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フレディ・マーキュリーに続き、今度はこの人がスクリーンに甦る。ホイットニー・ヒューストン

斉藤博昭映画ジャーナリスト
スーパー級の歌唱力と独特のヘアスタイルで一時代を築いたホイットニー・ヒューストン(写真:Shutterstock/アフロ)

『ボヘミアン・ラプソディ』への熱狂がまだまだ続く、年末年始の映画興行だが、フレディ・マーキュリーと同じように、類まれな天才ヴォーカリストながら、短い人生を駆け抜けたのが、ホイットニー・ヒューストンである。フレディ、マイケル・ジャクソンもそうだったように、一時代を築いた歌声が志半ばで失われ、その後「伝説」となってしまうケースは多い。

そのホイットニー・ヒューストンの映画『ホイットニー 〜オールウェイズ・ラヴ・ユー〜』が、年明け早々(1月4日)に劇場公開される。『ボヘミアン・ラプソディ』と違って、こちらはドキュメンタリー。基本的にホイットニーの人生をたどるオーソドックスな作りではあるのだが、その分、唯一無二の歌姫の実力と内面が素直に、そして予想以上にシビアに伝わってきて胸を打つ。

音楽映画としての魅力

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2017年の『ラ・ラ・ランド』に『美女と野獣』、2018年の『グレイテスト・ショーマン』に『ボヘミアン・ラプソディ』と、ミュージカルや音楽を前面にフィーチャーした作品が、予想を超えるヒットにつながっている。ドラマや映像だけでなく、映画館で「音楽」にカタルシスを味わうというライヴ感覚がブームになっていることで、音楽映画のポテンシャルは以前以上に高くなっており、そこに『ボヘミアン・ラプソディ』のように同時代を体験した人々のノスタルジーが重なると、最強となる。ホイットニー・ヒューストンは、フレディ・マーキュリーほどのカリスマ性はないかもしれないが、1980年代後半から1990年代前半にポップスに親しんだ人にとって、彼女のヒット曲を聴くことは「上がる」体験になるだろう。劇中には当時のカルチャーや社会情勢とともに曲が流れるシーンもあり、その歌唱力と曲の素晴らしさに時間を引き戻される感覚がもたらされる。

泥沼化する私生活にもフォーカス

『ボヘミアン・ラプソディ』と違って、ドキュメンタリーならではの見どころは、ホイットニー・ヒューストンの暗黒面である。栄光とスターの座を得た代償は大きく、ボビー・ブラウンとの結婚は、ホイットニーの方が人気が高いゆえの「格差婚」と称され、夫婦間の溝はどんどん深くなる。このあたりは、やはり現在公開中の音楽映画『アリー/ スター誕生』の「リアル版」として観比べて欲しいところ。

こんな貴重なプラーベートの瞬間も映し出される
こんな貴重なプラーベートの瞬間も映し出される

そしてホイットニーの栄光やギャラに群がる人々との関係、いわれなきバッシング……。共同生活も送った親友ロビン・クロフォードも登場するが、彼女こそホイットニーが生涯で最も心を許した「恋人」ではなかったかと思われる。そして当然、ドラッグに溺れ、キャリアを失う過程にもシビアに向き合い、後半には、観てはいけないものを観たような、悲痛で衝撃的なステージ映像も盛り込まれる。

より深い作品の見方として

1985年に最初のアルバムをリリースしたホイットニー・ヒューストンだが、その大きなきっかけになったのが、1983年に初出演したTVショーでの歌唱である。歌った曲は「Home」。これは『オズの魔法使』を黒人キャストのみでミュージカル化した「ザ・ウィズ」の最初と最後に流れる曲。ダイアナ・ロス、マイケル・ジャクソンの出演で映画にもなった。今回のドキュメンタリーでも2回、この「Home」を歌うシーンが登場し、本当の「Home=帰る家」を求めていたホイットニーの思いが代弁されているようで、胸が締めつけられる。

監督を務めたケヴィン・マクドナルドは、ボブ・マーリーのドキュメンタリーも手がけた人で、劇映画、ドキュメンタリーの両方で多くの佳作を残してきたが、ひとつコアなネタとして紹介しておきたいのが、彼の祖父である。エメリック・プレスバーガーだ。筆者がかつてケヴィン・マクドナルドにインタビューした際、祖父がマイケル・パウエルと共同監督を務めた『赤い靴』に話がおよんだ。赤いトウシューズを履いたことで、死ぬまで踊りが止められなくなったバレリーナの物語である。「歌う」宿命を背負ったことで、悲劇的な死へと導かれたホイットニーの姿が、時を超えて『赤い靴』とも重なる。祖父から孫へ、無意識に受け継がれたテーマであり、映画史的にも興味深い一面を発見できるのだ。

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『ホイットニー 〜オールウェイズ・ラヴ・ユー〜』

2019年1月4日、ロードショー

配給/ポニーキャニオン

(c) 2018 WH Films Ltd.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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