Yahoo!ニュース

【Jリーグ判定】3つのレッドカードが妥当と認定。「ボールに行ったじゃん!」で見過ごされがちな判定基準

清水英斗サッカーライター
副審のフラッグ(写真:アフロ)

2017年のJリーグは、結果を左右する重大な判定にかぎり、試合後にクラブの代表者と審判アセッサー(審判の評価をする人)が集まり、意見交換を行っている。

ただし、意見交換は試合後の限られた時間で行うため、その内容をいきなり公表はしない。一度JFA審判委員会が引き取って検証し、認識の違いがあれば、クラブとレフェリーの双方に直接連絡している。

そして、意見交換された中からいくつかのシーンを取り上げ、その判定内容についてメディアに解説しているのが、月1回開催のJFAレフェリーブリーフィングだ。

28日に行われた第2回ブリーフィングでは、3月18日~4月23日のJリーグで起きた15の判定について、解説が行われた。

フィジカルコンタクトの判定

まずは、フィジカルコンタクトに関する3つの判定から。

J3第4節の藤枝MYFC対栃木SCでは、後半33分にオーバーヘッドキックをねらった栃木の選手の足が、飛び出した藤枝のGK田口潤人の頭に激しく当たった。足を振り上げた栃木の選手は、レッドカードを受け、退場処分。この判定について、上川徹副委員長は、次のように解説した。

「ボールに行っていればいい、と言いたくなりますが、競技規則の考え方では、相手競技者に対する安全は最大限に考慮しなければいけません。このプレーは、GKが出てくるのを充分に予測できると我々は考えます。足を非常に強く振り上げ、過剰な力が使われました。(GK田口は)脳しんとうを起こしてプレーを継続できず、実際の試合でもレッドカードが示されています」

一般的に選手側は「ボールに行っている」と主張することが多いが、レフェリーはそれだけではなく、相手を危険にさらすプレーであるかどうかに気を配っている。レッドカードが妥当なシーンだった。

次の判定は、J1第6節の川崎フロンターレ対ヴァンフォーレ甲府の後半23分。ボールに滑り込んだGKチョン・ソンリョンの頭に対し、すれ違う甲府の選手が、左右両足の裏で踏みつけた。負傷したチョン・ソンリョンは、交代でベンチに下がっている。

「実際の試合ではイエローカードでしたが、我々は映像を見て、非常に危険なプレーと考えます。実際に大きなダメージを与えたのは右足ですが、いちばん気になるのは左足です。甲府の選手はGKとの接触を避ける時間があったでしょうか? 我々はあると考えます。特にスパイクの裏を残すのは非常に危険です。許される行為ではなく、レッドカードが相当でした」

レッドカード相当の場面を見誤った要因について、上川氏は、オフサイド直後の展開だったことを挙げる。このとき、主審は副審のフラッグを受けて、オフサイドの笛を吹いていたが、上記の接触は、その流れの後に発生した。主審のポジションから接触点は、川崎の選手が陰になり、はっきりと見えづらい状況だった。

「オフサイドの笛を吹いて、レフェリーのシャッターが閉まる可能性があります。しかし、笛を吹くだけでなく、さらに次のシーンを予測して動けば、もっと良い角度で接触が見えたはず。こういう状況で(足の裏で踏みつける)接触が起きたのはわからなかったと、レフェリー自身も言っていました。レッドカードを示せなかった判定に×というのも一つの反省ですが、選手にも相手競技者への気遣いを意識してやってもらいたいと思います」

3つめのフィジカルコンタクト判定は、J1第5節のFC東京対サガン鳥栖、前半42分のシーン。右サイドでFC東京の室屋成に対し、鳥栖の選手が足の裏で深いタックルをしかけている。実際の試合ではイエローカードが示されたが……。

「足の裏で相手のすねに向かい、スピードもあり、大怪我の可能性があります。レッドカードが示されるべきと考えます。鳥栖の選手としては、ボールに行ったタックルで、ちょっと足もボールに触れたのに、なぜ、反則なんだと。その気持ちは理解できますが、シーズン前の(各チームに対する)説明でも、安全に関する部分は言いました。ボールに行ったとしても、相手を危険にさらしている。レフェリーは最低限のイエローカードを出せていると思いますが、レッドカード相当でした」

審判側の改善点として、上川氏はプレーの予測を挙げる。室屋への危険なファールは、そのひとつ前のシーンで永井謙佑にタックルし、こぼれたボールにそのまま激しく突っ込んで起きた接触だった。

「基本的には、主審があまり近付いて見ることができない場面です。(クロスが入りそうなので)次のプレーはゴール前です。主審はサイドに行けません。ただし、予測すれば、もう少し近づくことは可能です。ひとつ前のコンタクトプレーで激しく行っているから、続けて何かが起こるかもしれない。その気付きがあれば、予測してもっと良いポジションを取れたと思います。実際にレフェリーはそういう状況を感じながら、試合をコントロールしています」

以上がフィジカルコンタクトの解説だった。現代ルールは選手の安全性を重視している。この点はしっかりと認識し、タックルの方法など、改善すべきところは改善しなければならない。

オフサイド判定について

J1第6節、浦和対仙台の前半27分の興梠慎三のゴール、横浜対磐田の前半26分のマルティノスのゴール、J1第8節の浦和対札幌の前半34分の兵藤慎剛のゴール。

いずれも直接マークしている選手との関係ではオフサイドに見えるが、別の地点にほかの選手がいる。比較する選手の位置が遠いため、視認は難しく、タイミングも微妙だが、3つともオフサイドではないと正しく判定され、ゴールが認められた。

一方、次の2つの判定は、オフサイドポジションにいた選手が、オフサイド判定の対象になるか否かが焦点になる。ボールに触っていなくても、相手競技者にぶつかったり、視線を遮ったりと妨害行為があれば、オフサイドが妥当だ。

J1第7節の磐田対鳥栖の後半アディショナルタイム、磐田のムサエフが打ったシュートはゴールネットを揺らし、得点が認められた。オフサイドポジションには磐田の櫻内渚がいたが、シュートを打った瞬間の映像では、櫻内はGKの視線を遮るポジションに立っていない。ところが……。

「非常に難しい判定ですが、オフサイドを取るのが妥当と考えます。この場面は副審から(無線を介して)主審にコメントが伝わり、(櫻内が)オフサイドポジションにいたことはわかっていましたが、主審はこの選手がGKの視線を遮っていないと判断し、得点を認めました。しかし、実際は(打った瞬間ではなく、ボールが転がっていくときに)ボールに対してGKの視線を遮っています。それから、このオフサイドポジションの選手は、GKに近いところに立っています。近い位置にいれば、視線を遮る時間も長くなります」

主審はゴールを認めたが、実際はオフサイドが妥当。もし、シュートがオフサイドポジションの櫻内のほうではなく、反対側に打たれていれば、櫻内はプレーに関与なしと考えられるが、この場面は同サイドにシュートが来て、GKの視線を遮る時間があったため、オフサイドが妥当と示された。

J2第5節、山口対讃岐の後半4分のシーン、こちらはオフサイドポジションの選手がGKの視線を遮ったのが明らかだった。ボールはゴールネットを揺らしたが、主審はオフサイドを取り、得点を認めていない。

「レフェリーは非常に良いポジションで見ました。副審は横の位置から見ているので、オフサイドラインは見えますが、GKの視線を遮っているかはわかりません。シュートが打たれるときは、ハンドが起きる可能性もあり、主審は縦の位置から見れる位置につくように指導しています。主審のポジションが良く、副審とも良い協力をしました」

オフサイド判定の最後は、福岡対町田の後半アディショナルタイムのゴール。中島裕希はラインより前に出ていたが、そもそも自陣内。オフサイドラインはどんなに高くてもハーフウェイラインが最大で、自陣ではオフサイドにならない。最後は初歩的なルールの確認で終わった。

以上がオフサイド判定の解説だった。

後編はペナルティーエリア内の事象について、ブリーフィングの内容をお送りする。

後編はこちら

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

清水英斗の最近の記事