近鉄特急「ひのとり」にあえて乗ってみた 新幹線があっても名阪甲特急を選ぶ理由は?
先日、関西に用事があった。帰りは大阪難波から名古屋まで、あえて近鉄特急「ひのとり」に乗ってみることにした。
筆者は東京都内在住なので、新大阪から東海道新幹線に乗ればそのまま東京につく。名阪間を移動する人の多くも、東海道新幹線を利用していると考えられる。新幹線「のぞみ」だと名阪間は50分程度であり、いっぽうで近鉄特急「ひのとり」は2時間5分から2時間12分程度となっている。
正直なところ、時間はかかる。倍以上だ。運賃・料金は一般の座席で「のぞみ」6,680円(通常期)、「ひのとり」4,990円であり、1,690円の差である。
しかし、「ひのとり」をほめたたえる人は多い。なぜだろう。
そう聞くと、乗ってみるしかないのである。
ゆったりとした車内の質感がたまらない
大阪難波11時00分発の「ひのとり」に乗ってみることにした。乗車日は平日である。きっぷは駅の券売機で買った。
ちょっと暗い感じの地下ホームに、「ひのとり」が入線してきた。車体の赤色が美しい。吸い込まれるような深みがある色である。
レギュラーシート車両に乗る。座席はバックシェルスタイルのもので、いくら倒しても後ろの人に影響が出ないようになっている。テーブルはひじ掛けの中にも、前席の背の部分にも備えられている。大きなテーブルは引き出して前後に位置を調整できる。足元にはレッグレストがある。
乗客はそれほど多くない。車内の静寂性は高く、あわただしさを感じさせない。
大阪上本町、鶴橋とターミナル駅に停車する。その後は津まで停車しない。
トイレに行き、その後洗面所へ。洗面所には使い捨てのおしぼりが備えられていた。ここまで気の利いたサービスは、いまどきない。
無人のカフェスポットでは、挽きたてコーヒーや茶菓子などを購入できる。購入は現金のみとなっているが、千円札用の両替機もある。コーヒーのふたや砂糖、ミルクはたっぷりと用意されており、なくなる心配を感じさせない。
深煎りのコーヒーを購入し、席へと戻る。車窓には大阪南部の住宅が立ち並んでいる。
奈良県に入ってしばらくすると、緑豊かな農業地帯へと入っていく。飛鳥時代には朝廷が置かれたところだ。風景の美しさも、東海道新幹線にはないものである。
本を読みながらコーヒーを味わい、ひとときをすごす。ここで読んだのは、新田浩之『日本最大の私鉄 近鉄 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)。せっかく近鉄特急に乗ったのだから、読む本もそれに合わせることにした。本の内容も、乗っている列車も、さすが近鉄、と感じる。
名張あたりでは、古くて大きな住宅が割と多く感じられる。その後は山間部へ。このあたりで最高速度130km/hを出していてもいいのだが、一生懸命走っているのではなく優雅な感じを醸しだす。
長いトンネルを抜け、しばらく経つと伊勢中川の短絡線に入っていく。この短絡線では速度を大きく落とす。
その後、津に着く。津を出ると、近鉄名古屋へ。近鉄名古屋には13時05分着のところ、13時22分ごろについた。
あえて「東海道新幹線」に乗らない選択
確かに東海道新幹線で大阪と名古屋を行き来するほうが、時間はかからない。しかし、近鉄特急、とくに名阪甲特急を利用するのにも、それなりのいいところがある。
まずは難波や上本町など、大阪市の「ミナミ」へのアクセスにすぐれているというのがある。大阪のどこに行くかにより、新幹線か近鉄特急かを選択するということを考えることができる。
また、ゆったりとした時間と空間を求めるために、あえて近鉄特急、それも停車駅の少ない名阪甲特急に乗るという選択もある。近鉄「ひのとり」のアピールポイントはゆったりとした空間であり、普通の座席でも一般特急のグリーン車並みの設備を備えていることからもそれはわかる。
新幹線では「時間」を買い、「ひのとり」では「質感」を買うとも考えていい。ほめたたえられる理由もわかるのである。
あえて急がない。ゆったりとしたい、美しい車窓からの風景を眺めたい、車内でコーヒーを飲みたいという人は、「ひのとり」に乗ってみるのもいいのではないだろうか。