円安は続くよ、どこまでもーー次は180円、そして200円台へ、120円、130円の円高は夢のまた夢
円安トレンドは止まったか?
この3か月近く円ドル為替は大きく動いている。3月27日、円/ドルが151.97円と1990年7月以来およそ33年8か月ぶりの安値水準にまで下落して、大きなニュースとなり、クローズアップされた。その後、為替の状況は、151円近辺で推移していたものの、4月10日になって持ち合いから上放れのドル高円安となり、その後も円は下落、そしてついに4月24日には155円、26日には157円、そして29日には海外市場で160円台に達するなど、スピードを上げて下落が続いた。
こうした動きは、実は、私がこのYahoo!ニュース・エキスパートで前回、1年半ほど前の23年1月25日に書いた「円安は、日本経済の姿を反映したもの、何もしなければ、その先はさらに一段の円安となって苦しむことになる」の記事のとおりの動きとなっている。
ところで、円安が更新するたびごとに、毎回1990年以来34年ぶりの円安と報道している。1990年の為替の動きはというと、当時は4月の160円前後から円高に向かうなかの157円、155円であり、151.97円であって、その後10月には125円まで進んでいる。今回は、昨年末の140円前後から円安に向かうなかでの155円、157円である。(少し長めで言えば、昨年1月16日の127円からの長期的なドル高円安の流れである。)よって、為替の動きは1990年当時と現在とでは全く真逆の動きであるといえる。
こう見てくると、当面の円安の目標は160円となるのは自然であろう。そして160円台をつけた時点で為替介入が入ったのも当然の流れといえよう。介入で円相場は153円前後まで急騰し、その後、米国経済の指標に若干陰りが見られたことで151円台をつけたものの、154~157円台の間で推移しながら、一旦落ち着いたかのような動きだったが、再びじりじり円安に傾き再び160円台にもどってきて、6月28日161円台に突入している。実に1985年9月のプラザ合意による為替調整で急激に円高に向かった途中の1986年12月以来37年6か月ぶりの水準である。今後日本の政府・日銀は、再びドル売り円買いの為替介入に乗り出すだろうが、果たして、円安トレンドを止めることができるだろうか?個人的に答えはノーである。
ドル高円安の要因としての日米金利差
さて、なぜ円安が続くのだろうか?当初は、日米間の金利差が拡大したからだという。だから金利差が縮小すれば、円安から円高に向かうはずだとする。そして年初は、いずれ米国経済が減速し、インフレ率が落ち着いてくれば、米国金利が低下してくる。一方、日本経済は、物価も上昇するなかで、昨年からの経済動向から回復基調にあり、その後賃上げが期待する3%を超えれば、個人消費が伸びて、さらに需要が拡大し、金融政策もマイナス金利政策を解除し、正常化に向かうことになる。そうなれば、日米金利差が縮小し、円高に転ずるはずだという見方が多かった。
しかし、実際は、米国経済は、最近の景気指標で雇用や消費が予想外に堅調であり、インフレ率は思ったほどに下がらない状況となっている。FRBも、米国経済の減速、インフレ率の低下を予想し、3回ほどの金融緩和を示唆して、市場に金利低下を期待させたが、結果的に裏切られ、むしろ年内は1回かもしれないとの見方が広がり、米国金利は高止まりしている。その後、経済指標は再び景気減速を示すものが出て、再び米国金利は低下し、逆に堅調な指標が出て金利が上昇したりしている。まさに米国経済指標に米国金利は踊らされている。
一方、日本経済は、確かに緩やかに回復して、少しは明るくなっている感がある。しかしながら、名目賃金がプラスなのに、それを超える物価上昇率で、実質賃金は25か月連続のマイナスが続いており、個人消費は伸び悩んでいる。そして、実質経済成長率は昨年の7-9月期にマイナスになってからゼロを超えることなく、1-3月期もマイナス、物価上昇率は、資源・エネルギー高に円安も加わって、昨年は4%を超えていたが、直近では資源・エネルギー価格の下落で3%を割るまで落ち着いてきており、先行きは2%台で推移するとの見通しである。
こうした日本経済の低迷や物価の落ち着きを見て、日銀は、3月の金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除したものの更なる金融緩和姿勢からの転換に踏み切れずに量的緩和を継続し、6月の金融政策決定会合で国債の買い入れ額を減額することを決めたが、減額の規模は7月に先送りし、慎重姿勢を維持している。本来、金融政策は、為替ではなく経済の状況で決まるのだから、日銀の姿勢は当然である。もちろん、為替市場は、それを見て円安ドル高の動きを強めている。これも、自然の流れである。
そして、日銀がこの夏には利上げもありうるのではという見方が出て、日本の金利は上昇し、日米金利差が縮小したものの、一向にドル安円高にならず、円安が続いている。考えてみれば、日本の長期金利は、1%に乗る程度であり、アメリカの長期金利は現在4.3%前後、日米の長期金利格差は、最大4.4%から縮小したとしても3.2%もあり、短期金利(米国のFF金利と日本の無担保コール翌日物金利)に至っては、日米格差は、5%超もあり、依然大きいといえる。これだけ日米金利差があるからには、そう簡単に円高ドル安に転ずるはずがない。そういう点で、ドル高円安が続いている要因は、日米金利差といえよう。しかし、事はそんな単純なのか?
円安を日米金利差で片付けるのは間違い
政府は、円安といえば、米ドルに対していう。マスコミも、ほぼ米ドル高円安を問題にし、要因を日米金利差に焦点を当てて説明している。そして、国民は、円安と聞くとドル高円安、その要因は日米金利差にあると捉えている。というかそのように思い込まされている。だから日本は早く金利を上げるべきだと、日銀に圧力をかけている。
しかし、本当にそうなのか?実は、日本円は、ユーロに対しても史上最安値を更新しているし、すべての主要通貨に対して下落し、最弱通貨になっている。もちろん、日本の金利は世界においても極めて低い水準にあり、主要国の金利との格差があるから当然といえる。とはいっても、なぜ日本の金利が低いのか、なぜ他の国は金利が高いのか?前回にも書いたように、金利は、経済を反映したものであり、金利差は、経済の格差であり国力の格差からきている。日本は、主要国の中でも極めて成長していない国なのである。
そして今も低成長の日本は将来も成長しない、だから円の価値は、将来さらに下がるとみて円を売る動きが続いている。円の下落が止まらないのは、日本経済が将来も期待できないからなのだ。日銀は、そうした低成長の日本経済を何とか成長軌道に乗せようとして、金融緩和政策を採るのである。それが日本の低金利を招いており、それでも成長につながっていないために金利引き上げに日銀は慎重であり、躊躇するのである。
日本経済の成長力を取り戻さない限り、円安の下落は止まらない
つまり、円安の真の要因は、低金利を余儀なくさせている日本経済の弱さにある。その日本経済の弱さは、需要不足の状態にあることであり、それが恒常的になっていることである。その結果、需給ギャップが一向に解消されない。日本経済は、成長できない構造的な問題を抱えている。これは金融政策で解決しない。金融政策は本来物価をにらみ、経済を安定化させる政策である。今必要なのは、成長を促すための経済政策である。これは、政府の仕事である。
しかし、今円安を食い止めるために、金融政策を使おうとしている。もし実施すれば、金利の引き上げにより、さらに需要を減退させて、一段と日本経済を悪化させてしまい、円高になるどころか、さらに一段の円安を招くことになろう。もちろん、金利引き上げに動けば、一時的な円高に振れることもあろうが、もうすでに長期金利は織り込み始めており、市場はその先を見据えて動くとなれば、日本経済の弱さを見据えて円売りに傾こう。
結局、円安の要因は低金利にあるという政府の認識である限り、金融緩和策を採り続けている日銀が、金融引き締めに転じても、円安を食い止める効果は一時的であり、むしろ日本経済にボディーブローのように打撃を与え、景気悪化、国力の低下を招いて、円安は止まらないのではないだろうか。また今後予想されるドル売り円買い介入も、日本経済の成長力を取り戻す根本的な政策を行わない限り、一時的効果しかなく、円安はどこまでも続くであろう。このままでいけば、1ドル180円、そして200円もここ1,2年で見られるのではないだろうか。