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社会人野球日本選手権、開幕。トヨタ自動車が夏秋連覇に挑戦する

楊順行スポーツライター
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それにしても、トヨタ自動車は日本選手権に強い。補強選手のいない、企業チーム日本一決定戦ともいえるこの大会で、2007〜08年、10年、そして14年と、過去9年で4回も優勝しているのだ。

今年は、念願だった都市対抗も初制覇。エース・佐竹功年が4試合に登板して3完投2完封、防御率0・30という完璧な内容で橋戸賞に輝き、17打数10安打の多木裕史が首位打者。一、二番の藤岡裕大、北村祥治の新人コンビも力を発揮し、ベテランと中堅、若手がかみ合っての快挙だった。

昨年の12月に就任した桑原大輔監督は、「3点以上取って2点以内に抑える野球」をテーマに掲げたが、都市対抗では5試合で19得点2失点。東京ドームで、ほぼシナリオ通りの野球ができたわけである。

「2点以内に抑える」ためには、投手はもちろんディフェンスの充実が必須だ。そこを突き詰めるために、まず取り組んだのが二遊間の強化で、それが三塁、一塁、外野……へもいい波及効果をもたらし、守備力がアップした。そしてもうひとつのテーマである「3点以上を取る」ために目立ったのが、バントの多用だ。都市対抗では、決勝の日立製作所戦の5をはじめ、成功したバントが5試合で14。一死からのそれもあれば、四番の樺澤健にしてもバントを試みている。

楽天二軍戦の勝利が所信表明

08年にいったん現場を退いた桑原が、スタンドからチームを見ていると、どうもバントがうまくないことにあらためて気がついた。それはそうだ、なにしろ大学時代は、ほとんどバントと縁のない中軸選手が集まっているのだから。だけど、と桑原は振り返る。

「3点以上を取る方法論のひとつが、まずは1点ずつ取ること。それには、得点圏に走者を進めることです。むろん都市対抗では、エンドランや盗塁も仕掛けているんですよ。だけどバントがそれだけ目立ったということは、これまでのウチはよっぽどバントをやらなかったのかな(笑)。だからとにかく、極端にいえば、バントができなければ試合に使わないくらいに重視し、数多く実戦形式のバントを繰り返してきました。ときには、佐竹らが投げるブルペンで野手が打席に立ちもします。ピッチャー陣にしても、やはり点を取ってほしいじゃないですか。ですから、そこでまずいバントをすると、"しっかりやれよ"などと、尻を叩いていたようです」

実は選手数35人という大所帯になった今季、できるだけ平等にチャンスを与えるため、オープン戦の数を2割ほど増やしたという。向上の課題を見つける機会として、あるいはバントを含めた実戦練習の場として。今季の初実戦は2月、楽天二軍とのオープン戦だったが、バントを多用したこの試合、トヨタが6対2で勝っている。桑原にとってこれは、進む方向が間違っていないという手応えになり、チームに対しては「こういう野球で行く」といういわば所信表明になったわけだ。

桑原がもうひとつ気を配ったのは、職場の人から応援されるチームに、ということだ。これまでの野球部員は、企業人とはいえ比較的出社日数が少なかった。だが監督就任が内定した昨年11月から12月は、全員がほぼ全日勤務した。1月も、3時まで勤務して夕方から練習というシフト。シーズン中も、地元にいる期間は基本的に10時までの勤務後、午後からが練習だ。

「ただでさえキャンプや、シーズンが始まれば職場を抜けさせてもらうことが増えるんです。ですから出社できるときはできるだけ出社し、どんな仕事なのかをしっかり感じながら、職場の人と顔なじみなってほしい。そして試合に行くときは"行ってきます""応援よろしくお願いします"とコミュニケーションを持つ。"頑張ってこいよ"といわれるようになってこその、社会人野球だと思うんですね。これは現場を離れているときに、私自身が学んだことです」

社会人野球は東海地区の時代に?

近年の東海勢は、強い。トヨタが得意とする日本選手権のほかにも、都市対抗では14年に西濃運輸が優勝し、今年の大会は6チームが初戦突破。出場全チームがそろって勝ったのは16年ぶりで、優勝したトヨタのほかにも、西濃運輸がベスト4に入った。桑原はいう。

「6代表を一括で決める東海地区2次予選の方式が、ひとつの要因かもしれません。それまではまずリーグ戦を戦い、勝ち抜いたチームでトーナメントだったんです。が、13年からはいきなりトーナメント。リーグ戦なら、最初は力の差があるチームとの試合もありうるので、ある程度慣らしができましたが、いまは初戦から全力で行かないと。現に今年のウチも、第1代表決定トーナメントの2戦目でヤマハに負け、第3代表決定トーナメントで3回勝って、第3代表として都市対抗出場を決めたんです。この決勝で負けていたら、一発勝負の第6代表決定戦をモノにしなければならなかったんです。そういう過酷な切磋琢磨が、チーム力を底上げしていると思います。

また東海地区では、名古屋をはじめ企業が元気ですからね。以前は関東や近畿のチームを目ざしていた強豪大学の選手が、東海地区で働きたいと思ってくれるようになってきたのでは……」

さて、日本選手権。トヨタ自動車の夏秋連覇は、あるいは東海のチームの優勝はなるか。トヨタの初戦は今日18時プレーボール予定。相手は、都市対抗で苦しんだすえにサヨナラ勝ちしたNTT東日本である。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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