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ワールドシリーズ、ジャーニーのあの名曲はお膝元へ“返上”

菊田康彦フリーランスライター

アメリカン・リーグ優勝のカンザスシティ・ロイヤルズとナショナル・リーグ優勝のサンフランシスコ・ジャイアンツの対戦で行われているメジャーリーグのワールドシリーズは、第4戦を終えて2勝2敗のタイ。10月27日(以下、すべて日本時間)に行われる第5戦に勝ったほうが、“世界一”に王手をかけることになります。

シリーズの舞台は25日の第3戦からジャイアンツの本拠地・AT&Tパークに移っているのですが、この試合の8回裏のジャイアンツの攻撃前に球場中に響き渡ったのが、地元サンフランシスコが産んだロックバンド、ジャーニーの1981年のヒット曲「ドント・ストップ・ビリーヴィン」でした。スタンドにはこの曲のオリジナルシンガーであるジャーニーの元ヴォーカリスト、スティーヴ・ペリーの姿もあり、たいへんな盛り上がりを見せていたのですが、実はこの曲はつい先日まで相手のロイヤルズの本拠地・コーフマン・スタジアムの定番曲でもあったのです。

この「ドント・ストップ・ビリーヴィン」は、「信じることを止めるな」というサビの歌詞からスポーツとは相性がいいようで、メジャーリーグの球場でもしばしば耳にします。2005年にはシカゴ・ホワイトソックスがこの曲を「非公式賛歌」として採用し、チームは見事にワールドシリーズを制覇。シカゴで開かれた優勝セレモニーには、既にジャーニーを脱退していたスティーヴ・ペリーがゲストとして招かれ、歌詞に出てくる「サウス・デトロイト」を「サウス・シカゴ」に変えてこの歌を披露したこともありました。

そして今年、ファン投票によってこの曲を6回の攻撃前に流す定番曲としたのがロイヤルズでした。今シーズン、6月の初めにはア・リーグ中地区の4、5位辺りをウロウロしていたそのロイヤルズが、この「ドント・ストップ・ビリーヴィン」を流すようになってから急上昇。8月上旬から1カ月は首位を走り、最終的に地区優勝こそ逃したものの、29年ぶりにポストシーズンまで駒を進めました。プレーオフではこの曲とともに8連勝でワールドシリーズ進出を決めるなど、ロイヤルズにとってはたいへん縁起のいい曲になっていたのですが、同じようにこの曲とともにプレーオフを勝ち上がってきたのがジャイアンツです。

そもそもジャーニーというのはギタリストのニール・ショーンを中心にサンフランシスコで結成されたバンドです。1977年に加入したスティーヴ・ペリーもサンフランシスコにほど近いカリフォルニア州ハンフォードの出身であり、ジャイアンツとは縁が深いと言えます。2010年にジャイアンツが56年ぶりにワールドシリーズを制した際にも、スティーヴ・ペリーはスタンドでファンとともに大合唱の輪に加わっており、今年もポストシーズンでたびたびジャイアンツに声援を送っていました。それだけにロイヤルズもワールドシリーズでこの曲を、というわけにはいかなかったようで、カンザスシティで行われた第1、2戦では「ドント・ストップ・ビリーヴィン」に代わり、キッスの「ロックンロール・オールナイト」が6回裏のロイヤルズの攻撃前に流れていました。

ちなみにジャイアンツの場合は試合展開によって曲を使い分けているようで、劣勢の第3戦は「ドント・ストップ・ビリーヴィン」でしたが、7点リードで迎えた第4戦の8回裏に流れたのは、同じくステーヴ・ペリーがリード・ヴォーカルを取っていた時代のジャーニーの曲である「ライツ」。サンフランシスコをモチーフにしたこのバラードを、この日もスタンドで熱唱しながらファンを煽るスティーヴ・ペリーの姿が場内のスクリーンに大映しとなり、スタジアムはさながら巨大なカラオケバーと化していました。

さて、27日の第5戦で流れるのは「ドント・ストップ・ビリーヴィン」でしょうか? それとも「ライツ」でしょうか? そしてシリーズの行方やいかに……。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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