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沖縄の「もずく」を使ったメニューも斬新、都営地下鉄新宿線篠崎駅「つぐみ食堂」

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
「つぐみ食堂」の「もずくそば」(筆者撮影)

 「つぐみ食堂」は都営地下鉄新宿線の篠崎駅から歩いて5分程の京葉道路沿いにあるカウンタースタイルの大衆そば屋である。創業は2021年9月とまだ新しい店である。店はL字のカウンターで9席ほど。店内は明るく清潔感がある。

「つぐみ食堂」は都営地下鉄新宿線の篠崎駅から歩いて5分程(筆者撮影)
「つぐみ食堂」は都営地下鉄新宿線の篠崎駅から歩いて5分程(筆者撮影)

ユニークなメニュー開発が人気の秘訣

 店長は調理経験が豊富な平良伸さん。名前から想像できる通り、沖縄が故郷の好青年である。こちらでは平良さんや従業員たちによるユニークなメニュー開発が人気の秘訣のようだ。

 「かき揚げ」、「ゲソ天」、「春菊天」などの通常メニューに加え、ゲソの香りと紅生姜が出会った「ゲソ紅生姜かき揚げ」、ピリッと辛い青唐辛子とゲソをマッチさせた「青唐辛子ゲソ天」などのヒットトッピングを誕生させている。そして、今度は沖縄の「もずく」を使ったそばを開発し密かに人気になっているとか。

店長の調理経験が豊富な平良伸さん(筆者撮影)
店長の調理経験が豊富な平良伸さん(筆者撮影)

今度は沖縄の「もずく」をチョイス

 半年ぶりに伺うと平良さんが笑顔で迎えてくれた。相変わらずおいしそうな天ぷらがカウンターに並んでいる。平良さんによると、親戚筋が沖縄で水産業に携わっており、新鮮な沖縄の魚介類を手に入れやすかったため、今回は「もずく」を選んで送ってもらっているという。

おいしそうな天ぷらがカウンターに並んでいる(筆者撮影)
おいしそうな天ぷらがカウンターに並んでいる(筆者撮影)

 そばに「もずく」のような麺に似たトッピングをのせる例としては幾つかある。栃木県佐野市の郷土そば「大根そば」は冷たいもりそばの上にさっと茹でた千切りの大根がのる。また栃木県鹿沼市では湯がいたニラをもりそばにのせた「ニラそば」が人気である。そばのかさ増し的な要素もあるが、いまでは人気の郷土そばとなっている。

沖縄産「もずく」を親戚筋から仕入れている(平良伸さん撮影)
沖縄産「もずく」を親戚筋から仕入れている(平良伸さん撮影)

「もずくそば」「もずくもりそば」「もずく天そば」

 一方、「もずく」を使ったそばは一部の老舗そば店などでも提供されているが、大衆そば屋では珍しいトッピングかもしれない。「もずく」は沖縄産が多くやや太めのタイプ。トッピングとしてはそばつゆにも合うだろうしいいアイデアだと思う。また同じ海藻類で「めかぶ」などをトッピングすることも多い。そのあたりの違いはどうだろうか。

 平良さんによると、かけそばに直接のせて食べる「もずくそば」の他に、「もずくもりそば」、もずくの天ぷらをのせた「もずく天そば」を提供できるとのこと。そこでさっそく「もずくそば」を注文してみた。

 待つこと2分。「もずくそば」が到着した。その姿が実に美しい。どんぶり半分に「もずく」、そしてシーサーかまぼこが2枚、下半分にねぎがのる。まず、つゆをひとくち。豊かな昆布の味を感じるし、鰹節、鯖節などで丁寧に出汁をとっているうまいつゆだ。返しはやや控えめだがしっかりした味である。そして「もずく」とそばを一緒に食べてみると、このつゆの味とベストマッチである。とにかくつゆの味と「もずく」が凄く合っているので驚いた。また、「めかぶ」と違い「もずく」は麺のような食感が面白い。

登場した「もずくそば」(筆者撮影)
登場した「もずくそば」(筆者撮影)

太めの「もずく」とそばつゆがベストマッチ(筆者撮影)
太めの「もずく」とそばつゆがベストマッチ(筆者撮影)

「もずく」を台としてオンするというアイデア

 これはもしかすると「もずく」はヒット性のあるトッピングになる可能性があると直感した。例えば「もずくとたぬき」、「もずくととろろいも」、「もずくときつね」、「もずくとゲソ天」といった「もずく」を台としてオンするとうまさが広がると思ったわけである。すると平良店主は秋田産の山芋とろろを合わせた「もずくとろろそば」はメニュー化していると教えてくれた。もちろん他も対応できるという。また、「もずく天そば」は隠れた人気メニューだという。

秋田産の山芋とろろを合わせた「もずくとろろそば」(平良伸さん撮影)
秋田産の山芋とろろを合わせた「もずくとろろそば」(平良伸さん撮影)

「もずく天そば」も人気だ(平良伸さん撮影)
「もずく天そば」も人気だ(平良伸さん撮影)

「もずくたぬきそば」はツルッとカリッといい食感(平良伸さん撮影)
「もずくたぬきそば」はツルッとカリッといい食感(平良伸さん撮影)

沖縄の素材を使ったメニューを増やしていきたい

 「もずく」は沖縄から定期的に送付してもらっているが売り切れることもあるとか。しかしそんな時には、「ゲソ紅生姜かき揚げ」もあるし、「青唐辛子ゲソ天」、「ゲソ天そば」、「春菊天そば」もある。とにかくうまそうな天ぷらも多いし、目移りして困るくらいだ。ご近所の方が羨ましい。さて今度は、「もずく天そば」と「仙台牛ローストビーフ丼」のセットを食べようと心に決めている。

 平良さんはこれから「ラフテー」など沖縄の素材を使ったメニューを増やしていきたいという。「つぐみ食堂」は今後も定期的チェックが必要な店である。

「ゲソ紅生姜かき揚げそば」はヒット商品だ(筆者撮影)
「ゲソ紅生姜かき揚げそば」はヒット商品だ(筆者撮影)

「青唐辛子ゲソ天」はぴりっと辛い(筆者撮影)
「青唐辛子ゲソ天」はぴりっと辛い(筆者撮影)

蕎麦 つぐみ食堂
住所:東京都江戸川区篠崎町7-12-18
営業時間:月~土 5:00~14:00
定 休 日:日

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

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