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レギュレーションFD襲来! ディスクロージャーはフェアに行こう!

太田康広慶應義塾大学ビジネス・スクール教授
(写真:アフロ)

ディスクロージャーはフェアに!

ついに、レギュレーションFD、日本上陸の模様。レギュレーションFDの"FD"はフェア・ディスクロージャーの意味で、簡単にいえば、企業の情報開示をフェアにやりましょうという規制である。

金融庁は2日、上場企業が未公表の重要情報を証券会社のアナリストら特定の人に伝えた場合、すぐに公表するよう求める新ルールの最終案を示した。

(中略)

ルールは、例えば企業が公表前の決算情報を証券会社のアナリストら「特定の人」に伝えた場合、自社のホームページなどで速やかに公表するよう求めている。

出典:2016/12/3付日本経済新聞 朝刊

これは、アメリカでは、2000年から適用されているルールである。一言でいえば「私的開示なし (No private disclosure)」ということで、要するに、上場企業が誰かに重要情報を知らせたなら同じ情報をすぐに公表しなさいということである。

アメリカから16年以上遅れて導入されそうということでかなり驚いた。どうせ導入するのならもっと早く導入すればよかった。なぜこんなに時間がかかったのかわからない。日本は独自の判断でレギュレーションFDはマイナス面が大きいと考えて導入しないことにしたのだと想像していた。最近になってアンフェアなディスクロージャーが増えるなど、状況の変化があったのだろうか。

金融庁は今年4月、クレディ・スイス証券のアナリストが上場企業の業績に関する情報を公表前に入手し、営業担当者らに伝えて顧客を勧誘していたとして同証券に業務改善命令を出した。

出典:前掲記事

この事案が問題視されたのかもしれない。

レギュレーションFDで情報は増えるのか減るのか

レギュレーションFDのプラス面

レギュレーションFDには、プラス面とマイナス面とがある。プラス面は、インサイダー情報が出にくくなるので、株式市場参加者の疑心暗鬼を減らすことができるということがある。

たとえば、今、株を売ろうとしている人が、子供が大学へ進学したりしてお金が必要になったから換金処分しているだけなのか、それとも、何かみんなが知らないようなネガティブな情報を持っていて売ろうとしているのかが判断できなければ、その株式を買うのをためらう人も出てくるだろう。そうなると、株式売買がうまく行かず、株価が下がりがちになり、企業が株式で資金調達するときのコストが上がってしまう。資金調達コストが上がると、野心的なプロジェクトに投資しようとしている企業に十分なリスク・マネーが行き渡らないことになってしまう。

レギュレーションFDがあれば、誰かに公開した重要な情報はすべて公開されるはずなので、インサイダー情報を知っている市場参加者がいる可能性は低くなり、安心して株式を購入することができるようになる。

レギュレーションFDのマイナス面

マイナス面は、情報を集めようとする気が削がれる点にある。あなたが証券アナリストだとして、担当する企業の人にインタビューして何か重要な情報が得られたとき、それがすぐに公表されるとわかっていたら、熱心に情報を集めようとするだろうか。重要な情報がすべて公開されているなら、公開情報だけをカバーしておけば十分で、それ以上、コストを掛けて情報収集してもあまり意味がないことになってしまう。

証券アナリストの情報収集意欲が削がれると、市場に出まわる情報は少なくなってしまうかもしれない。その分、新しい情報が株価に織り込まれるのが遅くなってしまう。

何が重要な情報か

そして、何が「重要な情報」なのかについての判断は企業に任される。こうなると、企業としては、保守的に考えて、重要性の低い情報まで公開するようになるかもしれない。もしそうなら、株式市場に出まわる情報自体は増えるだろう。

また、報道機関に伝えた場合は、レギュレーションFDの対象にはならないので、今後は、ウェブサイトでのプレス・リリースや報道機関とのあいだのインタビューなどによる情報開示が増えるかもしれない。アナリストは、プライベートな情報の収集よりパブリックな情報の分析に力点をおいた活動をするようになっていくだろう。

アメリカではどうだったのか

アメリカでレギュレーションFDが施行されたあと、初期のデータを使った実証研究がある。

Heflin, Subramanyam, and Zhang (2003)によると、

  • 利益が公表される前と後とであまり株価が変わらないという意味で、利益公表前から情報が株価に織り込まれるようになった。
  • アナリストの予測がとくに外れるようになったとか、意見の不一致が見られるようになったということはない。
  • 将来の利益に関係する情報を企業が自発的にディスクロージャーするようになった。

とのことである。レギュレーションFDによって情報が減ったということはアメリカではなかったらしい。

一方、アナリストの影響力は下がっている。Gintschel and Markov (2004)によると、レギュレーションFD以後、アナリストが出す情報のインパクトは28パーセント減少している。

Mohanram and Sunder (2006)は、レギュレーションFDより前に、予測が正確だった大手証券会社所属のアナリストなどは、レギュレーションFD以後には、その優位を保てなくなっていると報告している。また、今までアナリストがあまりカバーしてこなかった企業へカバレッジが拡がる傾向も見られた。

Bushee, Matsumoto, and Miller (2004)では、市場関係者と企業とのコンファレンス・コール(電話会議)は、レギュレーションFDによって減ることは減ったものの、その影響は大きくないとのことである。今まで、コンファレンス・コールの参加制限していた企業について、レギュレーションFD以後、株価が変動しやすくなり、個人投資家による取引が増えたらしい。

さらに、企業と守秘義務契約を結んでいると、レギュレーションFDの対象から外れるので、債券格付け機関が有利になるとの話もある。Jorion, Liu, and Shi (2005)によると、レギュレーションFD以後は、格付け変更がレギュレーションFD以前より重視されるとのことである。

日本の市場とアメリカの市場は違うので、これだけで結論を出すわけにはいかないが、アメリカではだいたい規制当局の意図した結果になっているようである。

慶應義塾大学ビジネス・スクール教授

1968年生まれ、慶應義塾大学経済学部卒業、東京大学より修士(経済学)、ニューヨーク州立大学経営学博士。カナダ・ヨーク大学ジョゼフ・E・アトキンソン教養・専門研究学部管理研究学科アシスタント・プロフェッサーを経て、2011年より現職。行政刷新会議事業仕分け仕分け人、行政改革推進会議歳出改革ワーキンググループ構成員(行政事業レビュー外部評価者)等を歴任。2012年から2014年まで会計検査院特別研究官。2012年から2018年までヨーロッパ会計学会アジア地区代表。日本経済会計学会常任理事。

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