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日本の株式市場は本当に大丈夫か?

津田栄皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

堅調に推移する世界の株式市場

世界の株式市場は、上下に振れながらも、堅調に推移している。前々回(「世界の株式市場はいつまで好調が続くのか?」)で書いたように、堅調に推移している背景には、リーマンショック以来の財政出動と大胆な金融緩和によって市中に出回っている大量の資金が、株式市場に向かっているからである。

特に日米欧の先進国は、金融危機からの回復のために金融緩和基調を強め、ゼロ金利政策、そして日欧でマイナス金利政策が採用されてから、資金は、損する可能性のある債券市場を避ける。そして、リスクはあっても高い配当が出る銘柄や低金利でそれを上回る利益を出す銘柄などのある株式市場に流れている。当然の動きである。

もちろん、株価が高くなれば配当利回りは落ち、リスク見合いでみると、持てなくなる時もある。ただ、その代わりになる株式はたくさんあるので、結局利回りが落ちた銘柄から利回りの高い銘柄に買い替えて株式の循環が行われ、株式市場は大きく崩れることなく堅調に推移している。

日本の株式市場は出遅れている?

世界の株式市場は、リーマンショックで大きく下落した時点から回復し、市場高値を更新している中で、日本の株式市場は回復の動きが鈍い。小泉政権時の不良債権処理を契機に上昇してきた日経平均株価は、2007年18,261円を天井にサブプライム問題・リーマンショックで大幅に下落、一時6,995円まで下落した。

それから、東日本大震災という出来事もあり、一概には言えないが、一進一退を繰り返して、自公連立の安倍政権成立でアベノミクス期待から回復、ようやく2007年の高値水準を超え、2015年20,953円に達するまで回復した。しかし、世界の株式が上昇していく中で、日本の株式は、そこから上昇することなく、上下を繰り返すものの、2015年の高値を超えていない。

日本の株式市場は出遅れているという意見がある。ここにきて、日経平均株価は、再び20,000円台を超えてきた。株式アナリストや評論家の中には、これから日本の株式は上昇していくと言う人もいる。

しかし、果たしてそうだろうか?アメリカの株式は、NYダウで2009年の安値から最近の高値まで約3.3倍の上昇、ドイツの株式も同期間で約3倍の上昇を見せている。日本の株式も、2008年の最安値から2015年の高値まで約3倍と、ほぼ同じ程度に回復している。本当に日本の株式市場は出遅れているのだろうか? どうもそうではないのかもしれない。

なぜ日本の株式は上昇しないのか?

それでも、新高値を超えられないのはおかしいという見方もあろう。確かに、ここ数年好調な企業業績は、今年度も伸びることが予想されている。ましてや日本の株式は、出来高も膨らんで活況を呈しているわけではなく、過熱感は感じられない。株式はまだまだバブルではなく、企業業績が堅調の中では、これから上昇していくとみるのは当然かもしれない。

しかし、経済状態を見ると、別の見方もできる。日本は、少子高齢化が進み、賃金もあまり伸びないために需要が増えず、個人消費が伸び悩み、GDP(国内総生産)も横ばいか緩やかな増加になっている。つまり、国内では、売り上げが伸びず、売上原価の中の人件費等を抑制・カットする一方、海外での売り上げが伸び、円安効果などがあって、企業業績がかさ上げされているのではという見方もできる。そして、稼いだ資金が、海外で投資などに使われて、国内に回ってこないために、国内の景気が思ったほど伸びないということになる。

また日銀は、金融緩和を継続、年80兆円の国債のほか、上場投資信託(ETF)6兆円などを市場から買って、大量の資金を供給しているが、国内の需要の弱さから、海外に資金の一部が向かっているともいわれている。これでは、金融緩和効果が期待したほど出てこないことになる。そして、家計の金融資産の多くが高齢者に集中しているが、彼らは、リスクを嫌って株式より現金・預金に傾いている。これでは、株式を買いに個人が動いていない。

むしろ、昨年は個人が株式を売り越している。その売りを、日銀のETF買いで下落を防いでいるともいえる。日銀の買いは、あくまで相場が下がった時にしか出動しないために、相場を支えるにしても押し上げることにはならない。そして、この日銀のETF買いは、長期にわたると官製相場になって、市場の自由な取引による価格形成機能を奪いつつある。

今や株式取引の中心になっている外国人投資家も、こうした状況を利用して取引しているが、買い上がる主体になっていない。また、金融機関や生損保、年金などの機関投資家は、前述したように、マイナス金利政策により債券投資から株式投資に向かっているが、それも消極的な高配当利回り重視型の投資になっていて、リスクを取るような投資をしていないはずだ。結局、日本の株式が新高値を超えていく原動力は見当たらないということになる。

日本の株式市場は本当に大丈夫か?

こうみてくると、日本の株式市場は、日銀による官製相場に陥ってしまい、もはや自律的に取引する動きになっていない。問題は、この官製相場が長期にわたれば、将来不測の事態が起きた時に、日本の株式市場はどうなるのか、本当に大丈夫なのかである。

もし、再び海外で金融危機が起き、世界の株式が暴落したときは、日本の株式も大きく下げることになるが、その時は投資家の株式の投げ売りを日銀の買いで支えきれなくなるし、新たにリスクを取って投資家が買いを入れることもないであろう。結果として、日本の株式市場は死に体になるかもしれない。そして大量に日本の株式を保有している日銀は、含み損を抱えることになって、円への信用を失い、日本経済に悪影響を及ぼして、新たな金融政策を採りにくくなろう。

結局、黒田総裁のもとで日銀がデフレ脱却のために採ってきた異次元緩和政策が、市場の機能を奪ってきたといえる。しかも、ここまで大量の資金を市場に供給しマイナス金利政策まで行いながら、物価は0%台と目標とするデフレ脱却からほど遠い状況にあって、日銀は引くに引けない袋小路に入りつつある。もはや自律的な活力ある動きを失いつつある日本の株式市場は、将来不測の事態に買い手不在により暴落するリスクを抱えていると言えるのではないだろうか。

最後に

今、個人的に恐れているのは、新たな金融危機である。世界の保護主義的流れの中で、欧米の金融緩和政策からの出口戦略への動きが世界経済に波乱を起こして新たな金融危機を引き起こすことにならないのか、注視する必要があるのではないだろうか。

皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト

1981年大和証券に入社、企業アナリスト、エコノミスト、債券部トレーダー、大和投資顧問年金運用マネジャー、外資系投信投資顧問CIOを歴任。村上龍氏主宰のJMMで経済、金融について寄稿する一方、2001年独立して、大前研一主宰の一新塾にて政策立案を学び、政府へ政策提言を行う。現在、政治、経済、社会で起きる様々な危機について広く考える内閣府認証NPO法人日本危機管理学総研の設立に参加し、理事に就任。2015年より皇學館大学特別招聘教授として、経済政策、日本経済を講義。

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