逆転勝利を収めた。

 だが、鹿島にとっては思わしくない出来事もあった。GKクォン・スンテの行為だ。

 前半44分、鹿島ゴール前で両選手が競り合う状況の中、こぼれ球から混戦状態になったが、クォン・スンテへの接触で鹿島ボールに。だが、熱くなったクォン・スンテは怒りが収まらず、水原FWイム・サンヒョプに頭突きをお見舞いしてしまった。

 映像で確認すると少し触れた程度に見えるが、やられたイム・サンヒョプとしてはたまったものではない。やや大げさに倒れると、両チームでもめて一触即発の状態になった。

水原は全北時代のライバル

 試合終了後、クォン・スンテはこう語っている。

「細かいミスが勝負を分けると強調していた中、もったいない失点が続いてしまった。相手が韓国のチームで、負けたくないという気持ちは持っていた。(警告を受けた場面は)よくないことではあるけど、選手のスイッチを入れるために必要だと思った。勝ててよかった」

 さらにこんなことも語っている。

「水原サポーターは自分のことを好きではないので、色々なことを言っていると思う。次のアウェーでの水原戦では、それがもっと激しくなると思う」

 韓国のチームなので負けたくない――ここに彼の思いが込められている。つまり、水原三星にだけは負けたくなかったという思いが強いのだ。

 クォン・スンテはKリーグの全北現代で長らくプレーしているが、国内リーグ4度の優勝を誇る水原三星は屈指の人気クラブで、熱くなったのは常にライバルチームだったことも関係しているに違いない。

ベストイレブンに3年連続選出

 クォン・スンテは2006年からKリーグの全北現代に入団。1年目から30試合に出場して、不動のGKとして君臨し、同年にいきなりACL優勝も経験。華々しい経歴をスタートさせている。

 2009年にはリーグ優勝に貢献し、2011年から2年間は兵役のため、軍隊チームの尚州尚武に入団。除隊後の2013年には、古巣の全北現代に戻り、少しずつトップチームで試合勘を取り戻していった。

 全北現代関係者によれば、クォン・スンテはディフェンダーがミスして失点につながったときは、「頭にカッと血がのぼって怒ることが多かった」という。

 見た目は温厚なのだが、試合になると熱くなってしまうのは根本的な性格だろうか。

 それでも、少しずつ冷静に状況を判断することを学び始め、2014年には出場のチャンスが増えた。レギュラーポジションを完全につかむと、同年から3年連続でKリーグベストイレブンに選出された。

 特に2014年に出場した試合の1試合あたりの失点率は0.56(34試合に出場して19失点)と、これまでの最小失点率を更新した年でもあった。その実績が認められ、2015年には韓国代表に初選出。

 さらに2016年はキャプテンとしてACLを制覇している。こうして韓国で絶頂期を迎える中、2017年にJリーグ挑戦を決意したわけだ。

再び韓国代表に戻れるか

 3度もベストイレブンに選出されたクォン・スンテからしてみれば、そうしたプライドもあり、かつてライバルだった相手に闘志をむきだしにする気持ちもわからなくもない。

 それに、Jリーグで成長した自分の姿をかつて戦ったことがあるKリーグの選手や韓国サポーターに見せたかったという強い気持ちもあるだろう。

 そして、その先には韓国代表として戦いたいという胸の内も見え隠れする。今でこそ、ヴィッセル神戸GKキム・スンギュとセレッソ大阪GKキム・ジンヒョンにその座を奪われているが、ACLは自分の存在感を韓国のサッカーファンに示す絶好の機会でもあったはずだ。

 何度も言うが、頭突き行為はほめられるものではない。

 だが、クォン・スンテが示した闘志と存在感を、久しぶりに韓国サッカーファンもその目に焼き付けたことだろう。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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