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「北海道産塩水ウニの冷製スパゲティ」が累計30万食を突破 北海道旅行の楽しさに似たその魅力とは

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
トッピングのウニは25g。「ウニダブル」にすることも可能(イーストン提供)

筆者は「冷製ウニスパ」が発売開始になると、「今年も夏がやって来た!」と感じる。「冷製ウニスパ」の正式名称は「北海道産塩水ウニの冷製スパゲティ」。このウニは「北海道産ムラサキウニ」を使用し、殻から取り出したウニの鮮度と味を守るために塩水に浸したままの状態で北海道から東京に直送している。ミョウバンを使用していないために、ウニ本来の甘味と食感があり、口に入れた瞬間に磯の香りが広がる。

これを絡めて食べるスパゲティは、繊細なカッペリーニに帆立だしと昆布だしを使ったソースをあえている。夏しか食べられない塩水ウニと帆立だし・昆布だしの冷製スパゲティは、夏限定で食べることは強烈に記憶に刻まれ、それがオンメニューになることを知らされると「今年も夏がやって来た!」となるのである。

商品に対する想いを長々と書いたが、「冷製ウニスパ」は“北海道イタリアン”を冠とする「ミア・ボッカ」の夏限定のメニューである。

「ミア・ボッカ」関東エリアの旗艦店となる新宿タカシマヤのレストランフロアで営業している店舗(イーストン提供)
「ミア・ボッカ」関東エリアの旗艦店となる新宿タカシマヤのレストランフロアで営業している店舗(イーストン提供)

北海道発の外食企業が旬の食材をシーズナルメニューに

「ミア・ボッカ」を展開するのは北海道札幌市に本拠を置く株式会社イーストン(代表/大山泰正)という外食企業。同社が誕生したのは1986年5月、札幌・すすきののバーからはじまった。その後、カジュアルイタリアンを手掛けてヒットしていき、これからの会社の発展を想定する上で、関東圏への進出を決意した。その前哨戦として2003年4月宮城県仙台市に進出。そして、2007年9月関東圏に初進出を果たした。

2024年5月末の総店舗数は飲食店48店舗。飲食店の中で「冷製ウニスパ」を提供するカジュアルイタリアンは22店舗(北海道イタリアン・ミアボッカ16店、北海道イタリアン・ミアアンジェラ4店、イタリア料理クッチーナ2店舗)となっている。

「冷製ウニスパ」がメニューとなった第1回は2006年8月。そのきっかけは「夏に旬のメニューでフェアをしよう」となったこと。そこで「漁獲量が日本一で日本一おいしいウニを商品にしない理由はない」ということから北海道産ウニを使用することを即断。第1回は札幌市内の店舗で開催した。

その後、同社のカジュアルレストラン「ミア・ボッカ」が関東で展開するようになり(現在、関東12店舗、札幌4店舗)、2023年には「冷製ウニスパ」は姉妹店を含めた全22店舗で累計30万食を突破した。不動の人気シーズナルメニューである。

今年の「北海道産塩水ウニの冷製スパゲティ」は6月5日から8月15日までオンメニュー。出店エリアによって価格は異なり、以下のようになっている。

・札幌:1848円(税込、以下同)

・仙台:1958円

・関東:1958円

・新宿タカシマヤ店・東武池袋店:1980円

「冷製ウニスパ」とマリアージュする白ワインが用意されて、ファンにとっては定番の組み合わせとなっている(イーストン提供)
「冷製ウニスパ」とマリアージュする白ワインが用意されて、ファンにとっては定番の組み合わせとなっている(イーストン提供)

トッピングのウニを2倍にする「ウニダブル」があり、これは上記の金額に下記プラス料金で味わえる。

・札幌:1078円

・仙台:1320円

・関東:(新宿タカシマヤ店・東武池袋店を含む):1320円

筆者は「ウニダブル」の愛好者で、濃厚な磯の味わいを楽しんでいる。

今年は夏のシーズナルメニューとして新作が加わった。

商品名は「北海道産塩水ウニ・いくら・紅ズワイガニの冷製スパゲティ」。ある芸能人はおいしい食事をすると「口の中が宝石箱のようだ~」と例えるが、このスパゲティは食べる前から「宝石箱」である。価格は以下の通り。

・札幌:2393円

・仙台:2508円

・関東:2508円

・新宿タカシマヤ店・東武池袋店:2580円

「冷製ウニスパ」に、いくら、紅ズワイガニを加え、クリーム状に見えるトッピングは日高昆布醤油のエスプーマで、磯の味わいを丁寧にメニューに組み入れている。「冷製ウニスパ」に加えて、これから「夏を感じさせる」シーズナルメニューとして定着していくことであろう。

今年から夏のシーズナルメニューに加わった「北海道産塩水ウニ・いくら・紅ズワイガニの冷製スパゲティ」。宝石箱のような盛り合わせが記憶に残る(イーストン提供)
今年から夏のシーズナルメニューに加わった「北海道産塩水ウニ・いくら・紅ズワイガニの冷製スパゲティ」。宝石箱のような盛り合わせが記憶に残る(イーストン提供)

店舗から発信される「お祭り」のような感覚

これらのメニュー化の背景には、バイヤーの産地開拓の努力を抜きに語ることはできない。シーズナルメニューの好評に応えるために北海道内の産地を幅広く開拓していく。毎年同じ時期に継続的に購買することで取引先との信頼関係を構築している。フェア開催期間中は、これらの産地が補完し合うような形で仕入れる体制を築き上げた。例年、北海道全域がその対象になるが、中心となる産地が変わることもある。

各店舗に届ける塩水ウニは1パック100gで、今年は約1万パックを調達している。「冷製ウニスパ」の食数はざっくり3万食分となる。ただし、筆者のように「ウニダブル」の愛好者も多数いることから定かではない。

真夏に仙台・関東までより新鮮な状態でウニを届けるために、仙台・関東圏への配送は航空便を使用。仙台・関東圏とも出荷の翌日午前中に店舗に納品。札幌の場合は出荷とともに発送し当日午後に納品する。発砲スチロールに詰めて発送するが、全てのパックが氷に触れている状態になるよう大量の氷を詰め込んでいる。店内でも冷蔵庫の中に同様の保管機能を設けている。

「冷製スパゲティ」の好調が、同社カジュアルイタリアンのシーズナルメニューのアイデアを広げるようになった。2017年5月「北海道産アスパラ」、2019年9月「北海道産秋刀魚」、2020年1月「北海道産ホタテ・牡蠣」、2020年7月「北海道産とうもろこし」を開始して、それぞれ販売期間が約2カ月間のフェアとして恒例化している。

これによって、「北海道産アスパラ」4月末~5月下旬、「北海道産ウニ」6月上旬~8月中旬、「北海道産とうもろこし」7月下旬~8月末、「北海道産秋刀魚」9月上旬~11月頃、「北海道産ホタテ・牡蠣」12月上旬~1月末と、年間を通じて北海道の旬の食材を使用したフェアを恒例化している。同社では、カジュアルイタリアンのほかに焼鳥居酒屋「いただきコッコちゃん」も15店舗展開していて、ウニ以外の旬の食材は焼鳥居酒屋でもメニュー化していて、待望のメニューとして顧客を引き付けている。

さて、今年の「冷製ウニスパ」は6月5日よりオンメニューということで、6月8日の土曜日の13時に、筆者は新宿タカシマヤの「ミア・ボッカ」を訪ねた。そのときの店頭の様子がこの画像である。ウエイティングの列を横につくることができないことから、シアター形式で席を配置している。店頭では「北海道産塩水ウニの冷製スパゲティ」と「北海道産塩水ウニ・いくら・紅ズワイガニの冷製スパゲティ」のポップが掲げられて、シーズナルメニューならではの「お祭りやってます!」という雰囲気を高めている。

新宿タカシマヤの店舗では、ウエイティングスペースをシアター形式で構成。大型の店舗なのでスムーズに入店できる(筆者撮影)
新宿タカシマヤの店舗では、ウエイティングスペースをシアター形式で構成。大型の店舗なのでスムーズに入店できる(筆者撮影)

北海道から東京にやってきたイーストンという外食企業は、北海道の旬の食材をシーズナルメニューに仕立てることで、東京の同社の顧客に季節ごとの北海道旅行の疑似体験をもたらしているようだ。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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