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ライト級4冠戦を制するのはヘイニーか、ロマチェンコか。米メディアの予想は三者三様

杉浦大介スポーツライター
Mikey Williams/Top Rank

5月20日 ラスベガス MGMグランドガーデン・アリーナ

世界ライト級4団体統一戦

4団体統一王者

デビン・ヘイニー(アメリカ/24歳/29戦全勝(15KO))

12回戦

元3階級制覇王者、元ライト級3団体統一王者

ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ/35歳/17勝(11KO)2敗)

 ボクシングファンなら見逃せない一戦が目前に迫っている。

 群雄割拠のライト級で4冠王者になったヘイニーが、3階級制覇ロマチェンコを迎え撃つ。サイズ、若さで大きく上回るヘイニーが下馬評通りに初のビッグイベントを制するのか。“ハイテク”と称される英雄ロマチェンコが大舞台でベテラン健在を証明するのか。

 決戦直前、殿堂MGMに集まった3人の地元メディアに3つの質問をぶつけ、この注目ファイトを占ってみた。 

パネリスト

スティーブ・キム(元ESPN.comのメインライター。韓国系アメリカ人。業界内に幅広い人脈を持つ Twitter : @SteveKim323)

マルコス・ビレガス(Fight Hub TVの創始者、インタヴュアー。かつてFOXのボクシング中継で非公式ジャッジを務めた Twitter @heyitsmarcosv)

ショーン・ジッテル(FightHype.comのレポーター。ラスベガス在住。全米を飛び回って取材し、著名選手からも信頼を得る Twitter : @Sean_Zittel)

1.予想不利のロマチェンコが勝つための鍵は

キム : ロマチェンコはアグレッシブに攻める必要がある。開始直後から前がかりになり、ヘイニーのジャブを外し、カウンターの左を狙うべき。距離を詰めることができれば、ロマチェンコの勝機は膨らむ。ロマチェンコは序盤に“相手の戦力をダウンロードする”などと言われたが、そんな暇はない。いつも通りスロースタートを切っていたらこの試合は終わってしまうだろう。

ビレガス : ヘイニーのリーチの長さに負けず、自身の得意な距離の戦いに持ち込めるかどうか。中間距離か接近戦でならロマチェンコはコンビネーションを打ち込むチャンスがあり、ボディをうまく攻めれば主導権を握れるだろう。ヘイニーの方は距離を取り、ジャブをうまく使えればポイントでの勝利が見えてくる。

ジッテル : ロマチェンコとほぼ同じサイズのジョセフ・ディアス(アメリカ)は、ジャブを外し、左を打ち込むことでヘイニーに対して一定の成功を収めた。ディアスにそれができたのは、自身のパンチを当てるためには相手のパンチを一発浴びても構わないという強い意志があったから。ロマチェンコはテクニシャンであり、ディアスと同じように考えるかはわからない。ただ、現時点での両者がチェスマッチを行えば、より若く、身体も大きなヘイニーに分があるように思う。今戦でのロマチェンコにはスロースタートは許されないし、アグレッシブに打って出る必要がある。テオフィモ・ロペス(アメリカ)に敗れた後の中谷正義(帝拳)戦でのロマチェンコは決意が感じられ、いつになく積極的に強打を振るっていった。その試合と同じように戦うべきだ。ヘイニーに勝つためには、中谷戦のように切迫感を感じ、無慈悲に手数を出さなければいけない。

スティーブ・キム記者 撮影:杉浦大介
スティーブ・キム記者 撮影:杉浦大介

2.ヘイニーはライト級ではかなり大柄で、体重調整が容易ではないことがこの試合にどう響くか

キム : 減量苦がパフォーマンスに影響する可能性はあるとは思う。ただ、現代のボクシングでは計量は1日前に行われ、今回に関しては前日の朝9時だ。昔のように計量に疲弊して現れ、その11時間後に戦わなければいけないというわけではない。この変化は個人的には好きではないが、計量後に30時間も回復の時間があるのはヘイニーにとって大きなアドバンテージ。ロマチェンコ陣営がなぜこれを承諾したのかはわからない。過去、ヘイニーはややエナジー不足に思えることがあったが、今回はいいトレーニングキャンプを過ごしたとも聞いている。

ビレガス : 個人的にはヘイニーはカンボソスとの再戦時よりもいいコンディションを作ってくるのではないかと思う。カンボソス再戦のときのヘイニーはまるでスケルトン。減量に苦しんでいるのは明白だった。今回はより体調が良さそうで、試合には影響しないだろう。とはいえ、厳しい減量に悩まされているのは事実であり、この試合の後で階級を上げてもまったく驚かない。

ジッテル : 体重調整の難しさが響いてきても不思議はないし、もしもヘイニーが敗れるようなことがあれば、「ヘイニーはライト級で1試合多くやりすぎた」という論調になるのだろう。ただ、ヘイニーはまだ若い。24歳という年齢では無理が効くもの。計量後、試合までには150パウンドくらいまでは体重が戻るだろうし、個人的には体重苦もやり過ごせるのではないかと考えている。

マルコス・ビレガス記者 撮影:杉浦大介
マルコス・ビレガス記者 撮影:杉浦大介

3.試合予想は

キム : 様々な不確定要素があるために予想は難しく、私はいまだに答えが出せていない。より若く、サイズで勝り、リーチでも上回るヘイニーが有利と見られているが、ロマチェンコに大きなチャンスがあると見る。ロマチェンコが前戦のジャーメイン・オルティス(アメリカ)戦で苦戦を味わったのは、ブランク明けの錆びつきのためか、あるいは衰えが理由だったのか。母国の戦争に参加し、リングから離れ、かつてスパーリングパートナーだった選手と戦ったのだから、最高の力を出せなかったのは仕方がないのかもしれない。ただ、それらは関係なく、加齢ゆえの衰えだったとしても不思議はない。すべての答えを出すために、今戦のロマチェンコには序盤から仕掛けて欲しいと願う。

ビレガス : ロマチェンコの判定勝ち。条件だけを考慮すれば、より若く、サイズ、リーチでも大きく上回るヘイニーが優位に見える。ただ、人々は過去2戦の出来が良くなかったという理由で、ロマチェンコがどれだけ偉大な選手かを見過ごしていると感じる。ここでは思い切って、ロマチェンコの勝利を予想したい。もしかしたら、大外れかもしれないし、その可能性は高いのかもしれないが、ここでは自分の直感を信じたい。偉大なボクサーというのは、“最後の大一番”と呼べる一戦で偉大なパフォーマンスを見せるものだ。

ジッテル : ヘイニーの3-0判定勝ち。ヘイニーはライト級最高、ボクシング界全体でも最高級のジャブを持っている。シャクール・スティーブンソン、ジャーボンテ・デービス(ともにアメリカ)はより的確なのかもしれないが、ヘイニーは彼らよりも手数が出る。サウスポーのロマチェンコ相手にはジャブを当てるのは少し難しいとしても、今戦でのヘイニーは多才さを誇示し、多くの右パンチもヒットすると見ている。ロマチェンコの左パンチを浴びるシーンもあるとしても、最終的にヘイニーが判定を握るだろう。

ショーン・ジッテル記者 撮影:杉浦大介
ショーン・ジッテル記者 撮影:杉浦大介

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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