【落合博満の視点vol.11】春季キャンプで守備の基本は徹底されているか
東京五輪による中断を織り込んだシーズンゆえ、3月20日に開幕するプロ野球では、早くもオープン戦が始まる。そんなプロ野球や社会人の春季キャンプを取材して、実戦力を養う練習とは何かをあらためて考えさせられた。
2004年に中日で監督に就いた落合博満は、キャンプ初日に紅白戦を実施して度肝を抜いた。
「初日に紅白戦だと言っておけば、シーズンオフの間にしっかり準備をせざるを得ない。そういう意識を植えつけるためにやっただけ。昔はよくやっていたことなんだよ」
そう落合は涼しい顔で語ったが、それ以上に神経を費やしたのが基本の徹底だった。まず野手を集めると、「内外野の間に上がったフライは、すべて外野手に優先権がある。左中間、右中間のフライは、すべてセンターに優先権がある」と確認し、ケースノックやシート打撃の際にも繰り返して確認した。プロならば、言わずもがなではないかと感じたが、落合は神妙な顔つきで言った。
「本当にフライの優先権が徹底されているなら、なぜあんなに衝突やお見合いが起きるの。プロで一番多いのは、小学生でもできるプレーをミスすることでしょう。それは、プロなんだからわかるだろう、できるだろうで片づけ、しっかり確認や練習をしないから。変な負け方をしたくなければ、基本の基本を徹底しておかなければいけない」
ある若い選手に、落合は投内連係を反復練習する意味を尋ねた。
「一塁方向へのゴロを投手、一塁手、二塁手の誰が捕るかの確認。また、ベースから離れてゴロを捕った一塁手が、一塁ベースカバーに入った投手へボールをトスするタイミングを合わせるためです」
落合は即座に否定した。
「なぜ、一塁手がカバーリングの投手にトスすることが前提なの。まず一塁手は、ゴロを捕球したら、どこまで自分自身でベースを踏みに行けるのかを知らなきゃいけない。打者走者の走力によって、その範囲も変わってくるのだから」
さらに、落合はこう説いた。
「守備では、いかに少ない人数でアウトにするかがポイントになる。ショートゴロは、遊撃手が打者走者より早く一塁ベースを踏むことができないから、一塁手に送球してベースを踏んでもらうんだ。プレーに送球が一つ絡んだら、悪送球と捕球ミスという2つのリスクが生まれる。勝利に近づくためには、ミスするリスクをできる限り避けなければいけない。二遊間の併殺プレーでも、優先すべきは自分で二塁ベースを踏むこと。どうしても自分ではベースに入れないという場合に、ベースカバーの野手へ送球すると考えてほしい」
守備が上手いか否かでなく、どこまで基本を徹底されているかが重要
タイロン・ウッズもトニ・ブランコも、この意識を徹底され、不安だと言われていた守備面で大きなマイナスを出さなかった。落合は言う。
「現役時代に経験があるけど、一死満塁の場面でピッチャーゴロはホームゲッツー。一応、マウンドに行って『いいか、ゴロを捕ったらホームへ送球するんだぞ』と確認すると、『はい、わかっています』と言う。それでも、ピッチャーゴロを捕ったら振り向いて二塁へ投げちゃうヤツ、たくさん見てきたからね。試合中は興奮状態にあるし、頭が真っ白になる選手もいる。だから、プロであっても、選手はできない、忘れるという前提で話をしなきゃならない。タイロンやブランコの守備力より、本当に不安なのはそういう部分だから」
春季キャンプの期間で、そうした意識をどこまで選手に徹底できるかが、勝てるチームになるかどうかの大切な要素なのだと知った。
2月に足を運んだキャンプで、そんな次元で練習に取り組んでいたのは社会人の東芝だ。都市対抗で優勝を狙えるチームの戦力に、それほど大きな差はない。ならば、どこまで頭を使ってプレーできるかが勝敗を左右することもあると、実戦形式の練習では常に細部まで確認作業が徹底されていた。
その練習をじっと見守り、時にはプレーを止めて選手に指示を出している平馬 淳監督は、現役時代は強打の内野手だった。2018年に監督に就任すると、投手を中心とした守りの堅いチームを作り、その年の日本選手権、昨年の都市対抗でベスト4に進出している。
10年ぶりの都市対抗優勝を目指す今季は、岡野祐一郎(現・中日)と宮川 哲(現・埼玉西武)の二枚看板が抜けたからこそ、ディフェンスの強化に注力しているようだ。自身がスラッガーだったからこそ、打線は水ものだということを痛感しているのだろう。東芝の守備力が、どこまで洗練されるか注目したい。
(写真提供/小学館グランドスラム)