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藤井聡太竜王、広瀬章人挑戦者の新構想に苦しむも、一気呵成の寄せで1勝1敗のタイに 竜王戦第2局

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月21日・22日。京都府京都市・総本山仁和寺において第35期竜王戦七番勝負第2局▲藤井聡太竜王(20歳)-△広瀬章人挑戦者(35歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 21日9時に始まった対局は22日16時21分に終局。結果は105手で藤井竜王の勝ちとなりました。

 七番勝負はこれで両者ともに1勝1敗。第3局は静岡県富士宮市「割烹旅館 たちばな」でおこなわれます。

藤井「タイに戻すことができたので、また内容をしっかり振り返って、次局以降につなげていけたらと思います」

 藤井竜王の今年度成績は19勝5敗(勝率0.792)となりました。

広瀬挑戦者、趣向をこらした序盤戦術

 藤井竜王先手で、角換わり模様の立ち上がり。このままいつものように、現代最新のオーソドックスな形になるのだろう・・・。そう思われたところで10手目。後手番の広瀬八段が角交換に出ず、一つだけ上がった手が早くも波紋を呼びました。

広瀬「作戦はちょっとまあ、変わった指し方ですけど。この出だしはちょっとやってみようかなと思っていた形で」

 11手目。藤井竜王は自分から角交換する手に2分を使っています。

藤井「序盤から経験のない形になって」

 広瀬陣は通常の3三銀ではなく、変則的な3三金型になります。これが広瀬八段が用意していた作戦でした。さらにこの形からの組み合わせとして、早繰り銀ではなく、腰掛銀にしたのもレアな選択です。ほんの少しだけ形を変えるだけで、まったく違う世界が見られるのも、将棋の奥深いところです。

広瀬「3三金の形がまあ、基本的にはわるい形なんですけど。本局のような形にもっていって、あまりマイナスにならないような展開をこころがけていたつもりです」

 想定を大きくはずされた格好の藤井竜王。39手目、勢いよく歩を突っかけて動いていきました。

藤井「▲4五歩から仕掛けていったんですけど。そのあと、▲2四歩と突き捨てないと△4七銀と打たれてしまう筋があるのが誤算で。本譜、進んでみるとちょっと、自信のない展開にしてしまったのかなと思っていました。そのあと、なんか少し苦しい展開が続いていたのかなと思うんですけど」

広瀬「わりとオーソドックスなというか、シンプルな形から仕掛けられて。そんなにわるい展開にはならないかなと思っていたんですけど」

 56手目を広瀬挑戦者が封じて、1日目終了。形勢は互角ながら藤井竜王は時間を使う進行で、後手番の広瀬挑戦者がうまくやったのではないかとも見られていました。

 2日目。広瀬挑戦者の封じ手は桂を取る手でした。代わりに8筋の歩を取り込む方が本命と見られていて、このあたりは大変に難しいところです。

 57手目。藤井竜王は取れる桂を取らず、相手陣に迫っていた銀をじっと中央に引きつけました。

藤井「ちょっとあのあたりはなんか、苦しくしてしまったかなと思って指していました」

 しかしこの銀引きは広瀬挑戦者の意表を突いたようです。

広瀬「封じ手開けてからの手順があまり読んでなくて。ちょっと先手側の方も曲線的なので、わるくはないかなと思っていたんですけど。2日目の昼ぐらいからちょっとずつ苦しさを感じ始めて」

 大きな差がついたわけではないものの、形勢は少しずつ藤井竜王がペースをつかんでいたようです。

藤井竜王、さすがの終盤力

 74手目。広瀬挑戦者は藤井陣に角を打ち込んで勝負に出ます。対して藤井竜王が相手の手に応じながら、見事に切り返していきます。

広瀬「あそこでもうちょっとバランスを保つ手があればなと思っていたんですけど。そこから流れが急になって」

藤井「(76手目)△3七歩に▲同金と取って、さばき合いになったあたりは、ちょっといいのかはわからなかったんですが、一応攻め合いの形にできたので、チャンスのある展開なのかな、と思っていました」

 81手目。藤井竜王は自玉上部に迫る銀を取らず、金を上がります。これが鮮やかな攻防の一手でした。

広瀬「▲4六金と上がられたところで手がないと確かに苦しいなと思っていたんですけど。もうちょっと辛抱強く指さないといけなかったように思います」

藤井「途中から少し、こちらの持駒が増えて、攻めをねらえる形になったので、そのあたりから少し好転してきたのかな、というふうに思います」

 午後のおやつが出される頃には、局面は最終盤。藤井竜王の駒はすべて急所に利いてきます。

広瀬「ちょっと最後は、もうちょっとマシな順はあったかもしれないですけど、足りない形になってしまったなと思います」

 105手目。藤井竜王は広瀬玉の腹に銀を打ち、一気呵成に受けなしに追い込みました。考えること5分。広瀬八段は次の手を指さず、投了。比較的早い時刻での終局となりました。

広瀬「ちょっと本局はあまり見どころなく終わってしまったので、次局からはそういうことがないように、しっかり準備して挑みたいと思います」

 終局直後、広瀬八段はそう語っていました。しかし序盤の斬新な構想は大きな見どころを作っていたように思われます。

 藤井竜王はこれまで、タイトル戦の番勝負では連敗したことがありません。今期竜王戦でもまた、すぐに白星を返しました。

 藤井竜王と広瀬八段の通算対戦成績は藤井6勝、広瀬2勝となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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