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人気の主演女優もイジメ疑惑で“退場”となる韓国芸能界…求められる「中立ギア」とは

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ドラマ『青春時代』当時のパク・ヘス(一番左)(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

韓国芸能界で起きている「#暴 too」の暴露の連続によって、業界全体にその余波が広がっている。

疑惑の真偽を問わず、その名が浮上した芸能人の出演ドラマの放送が延期されたり、出演広告が中断されたりする“実害”が続出しているのだ。

最も顕著なのは、韓国の国営放送KBSだろう。

ドラマや番組出演者に次々と疑惑浮上

KBSの新ドラマ『Dear.M』(原題)は、最終的に初回放送の延期を決定した。理由は、主演女優パク・ヘスの過去の疑惑が日に日に深まり、事態の収拾の兆しが見えなかったからだ。

(参考記事:“いじめ疑惑”で主演ドラマの初放送が無期限延期に…なぜ女優パク・ヘスの疑惑は収まらないのか

パク・ヘスへの疑惑は先月2月20日、とあるオンラインコミュニティに「証拠ないが、女性芸能人に学校暴力を受けたことをどう知らせようか?」というタイトルの文章が掲載され、始まった。

パク・ヘス側はすぐに疑惑を否定したが、その後もパク・ヘスに学生時代、嫌がらせや暴力を受けたと主張する者が次々と現れ、むしろ疑惑が深まっていった。

現在は“パク・ヘス被害者の会”を名乗る集団まで登場し、「所属事務所は証人がこんなに多いのに、一体どんな経緯で事実無根と主張しているのか」などと追及している状況だ。

そんな一連の騒動を受けて、パク・ヘス主演ドラマ『Dear.M』についても「疑惑の女優が出るドラマを放送するな」との声が上がり、KBSは放送延期を決定したというわけだ。

同じくKBSは、新バラエティ番組『カムバックホーム』(原題)のスケジュールも延期ししている。同番組には、学生時代の疑惑で渦中の人物となった俳優チョ・ビョンギュがMCとして出演する予定だった。

チョ・ビョンギュの所属事務所は疑惑を否定しているが、『カムバックホーム』の制作陣は「現在、チョ・ビョンギュは一連の騒動に対して法的対応を進行中だ。しかし予想よりも法的判断が遅れており、編成を最終確定すべき現時点で、出演者の出演を強行するのは無理があるという判断のもと、最終的にMCチョ・ビョンギュの出演を保留した」とその理由を明かしている。

さらにKBSは、ドラマ『月が浮かぶ川』に出演中の俳優ジスにも疑惑が浮上。視聴者掲示板には彼の降板を求める請願が上がり、1500人が賛同する事態となっている。

他にも、疑惑が浮上した(G)I-DLEのスジン、Stray Kidsのヒョンジン、APRILのイ・ナウンらを広告モデルとして起用していた韓国化粧品メーカーのCLIOが、彼らの広報活動を直ちに中断した。

関係者は『スポーツソウル』の取材に対し、「学生時代の疑惑の結果が明確になれば、契約上の損害賠償や違約金関連の項目を土台に広告返金訴訟も検討中」と述べている。

つまるところ、疑惑が浮上しただけでも、芸能人はテレビ番組や広告から事実上の“退場”を迫られているわけだ。

求められる“中立ギア”とは

学生時代の疑惑ではないが、グループ内でいじめがあったとの暴露が最近出たK-POPガールズグループAPRILのイ・ナウンも、モデルを務める広告が中断され、出演した番組の出演部分が再編集されるなどしている。

実際に疑惑が真実と明らかとなり、謝罪する芸能人も出ているものの、現在の状況を見る限り、“暴露した者勝ち”の現実があることは間違いない。

これまで「いじめの加害者だ」という疑惑は、芸能人のイメージに傷がつくという印象が強かったが、現在はその真偽にかかわらず関係者に実害が及んでいる状態といえる。

疑惑を所属事務所が強く否定しても、実際に芸能人が放送延期や出演保留といった状況に追い込まれているからだ。

だからこそ強調したいのは、「“中立ギア”を入れるべき」という一部からの声ではないだろうか。

“中立ギア”とは、ニュースの内容が確実になったり、事実関係が確認されたりするまでは、憶測や一方的な主張だけを鵜呑みにするなという意味のネット用語だ。

連日連夜、報じられる芸能人の疑惑について、一度冷静になって考えるべきとの戒めの言葉でもあるだろう。

実際にネット上の匿名掲示板で行われている暴露には、一方的なものや嘘も少なくない。冷静に推移を見守らなければ、罪のない被害者が生まれることにもつながる。暴露者の主張であれ、芸能人側の主張であれ、片方だけを信じ鵜呑みにするのは危険だ。

ただ、疑惑が事実なのか、虚偽なのかを明らかにするためには、少なくない時間が必要となるのも事実だろう。10年以上も前の出来事も多く、それぞれの立場や記憶が異なることもあるため、事実確認には膨大な時間を要する。鋭く対立して法廷争いとなれば、さらに多くの時間が必要になってくる。

何よりも、テレビ局や広告出稿企業が噂に上がった芸能人を一時的に“退場”にする過剰な反応をしているのも、疑惑の段階で世論が大騒ぎするからに他ならない。第三者は真実が明らかになるまでは、どこまでも中立の立場しかとれないはずだ。

いずれにしても学生時代の疑惑で、大騒ぎが続いている韓国芸能界。波紋は広がり続けており、今のところ終わりが見えないのでそれがまた悩ましい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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