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「WTO提訴」に続き「ユネスコ提訴」 「コロナ禍」の最中に再燃した日韓の対立!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
長崎の「端島(軍艦島)」 (長崎港から筆者撮影)

 韓国政府が1年近く経っても日本が輸出厳格化措置を撤回しないことに苛立ち、再びWTO(世界貿易機構)への提訴に踏み切ったのは約10日前である。そして、今度は国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録されている長崎の端島炭鉱(軍艦島)など日本の明治産業革命遺産の登録取り消しをユネスコに求めている。

 ユネスコへの提訴の理由は2015年7月に世界遺産に登録された際の約束を「日本が履行していないからだ」(金東起・ユネスコ韓国代表部大使)とのことのようだが、決着、解決したはずの問題がまた蒸し返される事態となってしまった。

 この明治日本の産業革命遺産の世界文化遺産登録が当時、なぜ日韓対立の火種となり、それがどうやって収拾したのかを知るには時計の針を5年前に巻き戻してみる必要があるようだ。

 ユネスコの諮問機関「イコモス」が九州・山口と関連地域の明治産業革命遺産を世界文化遺産に登録するよう勧告したのは2015年5月4日。日本にとっては登録されれば九州をはじめ観光業の振興が大いに期待できた。

 当時朴槿恵政権下にあった韓国政府は当初は、日本との外相会談などの場で「協力する」と言っていた。ところが、日本が登録申請した23の対象施設のうち7施設が「強制連行された朝鮮人の犠牲の上に成り立っている」と市民団体やメディアが騒ぎ始めてから状況が一変した。慰安婦問題でもめていたこともあって韓国世論は猛反発した。

 韓国外務省は声明を出して「日本側の世界遺産登録申請の動きは『道徳的問題』に関わることであり、隣国にとって苦渋の記憶に溢れた施設が世界遺産リストに登録されることはユネスコ世界遺産登録の精神に反する」と登録反対の立場を表明し、李炳鉉・ユネスコ代表部大使(当時)はユネスコのボコバ事務局長に会って、韓国側の懸念を正式に伝えた。

 日本は登録時期を1850年から韓国を併合(植民地化)する1910年までに設定したこともあって韓国のクレームには応じなかった。何よりも、日本は強制連行を認めていない。国際会議の場で公式に認めてしまえば、賠償問題に発展しかねないとの危惧があった。折しもこの年から元徴用工らが日本企業を相手に訴訟を起こしていた。

 埒が明かないとみた韓国政府は世界遺産員会での投票に持ち込む一方で、対抗手段として慰安婦関連資料を世界記憶遺産として登録する準備を進め、中国、台湾、フィリピン、オランダなどと共同提出するためのロビー外交を展開した。

 当時、世界遺産委員会メンバーは日本、韓国を含め議長国のドイツ、インドなど21か国から構成されていた。日本時間の7月5日午前(現地時間の7月4日午後4時)には結果が判明することになっていた。日本も登録のため総力を挙げ、安倍総理も自ら7月2日に訪日したドイツの連邦上院議長を官邸に招き、世界遺産登録への協力を要請していた。

 票読みでは日韓共に勝つ自信があったようだが、万一負けるようなことになれば外交失墜に繋がりかねなかった。幸い、ボコバ事務局長から「韓国と日本は対話によって解決策を見いだすよう努力してほしい」との要請もあって土壇場で日韓は協議に入り、最後は佐藤地ユネスコ代表部大使が委員会でのスピーチで「1940年代に一部施設で意思に反して連れてこられ、厳しい環境下で働かされた多くの朝鮮半島出身者がいた」と「forced to work」という表現を用いたこと、また委員会が「強制労働があった」と韓国が主張する施設について日本が適切な説明措置を取るよう促したことで折り合いがついた。

 韓国は情報センター設置など被害者を指す適切な措置を取る用意があることを日本が表明したことを受け入れ、その結果、明治日本の産業革命遺産の世界文化遺産登録は7月5日の第39回世界遺産委員会で韓国を含め満場一致で認められることになった。

 韓国は当時、国民に日本が戦前、朝鮮人労働者を本人の意思に反して強制労働させた事実を初めて認め、それに伴い軍艦島にこうした事実を反映する条件で世界文化遺産登録が決定したと説明していた。

 ところが、去る6月15日にオープンした産業遺産情報センター(東京都新宿区)を訪れた韓国の特派員らが「犠牲者を記憶するための展示はなく、逆に強制徴用犠牲者の被害自体を否定する証言や資料が展示されていた」と報じたことで韓国政府が問題にし、今回のユネスコへの提訴に至ったようだ。この種の抗議で登録が取り消しになった前例はなく、韓国の狙いはあくまでもユネスコを通じて展示場の内容の是正を求めることにあるようだ。

 日本は「戦時徴用された朝鮮半島出身者が端島炭坑などで働いていたことが明示されている」と反論し、韓国のユネスコ提訴に反発しているが、今後の焦点は菅官房長官が言明しているように日本が「世界遺産委員会における決議・勧告を真摯に受け止めて、約束した措置を含めそれらを誠実に履行してきている」のかどうかのユネスコによる検証にあるようだ。

 どちらにせよ、すべては元徴用工問題に起因していることだけは間違いない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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