【Jリーグ判定】あのPKは妥当か? 意図せずとも”不用意な”ファールに注意!
退場やオフサイドだけでなく、PKにつながる判定も、試合の結果を大きく左右するため、サッカーでは大きな議論になりやすい。
4月28日に行われた第2回JFAレフェリーブリーフィングでは、フィジカルコンタクト、オフサイドに続き、ペナルティーエリア内の事象についても、映像を使って解説された。
【前回記事はこちら】3つのレッドカードが妥当と認定。「ボールに行ったじゃん!」で見過ごされがちな判定基準
まずはJ2第6節、水戸ホーリーホック対レノファ山口の後半33分。
接触の原因を作ったのは誰か?
ペナルティーエリア内でボールを持った山口のMF小野瀬康介を、水戸はDF細川淳矢が後ろから倒してしまい、守備側のファールでPKとなった。これを決めた山口が1-1の引き分けに持ち込んでいる。しかし、JFA審判委員会の上川徹副委員長は、このシーンを次のように解説した。
「まず、ポイントとして守備側の24番(細川)の動きは、何かチャレンジをしているでしょうか? 当たった瞬間だけを切り取ると、後ろからチャージしているように見えます。でも、このチャージを作ったのは、どちらかといえば攻撃側でした。24番(細川)は何もしていない。後ろからの接触は、8番(小野瀬)がその状況を作っています」
つまり、PK判定は妥当ではなかった。焦点となるのは、その接触の原因がどちらの選手にあるのか、だ。
細川は真っすぐボールに向かったが、その手前に小野瀬が足と腰をグッと出したことで、接触が起きている。これは細川には避けられない。一見するとチャージを受けて小野瀬が倒されたようでも、接触の原因が本人にあるとすれば、倒されてもファールは妥当ではない。
「あとはノーファールか、シミュレーションか、ですね。基本的にシミュレーションの考え方は、全くコンタクトがないのに倒れたか、あるいは自分から接触を起こしたかです。見ようによっては自分から接触を起こしたようにも見えるので、これは難しいですが、コンタクトもありますし、ノーファールとするのが妥当ですね。もう一つ考えるとしたら、こういう行為を繰り返している選手かどうかです。その場合はシミュレーションと判断して警告もあるのかなと」
さらに上川氏は、判定ミスが起きた場所にも言及した。この事象が起きたのは、ゴールライン寄りのペナルティーエリアの角、副審がいるほうのサイドだ。
「このエリアでのミス、J1だけの分析ですが、昨年も副審サイドの奥深いところでのミスがいちばん多かったです。このエリアまでは、主審が近づきにくい。あまり近づくと、選手が多くてぶつかったり、ボールが跳ね返ったりするリスクがあります。トリッピング(足で引っかけること)は見極めやすいですが、ホールディング(相手を手で押さえて妨害すること)や、ハンド(ボールを意図的に手で扱うこと)は難しいです。副審と協力して、仮に追加副審がいれば、違う判定ができたのかもしれません」
倒した、倒されたの関係だけでなく、その接触の原因を作ったのは誰なのか。そんな視点が重要になる。
次のシーンは、J2第8節のモンテディオ山形対東京ヴェルディ、後半35分だ。
ロングボールに走り込んだ東京VのFWドウグラス・ヴィエイラが、山形のDF高木利弥ともつれて倒れた。主審はノーファールと判定したが、この場面はどうか?
「(DF高木は)ボールに触れています。もちろん、先に身体にコンタクトして、崩してからボールに触れたのならファールですが、ここでは27番(高木)は正当にプレーしています。シミュレーションでもなく、通常のコンタクトと考えます」
先にボールに触り、なおかつ、その後の接触が通常のコンタクトの範囲内であれば、もちろんノーファール。主審は妥当な判定を下した。
3つめのシーンは、J1第6節のガンバ大阪対サンフレッチェ広島、前半27分だ。
意図せずとも”不用意な”ファールに注意
スルーパスに走り込んだ広島のFW工藤壮人が、G大阪のDFファビオに後ろから倒されたが、主審はノーファールとした。
「50番(工藤)はペナルティーエリアの外で接触され、バランスを崩しています。しかし、我慢してプレーを続け、その後に足が接触します。この足も、ちょっとしか接触していません。引いた映像で見ると、50番(工藤)が大げさに倒れたようにも見えます。主審は50番(工藤)が、後ろから来る相手に対し、スピードを緩めて接触を引き起こしたと。守備側(ファビオ)に接触の意図はないと判断して、ノーファールとしました」
この場面の判定が難しいのは、接触が軽度であることと、守備側のファビオに接触しようとする明確な意図が見られないことだ。だからこそ、主審はノーファールとした。
「しかし、50番(工藤)がスピードを緩めたのは、なぜでしょうか? 最初にペナルティーエリアの外で当たられて、バランスを崩したからです。一方、守備側(ファビオ)は、相手を止めるトライはしていませんが、この接触を作った不用意なアプローチをしています。真後ろから不用意に追いかけること。それは接触が起こるリスクが充分に高く、実際に50番(工藤)がプレーを続けられなくなりました。それは反則です。
(ファビオに)接触する意図がないため、難しいですが、後ろからアプローチすることの不用意さは無視できません。それは選手の技術の問題です。接触でプレーができなくなったのなら、反則と判断しなければいけません。そういう目で判定しないといけない競技規則になっています」
つまり、この場面はPKが妥当だったと、上川氏は結論付けた。
同様のシーンは約6分前のG大阪側にもあり、FWアデミウソンがシュート際に手をかけられ、バランスを崩して倒れたが、ノーファールの判定だった。これも軽度な接触だが、FWアデミウソンがプレーを継続できなくなった以上、反則と判断しなければならないことになる。広島とG大阪、双方から意見交換の申し出があり、本来はお互いに1本ずつのPKがあったと、反省が行われた。
「ACLに出ているクラブの強化担当者からは、“海外のほうが厳しい”、“こういうプレーでPKをよく取られる”と聞きます。これを反則としていかなければ、もし、反則じゃないと思う選手がいるなら、判定の方向性を示さなければならないと思っています」(上川氏)
今季は試合後に、クラブの代表者とレフェリーアセッサー(評価をする人)が意見交換を行っている。シーズン途中でも、何かあればすぐに情報を共有できる。審判委員長の小川佳実氏によれば、「クラブの強化担当者は、試合直後にレフェリーのエキスパートに話を聞き、すぐに選手にフィードバックして、良いプレーをするための教育をしたいと。そう捉えているクラブもあります」とのこと。判定の方向性についても、素早いフィードバックが期待できるだろう。
4つめのシーンは、J1第8節の浦和レッズ対コンサドーレ札幌、後半27分だ。
抜け出した興梠慎三が倒れてPKが与えられた場面。これをシミュレーションと考えた人は多いが、実際はどうなのだろうか。
「(興梠の)左足が(DF横山知伸の)左足に当たり、払われています。前に走ろうとしましたが、バランスを崩して倒れました。これはサッカーではよくあります。守備側にファールの意図がなくても、不用意にアプローチするリスクを考えなければいけません。主審は本当に良いポジションで判断してくれました。自信を持ってシグナルを出しています」
PK判定は妥当だった。
5つめのシーンは、J1第8節の柏レイソル対横浜F・マリノス、前半23分だ。
左サイドからのクロスがワンバウンドし、ペナルティーエリア内でトラップしようとした横浜FMのDF金井貢史が、ボールを腕に当ててしまった。すぐにPKを示す笛が吹かれている。
「これはハンドです。距離は充分。ボールの方向も軌道もわかります。トラップしようとして手に当たったのかもしれませんが、それは技術の問題です。軌道を予測できる時間が充分にある中で、ボールが手に来たわけではなく、手でボールに触れたので、PKと考えます。
あとは警告するかどうか。ハンドがなかったときに柏の選手が前を向いて受けられるなら、警告が必要ですが、ボールは後ろ側に出ており、そんなに大きなチャンスになるシーンではないと判断します」
警告なしでPK。主審の判定が妥当だった。
6つめのシーンは、J2第5節のロアッソ熊本対大分トリニータ、前半14分だ。
熊本のMF嶋田慎太郎が打ったシュートが、大分のDF竹内彬が上げた手に当たったように見えるシーン。主審はノーファールで流している。
「手の位置が嫌ですよね。選手は手を上げることで、ハンドを取られるリスクを考えないといけません。このシーンもそうですね。ただし、どちらにしても、レフェリーはボールが腕に当たったと判断できなければ、ハンドは取れません。我々は(手ではなく)顔に当たっていると見ます。手に当たっていればハンドですが、難しいです。試合後の意見交換で、映像を何度見てもハッキリわかりませんでした」
ここで重要なことは、レフェリーは自信を持てる判定に対して笛を吹くということ。
「レフェリーは、”顔に当たったと判断しました”と言っています。難しいです。レフェリーには“ハッキリわからなかったらノーファールにしてください”と伝えています。手が上がっているだけでは反則にしない。それは逃げではなく、どちらかわからなければ、ノーファールとしています」
疑わしい所作があっても、想像で笛を吹くことはできない。目でしっかりと事象を確認できたときに笛を吹く。それがレフェリーという仕事だ。このような視点も知っておくといいかもしれない。
ペナルティーエリア内のファール判定は、本当に微妙で難しいが、上川氏は「みんなが納得する判定を作ることも我々の目的のひとつ」と言っている。どんな判定を下しても、逆のチームからは不満が出るのが常だ。だからこそ、判定の基準を整え、それを共有し、ハッキリと自信を持てる笛を吹いていくことが重要になる。